第3話 NTR勇者は辺境の地でスローライフを

 村長タルモレアの家に招かれ、お邪魔することに。

 三階建ての立派な邸宅いえがあった。さすが村長ともなるとスゲェや。


 広間らしき広い部屋に案内されると、そこには見覚えのある女性が立っていた。

 ゴブリンに襲われていた人だ。


「あの時はありがとうございました」


 深々とお辞儀をする女性。

 大人びていて品があって綺麗な人だなと俺は思った。


「いえいえ。それより、なぜここに?」

「申し遅れました。私は村長タルモレアの娘でラフィネと申します」


 これは驚いた。村長の娘だったのか。

 オーロラも同様に目を白黒させていた。



「私からも礼を。ありがとうございますですじゃ、勇者殿」



 村長も頭を下げていた。



「俺は当たり前のことをしただけです」

「さすが勇者殿じゃ! どうかね、ラフィネと人生を共にしてみんか」


 と、村長は提案する。瞬間、ラフィネは顔を赤くして「わ、私はいいですけど……」と小さな声でつぶやいていた。マジか。


 こんな美しい女性と結婚できるなんて幸せだろうなぁ、と少しだけ妄想にふけているとオーロラが割って入ってきた。



「ざ、残念ですが、エルド様のお相手はわたくしと決まっていますので……!」



 妙に声が震えているぞ、オーロラ。

 てか、いているのか……?


「そうでしたか……」


 肩を落とすラフィネだが、俺は一応フォローした。



「俺とコイツは特になにもないですよ」

「よかった~! チャンスはあるのですね!」

「ああ、多分ね」


 そんな風に無難な解決に向かわせていると、オーロラが背を向けて外へ行ってしまった。……お、おい?


 仕方ないな。


 追いかけて直ぐに手を掴んだ。



「……っ」

「どうした、オーロラ」

「エルド様は、胸の大きい女性が好みなのですねッ!」


「はぁ!?」


「あの方、とても大きくて! わたくし敵いそうにありません!」



 涙目で叫ぶオーロラ。おいおい、こんな村の中心で!

 てか、オーロラも十分デカいじゃないか。

 シスター服越しでも凄いぞ。……って、なにを言っているんだ俺は。



「オーロラ、村長の家に戻るぞ」

「……でも」

「俺はお前といるよ……」


「え」



 きっとあの時、オーロラは――。



『ザンッ』



 妙な音がオーロラの付近で突き抜け、俺は回避。しかし“何者か”が彼女を人質に取っていた。

 ……なっ、いつの間に!



「ハハッ。勇者エルドよ、よくも上級騎士10人を倒してくれたな」



 そこにいたのは、明らかに村人ではなさそうな貴族の男だった。……なんだ、この無駄にダンディな男。身なりが良すぎる。

 アレはシュヴァルク王国の貴族、それもかなり階級の高い貴族しか着られない『アビ・ア・ラ・フランセーズ』という軍服だ。



「お前……まさかハルネイドか!」

「その通り。だが、様をつけろ、様を!」


「貴様! 俺のティアナ姫を奪いやがって……!」



 そうだ、この男はティアナ姫を寝取った男。まさか向こうから出向いてくるとは思わなかった。ならば、受けた屈辱くつじょくを剣で返してやる。



「当然だろう。エルド、お前は姫を満足もさせてやれない童貞勇者だ。いいか、顔と体だけは私の方が上だったわけだよ」



 思えば、ティアナ姫もなぜこんなヤツと!

 二人は同罪だ。

 魔王を打ち滅ぼし、世界を救った俺に対する冒涜ぼうとくですらある。



「もういい。オーロラを放せ。その子は関係ない」

「関係あるだろ。見ていたんだ、お前がこのシスター服の少女とつるんでいるところをなァ!」


 なるほど、遠くから監視していたんだな。あの10人の上級騎士を連れ歩いてきたのも、ハルネイドなのだろう。

 俺を始末したくて、ずっと追ってきていたんだ。

 なんて野郎だ!!


 悪徳貴族以上! 魔王よりも性質タチが悪い!



