第三十話「ミッション1 『潜入作戦を実行せよ』」
砂の感触がまだ体中に残る中、俺とフィーレは放心状態で砂山の上に座り込んでいた。
「……死ぬかと思った」
砂まみれの頭を振りながら呟く俺。
「……柊さん、なんで砂の家なんて作ったんですか?」
フィーレは淡々と砂を払いながら、冷めた目で俺を見つめている。いや、確かに彼女の言う通りだ。俺も何でそんなものを作ろうと思ったのか……。
「いや、その……省エネでいけるかと思ってさ。材料がそこら中にあるし、ちょっとした工夫で快適になるかなって……」
「その結果、埋もれたわけですね」
「……ごもっとも」
砂の家、失敗作。もう二度と挑戦しないと心に誓った。
「でも、これからどうします? こんな暑さで他に影になる場所もないですよ?」
フィーレの指摘に俺は周りを見渡す。確かに、この砂漠に影なんてものはほとんど存在しない。こんな状態で動けば熱中症になる……最悪の場合、俺達には死が待ち受けている。
「……とりあえず、進もう。街を探せばなんとかなるだろ」
「……はい」
フィーレも諦めたように返事をして立ち上がった。
砂漠の過酷さを身をもって知った俺たちだったが、それでも前に進むしかない。
地平線の向こうに、きっと希望があるはずだ――そう信じて歩き出した。
砂漠を抜けるのは簡単じゃない。でも、この旅が俺たちに何かを教えてくれる……そんな気がしてならなかった。
……
…………
………………
「……ダメだ」
「なんでだよ! 俺ら怪しいもんじゃないぞ!」
「そうですよ! 柊さんの言う通りです! 私達は敵じゃありません!」
あれから俺とフィーレは、ようやくたどり着いた街らしき所の門番に絶賛止められていた。
「怪しさしかないだろう! なんだその格好は! 貴様ら兄妹か?」
「「違います」」
誰が兄妹だ。こんな手のかかる妹が居てたまるか!
「こんな頼りないお兄ちゃん居てたまりますか!」
お前思ってても口に出すなよ……ちょっと傷つくだろ……。
「なぁ門番さん、俺ってそんなに頼りないように見えるか?」
「知らねーよ! でも……お嬢ちゃん、それは兄ちゃんが可哀想だから思ってても口には出さない方がいいと思うぞ?」
「門番さん…………!」
俺は門番さんの言葉に思わず涙が……まぁ出ないけど。
「さすが門番さんだ! ってことで、はいってもいいですか?」
「それは別だ」
「ですよねー」
ちぇっ。もしかしたらって思ったのに、ちゃんと仕事とプライベートは分けるタイプかこいつ。
「で、どうしますか? 柊さん」
「……この門番、頭固そうだ。出直すぞフィーレ」
「……頭が固くて悪かったな」
俺とフィーレは門番から離れる。
「…………これからどうしますか、柊さん」
「………………俺に案がある」
何も入口は一つとは限らない。
「いいかフィーレ、バレなければ犯罪は犯罪じゃないんだ」
俺は不安そうなフィーレを横目に、そう言い放った。確かに、今の状況では他に選択肢はない。街に正式に入る方法は完全に塞がれているし、空腹と疲労が蓄積している。今すぐにでも何とかしないと、俺達はこの砂漠で行き倒れになるかもしれない。
「……え、柊さん何する気ですか? ちょっと嫌な予感がするんですけど」
フィーレは目を見開いて、俺の言葉に反応した。俺の行動がどう転ぶか、分かっているのか心配しているのだろう。でも、もう後戻りはできない。門番に足止めされている今、やるべきことは一つだ。
「正式に入れないのなら、別の入口を作ればいい。不法侵入というやつだ。仕方ないだろ、だってあの門番、頭固いし。あのまま話してても埒が明かない。俺とフィーレは空腹だし、疲れている。このまま砂漠で足を止める訳にはいかないんだ……となると、もう不法侵入くらいしか手は無いだろ」
フィーレはまだ不安そうな顔をしているけど、俺の言葉に覚悟を決めたようにうなずいた。
***
早速俺とフィーレは街の裏側に回り込んだ。目の前にそびえ立つ五十メートルほどの高い城壁を見上げ、俺は考える。これを乗り越えるのは無理だろう。大型の巨人じゃなければ、どうにもならない。
「――いいか、作戦はこうだ」
俺はフィーレに作戦を説明する。といっても実は大したことはない。俺が思いついた方法は至ってシンプルだ。
「フィーレ、空に『ファイアーボール』を撃って、騒ぎを起こしてくれ。その隙に、別の場所から俺がスキル『イリュージョン』で壁に小さな穴を開ける。誰にも気づかれずに、俺達だけ入れるようにするんだ」
フィーレが心配そうに見つめてくるが、俺の言葉に頷く。
「よし、早速作戦開始だ。フィーレ、頼む」
「はい! ……柊さんを信じます! 『ファイアーボール』!」
フィーレが炎の玉を空に打ち上げる。その瞬間、城壁の内側から騒がしい声が聞こえてきた。予想通りだ。住民らしき者たちの慌てた声が響いてくる。
「何事だ!?」「なんだあれは!?」「侵入者か!?」
その隙に、俺達は別の場所に移動する。
「……よし、この壁でいいだろう」
俺は少し離れた場所で、エルムスのじいさんから貰った杖を振る。壁に向かって魔力を注ぎ込む……なんて魔法使いらしいことが出いない俺はいつものスキルを唱える。
「『イリュージョン』!」
音も無く、壁に小さな穴が開いた。ちょうど人が通れる程度の大きさだ。
この『イリュージョン』の原理を一応説明しておくと、使用者の現在のステータスを参照し、実現可能な事を時短で出来るスキルだ。便利ではあるが、魔法ではないから炎を出したり、空を飛んだりなんて魔法使いらしい事は出来ない。俺に出来るのはせいぜい魔法使いの真似事だ。
「よし、フィーレ入るぞ」
「はい!」
俺とフィーレはその穴から、壁の内側に忍び込む。
これでバレずに侵入できたはず……!
「………………柊さん」
俺はフィーレの声に反応する。お互いに、視線を向ける先にあったのは、武装した兵士たちの視線だった。
「……は、初めまして」
どうやら、俺が開けた穴は王城の内部、エントランスに繋がっていたらしい。警備兵たちは、ただ寛いでいるだけで、まさか壁から人が出てくるとは思っていなかったに違いない。
「…………侵入者だぁぁぁぁぁぁ!! 捕まえろぉぉぉぉぉ!」
その声と同時に、俺たちは反応する間もなく捕まった。
「柊さんのばかあああああああああ!」
フィーレが叫びながら、俺を見てきた。その顔を見て、思わず反省した気持ちになるが、もう遅かった。
「すまんんんんんんんんんんんんん」
完全に計画が崩れた。次はどうするか……頭を抱えた瞬間、すでに捕まっている現実を受け入れなければならなかった。
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