第四話「レベリング」
次の日、俺とフィーレは冒険者ギルドにやってきた。勿論、クエストである。
「トロールより強いやつないですか?」
「トロールより、ですか? ……柊さんの成績でしたらマンドラゴラゴンなんてどうでしょう」
「……なんですかそれ」
「マンドラゴラという寄生植物を背に生やしたドラゴンです」
いやだからそれがなんなんだよ。……まぁいいか。異世界に俺の常識は通用しない。
「よく分からないけどそれで」
「はい、ではこちらで受諾します」
***
ということでマンドラゴラゴンとかいう奴を倒しにやって来た。
受付のお姉さん曰く、マンドラゴラという巨大な植物を背に生やしているからすぐに分かるとのこと。その生物は森に生息しているという。
「……木が邪魔だな」
「そうですね……燃やしますか?」
「やめろ、山火事になるだろ」
フィーレはもしかして天然なのか……? 冗談なのか本気なのかよく分からない。
「あ…………居た」
俺は見つけた。マンドラゴラゴンとか言うやつを。見た事が無い俺ですら一発で分かった。背中に大きな植物を生やしているドラゴン。そのまんまだった。
このマンドラゴラゴンというモンスターは寄生植物のマンドラゴラがドラゴンに寄生することで生まれたモンスターなのだとか。
寄生されたドラゴンは寄生植物に神経を奪われ、翼が機能しなくなり飛べなくなる。
つまり、地上のドラゴンだ。しかし、飛べないとはいえドラゴンなのは変わらない。トロールよりも強いのは明らか。
「じゃあやるか」
「……え? あれと戦うんですか」
「ああ、正面からだと面倒だ。不意をつく感じで殴る」
「…………え?」
俺はフィーレにここで待てと指示を出し、ドラゴンに向かってこっそり近づく。足跡を立てないよう慎重に。そんな俺のスニーキングはマンドラゴラゴンにどういう訳か見つかってしまった。
――まずい! 気付かれた! やっぱり腐ってもドラゴンか! ゴブリンなんかよりも知能が高い!
マンドラゴラゴンはブレスを吐こうと口を開けた。
だが、もう俺の射程圏内だ。俺は思いっきり杖を振りかぶる。
脳天目掛けて振りかぶった杖は鈍い音を立て、マンドラゴラゴンはブレスを吐く間もなく口を開いたまま地面に倒れこんだ。
「……ふぅ、流石に振りかぶると一撃か」
「…………柊さん……何者なんですか……」
フィーレは言葉も出ない様子だ。
【レベルが三十二に上がりました】
おお、こいつ経験値高いな! 二も上がったのは多分、以前のトロールの経験値がストックされていたからかもしれない。とはいえ、このマンドラゴラゴンは経験値が高い。こいつを狩り続ければレベル上げの効率も良さそうだな。
「なぁフィーレ、このマンドラゴラゴンだが、もっと倒してもいいか?」
「………え? あ、はい……でもクエスト依頼は一体だけでは?」
「別に何体倒しても大丈夫だろ。フィーレは俺の後に付いてきてくれ」
俺は更に森の奥に進んだ。見つけては殴るの繰り返し。やはり知能が高いのか、何度やっても完全に背後を取ることは出来ない。
しかし、近くまで行ければ十分俺の杖の射程範囲内。さっきと同じ要領で次々と地上のドラゴンをシバいていく。
………
………………
…………………………
【レベルが三十九に上がりました】
「……ふぅ……だいぶ倒したな」
「そう……ですね」
マンドラゴラゴンをかれこれ十体は狩った気がする。あと一体くらい倒せばレベル四十で新しいアビリティが貰えるはずだ。
「よし、あと一体倒そう」
「もうこの森には居ないんじゃないでしょうか……?」
俺たちがこの森に入って四時間は経過していた。昼頃にこの森に入ったからそろそろ夜か。流石に夜の森は危険か。……仕方ない。
「……帰るか」
「……え? いいんですか?」
「ああ、夜の森ほど危険なものは無いしな」
明るい内に俺達は森を出る事にした。さて、マンドラゴラゴンの戦利品もゲットしたし、これは高く換金出来るんじゃないだろうか。
マンドラゴラゴンの角や
俺達は戦利品を手に冒険者ギルドに向かう。
ぶっちゃけ素材とかどうでもいい。俺が欲しいのは金と丈夫な杖だけだ。
***
「こちら全てで二十万ルピになります」
「……まじですか」
「良かったですね! 柊さん!」
いきなり新卒の給料並に貰えたぞ……。よしよし、これで少しは贅沢出来そうだな。今日はいつもの店に行こう。
「いらっしゃいませ! あっ! お久しぶりです柊さん☆」
「ああ、久しぶりだな」
相変わらずギャルだなこの店員。
「今日は何にしますか〜?」
「少し金が入ったからな、なにか無いかと思ってな」
「何かと言われても……具体的になにが欲しいとか言ってくださいね☆」
うーん、杖はもう間に合ってるしな……。なにかアクセサリーのようなものは無いだろうか。
「なぁ、追加効果のある装飾品みたいなものはあるか?」
「ありますよ☆」
「おおーまじか! なら、物理ダメージが上がるやつくれ!」