「後悔するぞ、ハルネイド……!」

「ほぅ? やれるモンならやってみな! お前が一歩でも動けば、このシスター服の少女の首と胴体がさようならするぞ」



 腰に携えている黒い件を抜くハルネイド。なんだ、あの剣。

 観察していると、ハルネイドはオーロラを人質に取りながらも剣を振るってきた。この野郎ッ!


 ギン、ガンッと刃と刃が激突し、火花を散らす。


 この男、思ったよりも強い。

 だが俺ほどではない


 恐らくあの黒い剣の“補助効果”によって強化されているのだろう。



「てやッ!!」



 突きを入れると、ハルネイドはギリギリでかわしていた。頬をかすめた。



「ぐうぅぅぅ……! さ、さすが勇者エルド!」




 距離を取るハルネイドだが、オーロラが急に「いい加減にしなさい!!」とブチギレた。しかも、拳を振り上げてハルネイドのアゴに一発入れていた。


 な、なんて大胆なことを!



「ぐおおおおおッッ!?」



 まさか聖女に殴られるとは思わなかっただろうな。という俺も、まさかオーロラが人をブン殴るとは思わなかった。恐らく、接近タイプの聖女だな、あれは。



「女の子にベタベタ触れるなんて最低です!」



 ぷんぷんと怒るオーロラ。おかげで人質から勝手に解放された。よし、これで気兼ねなく…………う?



「うおおおおおおおおおおお!」「勇者様を守れえええ!」「またあのクソ貴族ハルネイドか!」「あの野郎、性懲りもなく!」「辺境の地ゼルファードの出身のクセに!」「この恩知らずが!!」「さっさとクソ王国へ帰れ!」



 と、村人が怒りに燃えてハルネイドを取り囲んだ。その数、20……いや30!



「……え。まて、お前ら! 私はハルネイドだぞ! 近々姫と結婚して王子となるのだ。そんな私に手を出したら王国が黙っちゃいない!!」



 ハルネイドは必死に訴えかけるものの、村人達はまるで聞いちゃいなかった。棍棒こんぼうを握りしめ、そのままハルネイドをボコボコにしていた。



「馬鹿息子がああ!!」「お前というヤツは!!」「いつからそんな口を!」「今度は手も足も全部折ってやる!」「いや、命もいらんだろ!」「ギタギタにしてやる!」



「や、やめやめやめろおおおお、うあああああああああああああッ!!」



 容赦なくズタボロにされるハルネイド。

 そうか、そうだったのか。

 この辺境の地ゼルファードの村人は強くてたくましいんだ。そして、優しい。



 ◆



 三日後。

 辺境の地ゼルファードに新居が出来た。ここが俺とオーロラの住む新しい家だ。


「ついにスローライフ開始ですね!」

「ああ、でもここからがスタートだ」



 ハルネイドをボロ雑巾にして以来、シュヴァルク王国のカイゼルス王は激怒しているという。近いうちに、このゼルファードに侵攻してくるかもしれない。そんな情報が風の噂で耳に入った。


 でも大丈夫。


 この俺が全員守ってみせる。


 尚、ティアナ姫は変わり果てたハルネイドに絶望して、寝込んでいるようだ。度々俺の名を口にしているようだが、もう遅い。

 俺はこのゼルファードとオーロラと共に歩む。


 いっそ、この村を大きな国にしてやるのもいいだろうか。



「あの、エルド様」

「どうした?」


「……将来を共にしてくれますか?」


「その前にひとつ教えてくれ」

「?」


「商人の正体はお前なんだろ」

「……乙女の秘密ですっ」



 人差し指を口元にあて、ウィンクするオーロラ。分かりやすいウソに俺は苦笑した。


 しかし、魔王討伐後にこんなことになろうとはな。


 これでは『NTR勇者は辺境の地でスローライフを』って感じで、ちょっとイヤだ。



 だが、まあいい。

 俺は今、隣で太陽のように笑う聖女が――好きで好きでたまらないのだから。



- 短編版・完 -



◆ありがとうございました!

 カクヨムコン用短編版はこれにて完結です。

 とてもご好評いただいておりますので、長編版を検討中です!

 また気に入っていただけたら評価いただけますと幸いです。


 それと文字数的に少し余裕あるので『番外編』を追加いたします。


他の作品はこちら

https://kakuyomu.jp/users/hana6hana/works

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