第六話『終わりは始まり~破壊と創造~』

 たくさんのイヌ


 黄ばんだ布に包まれる生まれたての〈ユメ〉は、狭い鉄檻てつおりの中から、他の犬たちが、飼育員ヒトらによって、とある密室に連れて行かれるのを眺めていた。他の犬たちの中には、柴犬とコーギー胴長どうながの犬のつがいもいた。身を寄せ合う彼らは、他でもない、〈ユメ〉の両親である。そう。〈ユメ〉は、その見た目はほとんど柴犬だが、実際には人の手による交配ので、コーギーのクォーターとして生まれたのだった。


 たくさんの命が、ただの鉄檻から、悪夢の鉄檻へと、移された。


"悪夢の鉄檻ドリームボックス"

 

 それは、動物の殺処分のためのガス室。

 炭酸で窒息。

 苦しんで死ぬ。


 飼育員ヒトらは、躊躇ためらいなく、命たちを収監しゅうかんしてゆく。


「数が多すぎて処分しきれないな」

「なら、段ボールに入れる、古典的な情に訴える作戦で」

「ああ、そうしようか。誰かが拾うだろう」

「じゃあ、そこの四分の壱コーギー柴犬シヴァギヌは、見逃してやろうか。まだ赤ん坊だし、俺たちも鬼じゃあない」


 〈ユメ〉は、幸か不幸か、"ドリームボックス"行きをまぬがれ、捨てられた。



——ミックス犬の多くは、不同意性交無理やりの交配によって生まれてくる。生まれてくる子のうち、少なくない数が、遺伝子疾患や各種の障害を抱えている。無責任にやし続け、育てられなくなったり、挙句の果てに殺処分。まさに命の冒涜ぼうとく、人間の自己満足エゴである。どのようなルートを辿たどってやって来たかにもよるが、世の中のペットとしての犬の背景には、本来は不必要なはずの犠牲があることを忘れてはいけない——

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