「……魔法使いなのに物理ですか?」
フィーレが俺に聞いてくる。
「ああ、魔法は使え……使わないからな。俺の魔法は強すぎてこの世界の大地が耐えられないんだ」
「凄い!! いつか見てみたいです!」
……ああ、それは俺も常々思ってるよ。いつか俺が魔法を撃てることを期待してる。
「ピアスなんてどうですか☆」
「ピアスか……」
前世ではピアスなんてするやつの気が知れなかった。だっておしゃれなのか知らないが痛い思いしてまでなんで耳に穴あけ――
「はい、こちらは挟むタイプなので痛くないですよ☆」
「よし、くれ」
「毎度あり〜☆」
ギャル店員がくれたピアス、もといイヤリングは中々地味なものだった。真っ黒な勾玉のようなもの。恐らく魔物の牙かなんかだろう。
早速俺は付けてみた。
(確かに痛くない)
すると、俺の目の前にいつもの画面が出てきた。
【戦士のピアス】
・物理ダメージ五パーセント上昇
別に俺は戦士では無いが物理ダメージ上昇はありがたい。武器は無理でもアクセサリー類なら装備できるのか。これはいいことを知ったな。
値段は五万と少し値は張るが仕方ない。これもなるべく、一撃で落とせるようにする為だ。一撃で終わらせれば、杖への負担も減るからな。
俺の第一優先事項は、杖を壊さないことだ。
「まいどあり〜☆」
その後、俺とフィーレは店を出た。
***
宿に戻ってきた。
「ふぅ……疲れた。……あ、悪いいつものクセで」
「そうですね……今日は私も疲れました」
「悪いな、俺の都合で色々歩き回らせて」
「いえ! 見てて楽しかったです!」
あんなもの見て楽しいと思えるのは多分お前だけだフィーレ。
杖を持った魔法使いが森の中でドラゴンを殴りまわっていく……。これだけ聞いたら意味がわからないことだろう。少なくとも俺はわからん。
「『マイステータス』」
レベル三十九か……あと一あげれば四十だ。早く上げて新しいアビリティが欲しいところだ。なんだか明日が楽しみになってきた。
「ニヤニヤしてどうかしましたか?」
「いや、ステータスを見ていたんだ」
「……ステータス?」
「いや、これなんだが」
俺は目の前に見える半透明の画面を指差した。
フィーレは首を傾げた。
……なるほど、このステータス画面はやはり俺にしか見えないのか。やっぱりこれは転生者の特権みたいだな。となると、もし勇者が転生者ならそいつも俺と同じくステータス画面を所持している可能性がある。
なにか俺が知らない情報を知っている可能性もある……もし会うことが出来ればステータス画面についても聞いてみよう。
友好的であれば良いんだが。勇者というからには悪いやつでは無いんだろうが、万が一ということもある。少なくとも俺より弱い、なんて事はないだろう。なんせ勇者という大層な肩書きを持つのだから。
「さて、寝るか」
「はい」
俺は床で、フィーレはベッドで。
するとフィーレが声を上げた――
「――ちょっと待ってくださいよ!」
「ん? なんだよ」
「なんでよじゃありませんよ! なんで床で寝てるんですか! ベッドで寝て下さい!」
「いや……でも一つしかないしな。事実昨日も床で寝たんだが?」
「ですから昨日起きた時ビックリしましたよ! 柊さん床で寝ているんですから! そんな所で眠っても疲れなんて取れません! こっちで一緒に寝ましょう!」
と、ベットをバンバンと叩いてこっちに来いと言うフィーレ。まぁフィーレがいいなら俺は構わないんだけど。
普通こういうのって女の子が嫌がるもんじゃないのか? こいつには恥ずかしいとかそういうのは無いんだろうか?
「じゃ、お言葉に甘えて」
「……はい。そうして下さい。私は寝ます、おやすみなさい」
俺は言われた通り、ベッドの半分を陣取った。フィーレは反対側を向いて眠った。
……なんだよお前も恥ずかしいんじゃないか。いや、向き合って寝る方がおかしいか。恋人じゃあるまいし。
そして今日も俺とフィーレは眠りについた。今度は同じベッドで。
◇◇◇
《
Lv.39
HP【4900/4900】 MP【0/0】
STR【500】 ATK【50】
VIT【50】 DEF【50】
INT【50】 RES【50】
DEX【50】 AGI【50】
LUK【0】
アビリティ:【不器用な魔法使い】
アビリティ:【魔法使いのとっておき】
アビリティ:【魔法使いの最終手段】
スキル:【無し】
装備:【戦士のピアス】
◇◇◇
【不器用な魔法使いLv2】
・与える物理ダメージ3倍
【魔法使いのとっておきLv2】
・物理ダメージのクリティカル率100%+10%ダメージ上乗せ
【魔法使いの最終手段】
・杖所持→未所持になった場合のみ、10秒間物理ダメージ5000%上昇
【戦士のピアス】
・物理ダメージ5%上昇
◇◇◇
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