@SNALEKILL

第1話

 炎は僕の目の前で激しくその身を躍らせ、一時たりともじっとしてはいなかった。オレンジ、イエロー、カーマイン、ゆらめく陽炎かげろうを挟んで、その上部から噴き出すグレーの煙と、ブラックの煤。炎は意思を持った存在のようにうごめき、僕の目を飽きさせなかった。

「やっと終わった、せいせいするよ」

 自らに言い聞かせるようにつぶやいた言葉のその語尾がかすかに震えた。

「これでよかったんだ。これでやっと諦められる」

 目頭が熱かった。

「これから僕はまっとうな社会人として生きるんだ」

 炎の中で、カンバスが、木枠が、スケッチブックが燃えていた。一五年あまり熱中したもの、その成果物が灰と化していきつつあった。

 ぐにゃりと視界が歪んだ気がした。頬に冷たい液体が垂れてくる感触をおぼえてはじめて、僕は泣いているのだと気づいた。

「煙が目にみるな」

 春だというのに、身を吹きさらす風は冷たかった。

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