浜田家②
―12月25日 22時40分頃―
「だから言ったじゃん!」
「ごめん、ごめんじゃん!」
ぼやけた意識を、頭に響く高い声と、鼻を突くような血の匂いが引き戻す。
(気絶した…らしいな)
前後の記憶があやふやだ。
どうやらあの女からは逃げ切れたらしい。
「あ、起きた」
「まじ?どれ、落書きしたろ」
しかし、クソガキ二人に捕まってしまったようだ。
「みてみて、うさぎクジラ描いた」
「え〜カワイイ!」
うん、クソガキだ。クソガキなのだが…今の僕はここは何処か分からないうえ、ヤバい女に追いかけられてる。頼れるのはこの子たちだけ、か。……仕方ない。
「ね、ねぇ、君たち」
「んー?」
「なぁに?」
「お名前聞いてもいいかな」
「私は
「ウチは
「
「……あっと、そうそう、僕の自己紹介がまだだったね」
「サンタクロースです、よろしくね」
「「うん知ってる」」
よしよしよし、掴みは完璧…だと思う。
このまま一気に要求を伝えて、即プレゼント渡して帰ろう。
それはそれとして――
「……
「え〜?……やだ。」
「そっか、じゃあ落書きしながらがら聞いてくれるかな?」
「…? 私はいいけど…?」
「ウチもいいけど」
「ありがとう。」
「……でもね、
「え? そうなの?」
少女たちにも話せる部分だけ、できるだけオブラートに包んで話した。
◇
「――という訳でここから出たいんだ」
「案内、頼んでいいかな…?」
「サンタのお兄さんがあったの…多分、
「あー、
そう言ったきり、少女達はしばらく考え込み、コソコソと相談したり、
「うんうん、こうするしかないよね 」
「そうだね…そうしよっか?」
「うん、決まり!」
「あ、あの〜?」
「それじゃ、私達は部屋に戻るね!」
「え!? 助けてくれないの!?」
「「うん無理!」」
「な、なんでか聞いてもいい…?」
「
「ほら…もう」
「…そっか、うん、じゃあ私達…もどるね」
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
「こらっ、この人はまだ生きてるでしょ?」
「やっぱり殺される可能性あるの!?」
「「……」」
二人とも、しきりにバツが悪そうな顔をして目をそらされた。そして、そのまま振り返らず、前へ前へと歩き続ける。たまに
(クソッ、ヤバい…)
(このままだと僕は仕事だけでなくリアルボディーまでクビキリされるてしまうぞ…!)
「そ、そうだ! 君たち」
「………なぁに?」
「プレゼント、まだあげてなかったよね?」
「お兄さん…!」
「ほら、君にはこの純金のネックレスを」
「お兄さん……」
「君にはギフトカード五万円分を」
「あ、ありがとう……」
「そしてオマケで…」
「僕を助ける権利をプレゼントだ」
そう言うと、僕は二人の幼女の腕に手錠をかけ、自身の腕に繋げた。さながら歩行者専用の標識。このまま外に出ようものなら三歩以内に逮捕され、即裁判で即有罪。
でも、ここから逃げられないなら僕を待ってるのは死。ただそれだけだ。
だからこそ! だからこそ、ここで何とかして言いくるめてこの子たちに協力させなくてはならない!!
「ク、クク…嬢ちゃん、かかったね、罠に」
「やめてっ! 大声だすよ!!」
「…いいさ! 出してみなよ?」
「ここに誰か来てくれるのかな?」
「……っ!」
「パパや、ママが来るかもしれない…よ」
「あり得ないな」
「あんたなんかに何が分かるっての!」
「ハハハハハッ!! …洗面台だよ」
「…?」
「ここの洗面台、血だらけだった」
「それがどうしたっての」
「普通こんな血だらけの所に君たちみたいな子供をよこすか? いいや、あり得ない」
「いま思いつく可能性は4つ」
1 立ち入り禁止の場所で音が鳴った為、気付いた2人が勝手に来た
2 さっき血だらけになったから誰もまだ気づいていない
3 住人すら把握していない部屋だった
4 他の奴もイカれてる
「たしかに、2番だったら誰か来るかもね」
「しかし、あの血はもうずいぶん前に乾いていた。それに、あの血痕…何重にも重なっている」
「つまりだ、長期間にわたって複数回血が流れたと言う事…よって二番はありえない」
「他はどうなんですか…?」
「たしかに、ほか2つはあり得るかもね」
「でも、さっき君たち――」
◆
「ここの洗面台、血だらけだった」
「それがどうしたっての」
◆
「まるで血だらけだって知ってたみたいだ」
