第四話『老犬と若人』

 冬の朝。


 華乃かのの、女性らしい肉付きの手が、いつものように、庭の犬小屋の中に引き篭もって項垂うなだれる〈ユメ〉の頭をでる。

 〈ユメ〉は、貧弱な上目遣うわめづかいだけで、長年寄り添った飼い主に返事をする。

 〈ユメ〉には、元気があるとは、言えない。


「お母さんお父さん、行ってきまーす!」

 と、華乃は隙間風すきまかぜ吹き込むベランダの網戸に向かって元気な声を飛ばす。

 

「華乃、早めに帰ってくるんだぞ!」

「そうそう、ハメ外しちゃダメよ?」

 父と母は、を心配する。

 

「大丈夫! わたしってほら、だし! 同窓会も多分即退出そくたいしゅつだもん!」


 庭の勝手口を出る、振袖ふりそで姿の華乃の横に、〈ユメ〉は歩いていない。

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