第5話

その父がまさか──……


「なので昨日付けで会社は倒産。多額の負債だけが残りました」

「負債っていくらよ」

「凛子様にいってもどうにもならないぐらいの途方もない金額です」

「そ、んな……」


あまりにも突然のこと過ぎて何をどうしたらいいのか全く分からず、力無くその場にへたり込んでしまった。


「既に負債に充てられるものは全て抵当に入っています。この屋敷もそのひとつになります」

「……」

「屋敷に勤めていた従業員には細やかながら退職金を配り全て解雇しました。残るは凛子様ただひとりということになります」

「……ちょっと待ってよ、お父様は?」

「……」

「お父様はどうしたのよ! 昨日朝、私が出かける時に挨拶したきりで今日はまだ会っていないわ。お父様に会わせてよ!」

「いらっしゃいません」

「どういうことよ!」

「今頃はインド洋周辺の海域を目指しているのではないでしょうか」

「は?」

「社長は少しでも借金返済をするために昨日午後から遠洋マグロ漁船に乗り込んでいます」

「?!」


(嘘っ!)


信じられないという顔で茫然としている私に彼、加々宮天眞かがみやてんまは続けた。


「さぁ、必要最低限の物を鞄に詰めて屋敷から出てください」

「! 天眞、あんた何様よ! 私にそんな口をきいて──」


天眞を叩こうとして振り挙げた腕は簡単に受け止められてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る