「もし知らないなら、僕が嘘をついてると思うか、その真実に多少なりとも驚くはずだ」
「うぅ…」
「そのうえ、あの洗面台…誰かが定期的に血を滴らせた様な模様ができていた」
「親がそんなヤバい事知らないか? …いいや、知ってるね」
「風呂だぞ? ここで生活をしている以上、絶対に誰かは使う事になるはずだよ。 それをこの状態で放置するわけない」
「つまり、定期的に血を垂らす者がこの家に居る。 そしてそれは周知の事実だ」
「ならば3番もあり得ない」
「あり得るのは残った1番と4番…」
「4番の場合助けに来るかは五分五分だな」
「問題は1番だ」
「え? でも、それなら私達、立ち入り禁止のハズじゃん」
「それじゃあ、なんで中の様子を知ってるんですか?」
「そりゃ…特定の条件下ならバレずに入れるから。 じゃない?」
「その条件って?」
「知らないよ」
「じゃあ、今はそうじゃないかもよ?」
「いや、それはない」
「あの時――」
◆
「ばぁ!」
「うぎゃぁあああ!!!!」
「へへっ、お兄さんびっくりした?」
「ふふっ、めっちゃビビってるんだけど」
◆
「こうやって、僕の事を驚かせようと大声をだしたよね」
「それに驚いた僕も、結構大きな声で叫んだのに…まだ誰も来る気配がない」
「今はその条件に当てはまっているはずだ」
「来るとしても、僕のことを血眼になって探してる
(そう! そうじゃん! やばい!)
途端に冷や汗が湧き出る。
今まで忘れていたあの感覚が体に返ってきてしまった。2人も
三人揃って最悪の未来に囚われてしまった。
「「「「………」」」」
「ねぇ、皆」
「あ、ぁぁあぁあ…」
「…何、してるのかな?」
二人は振り向きこそ出来なかったが、僕が強く手を握り返した事で、彼女の存在を知らせると、緊張の余りかひゅかひゅと音を立てて呼吸し始めた。
その姿は余りに哀れだった。いや、きっと自分もそうなのだろう。
(落ち着け、最年長は僕だ…)
(この子たちを助け…助、け………)
(この子達の犠牲を無駄にはするな…!!)
この男、底無しのドクズである。
「あなた? 両手に花で羨ましいなぁ」
(まずいな…両手とも幼女で塞がってるせいで、袋から何も取り出せない…!!)
「……いや、これは両手に花というか、両手にお縄というか…」
「言い訳はいいから」
「…ちょうどいいし、みんなでお話ししよっか?」
(お話ししようって何!?)
(この殺人現場で? 何をだ??)
(話すというよりバラすだろ)
「ほら、鈴木君!」
「ん〜? なぁに?(裏声)」
(鈴木って誰だ!?
(ヤバい、本格的にヤバいぞあの女…急に風呂の中の何かに向かって会話を始めた……)
「鈴木君も友達が増えたら嬉しいよね?」
「うん! 僕うれしいよ!!(裏声)」
(増えるってなんだ!? 死体か?)
(嫌だ! 俺はその鈴木とやらと同じ末路はごめんだ!!)
血だらけの洗面台から、風呂場へ向かって独り言を続けるそれは明らかにB級ホラー映画のそれだった。
彼女が風呂場で話してる内に
(ふ・く・ろ!)
「……?」
(ふ・く・ろ・に・ふ・れ・ろ!)
「……!」
意図に気づいたのか、
「……あれ、
(黙れ鈴木! 後で警察呼んでやるから!)
「あれあれ? ほんとだぁ〜」
「
「
「……あった! はいこれ」
「ありがとう」
ついでに鍵も閉めた。
「
「そんなのも出せんの!?」
「……まじだ」
「ありがとう」
「…ふぅ!」
……収容完了だ。
内側からゴンゴンと拳の音が聞こえる気がするが、誰もここを開ける気はない。
「
「
「サンタさん? 開けてくれるよね???」
内側から優しげな声でドアを開けるよう誘導する邪悪な蛇の声が聞こえる気がするが、ここに居る誰も開ける気はない。
…とりあえず手錠の鍵を取り出すついでに、猛獣注意のステッカーでも貼っておこう。
「……あ!」
「うわぁ! なに? どうしたの」
「この子にプレゼントあげてない」
「えぇ…まじ? あげるの?」
「本気ですか…?」
「うぅ〜ん、でも…仕事だし…う〜ん」
「お仕事って大変なんですね」
「うん、僕も今、始めて知った」
◇
「よし、彼女に一番必要な物を置けたな。」
「うわぁ…お兄さん、度胸あるね」
「今度こそ殺されますよ…?」
ドアの前に有名弁護士の名刺を置いたし、アレが出てくる前に全員に配ろう。
そして速攻帰って鈴木君を解き放とう。
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