お前の人生がクソなのは転生者どものせいだ。~異端審問官、かく語りき~
十文子
0話 お前と俺の話
異端審問官はかく語りき
なんでそんなにお前は不幸なんだ。
「親ガチャに失敗した」「まともな女に相手にされない」「ビットコインを安い時に買いそびれた」「才能がない」。
お前のたよりない胸は深い絶望でいまにも弾けそうだ。それは努力が足りないせいか? そういう運命なのか?
いやちがう、運が悪かっただけだ!
……何をそんな間抜けな顔をしている。安心しろ、ちゃんとわかるように説明してやるから。
『マルチバース仮説』という理論がある。
世界というのは大きな水風船のようなもので、その中にたくさんの小さな『泡』が浮かんでいる。それぞれの泡が、俺たちが住んでいる宇宙だという仮説だ。
原初の時代、俺が「三千世界」と呼ぶこの世界にはひとつの泡しか存在していなかった。
その泡は、神と呼ばれる上位存在が無から生み出したものだ。神が生み出した唯一の泡。それがお前の住んでいる宇宙だ。
だが、今ではこの三千世界は無数の泡で溢れている。
なぜそうなったのか? 答えは簡単だ。神が人間のためにせっせと異世界を作り続けているからだ。
お前も異世界ものの物語を見たことがあるだろう。異世界に転生したり転移したりする奴らは、なぜかご都合主義的な設定に包まれている。
勇者の家系だったり、辺境伯の末っ子だったり、最強のチートスキルを手に入れたり――そんな連中ばかりだ。
それもそのはず、奴らが第二の人生を送る異世界は、神が奴らのために作り上げたオーダーメイドの異世界だからだ。都合のいいことしか存在しないんだ。
転生者の好きにさせておけばいいじゃないかと思うかもしれない。だが、そうもいかない。
神は偉大だが万能ではない。『幸福だけを生み出す』ことだけは絶対にできない。
幸福とは相対的なものだ。誰かが喜びをかみしめるためには、誰かが涙を流さなければならない。残酷だか、この世界の仕組みはそうなっている。
しかし、神が作り出した異世界はどうだ。
この法則を無視していると思わないか。だいたいの異世界ではみんなが幸せそうだ。どこを見ても不幸なんて存在しないし、苦難があったとしても、それはハッピーエンドをより感動的に演出するためのスパイスでしかない。
――けれど、その幸福の代償は必ずどこかに現れる。そこに存在しなければならない不幸は、別の世界で顕現するんだ。
それはどこか。そうだ、お前のいる世界だ。
お前も考えたことがあるだろう。
「なぜこんなに頑張っているのに報われないんだ?」とか、「どうして自分ばかりこんなに不幸なんだろう」と。
その答えは簡単だ。異世界でハーレム生活や「俺TUEEE」を謳歌している転生者たちが副産物としてひり出した
だが、安心しろ。俺がそれを防いでやる。
俺は『異端審問官』だ。クソを撒き散らす転移者や転生者に異端の烙印を押すのが俺の仕事だ。俺に異端と判断された転生者どもは、肥溜めみたいな元の世界に強制送還され、お前の世界に沈殿した不幸は少しだけ軽くなる。
正直、めんどくさい仕事だ。でも誰かがしなきゃな。三千世界の公平さのために。
――おっと、また新しい転移者が来たようだぞ。さて、そいつには都合のいい生活を享受する資格があるだろうか? それを確かめてやらなければ。
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