第2―3夜 行方不明者ニ人〜冒険〜

 あまりに衝撃の言葉に、俺の背筋は凍っちまった。なんということだ……俺達以外は全員お亡くなりだってことなのか……

 

 あいつは疲れたのかまだ寝ていた。全く、呑気なもんだ。

 

 この洞窟に居たところで暇を持て余してしまうし、物資が何も無いから餓死してしまう。

 

 それで、俺は少し洞窟の外を探索することにした。

 

 森は霧と静けさに包まれ、足音は意識せずとも耳に入って来るし、たまに聴こえる動物の鳴き声は不気味なほど響いている。

 

 異様な空気に圧倒されながらも、俺は一歩一歩確実に足を進めた。川でもあればいいが、水の流れは全く聴こえない。誰だ、こんなハードモードな夢を望んだ奴は……

 

 三十分位経っただろうか……ここまで蛇やら猛獣やら危険な虫やらが出てこなかったのは幸いである。

 

 洞窟からは随分離れてしまったが、一つ大きな成果を得た。俺の前に巨大な滝壺が現れたのだ。これで一応水源の確保が完了した。煮沸消毒はあいつに石の鍋でも作ってもらって、それで調理すればいい。

 

 一つ気掛かりなのは……俺がここから洞窟帰れるのかということである。俺は、好奇心と恐怖に飲まれて印を付けるのを忘れてしまっていたのだ。

 

 別にあいつが心配というわけでも、俺が寂しいというわけでもない。だが、このままでいるのはただただ退屈なのだ。

 

「はぁ、またあいつに借りを作ってしまうのか……」


 俺は、状況を楽観視していた。どうせあいつなら俺が居なくたって飛ぶなり、何か特殊な魔法を使うなり、俺を探す手段があるだろう?時間が解決してくれるさ。

 

 滝壺をみつけてから何時間経ったのだろうか……まだあいつは寝ているのか……とぼやきながらも、あかりが俺を探してくれるのをずっと待っていた。 

 

 その間俺が何をしていたのかって?石器を作ってみようとか、食べられそうな物を探すとかやることはあったが、そんなことはあいつに任しておけ。俺は滝と滝壺で遊ぶことを選んだのさ。

 

 物足りなさは感じるが、俺は一人で過ごすことには慣れていた。無様な一学期を過ごした俺は、余りの恥ずかしさに夏休みは一人で過ごすことを選んだ。つまり、他者との関わりを拒絶したのである。

 

 その結果、さらに無様な醜態だ。もう、同じ教室で過ごしたあの人達は俺を受け入れてくれないだろう……


「クソッ、全部夢だったらよかったのに……クソッ!クソッ!クソッ…… 」


 無抵抗な水にあたり続け、疲れてしまった俺は、そのまま滝壺で虚ろに浮き続けてた。


 それで今に至る。そろそろ起きているとは思うが、

 

 しばらくして、雨が降ってきやがった。振り始めのときはすぐ止むだろうと思っていた。しかし、段々と強まる雨足に俺は水辺からの退散を強いられた。

 

 雨で川が増水して流されてしまえば、あかりが見つけられないどころか、この世界の亡霊になっちまう。そんなエンドは誰一人として望んでねぇ


 服は水遊びをしたこともあって、ビチョビチョで重く、地面は雨でぐちゃぐちゃで脆く、距離を取るのに苦心してしまった。気づけば、脚は傷だらけになっていた。


「クソッ、痛てぇ……おい……はやく……助けてくれっ……あかりっ……」


 散策と遊びで体力を消耗し、怪我もした俺の意識は朦朧とし、彼女の助けを借りることを祈ることしか出来なかった。

 

 雨は強さを増し、痛いくらいになりやがる。あの川が溢れるのは時間の問題であり、俺はこれ以上歩けそうになかった。

 

 俺は折れそうにない木を見つけ、木の上でこの苦難を乗り越えることにした。もう脚はボロボロで、引きちぎれるんじゃないか……それくらいキツい状況だった。

 

 最後の力を振り絞り、登ってから数分後。俺の目には暴れる水の大群が見えていた


「もう、諦めようかな……笛を吹いても、あいつ怒らねえよな……」


 夢から脱出出来る「脱兎の笛」を使おうとした。だが、中々ポケットから出てこない。挙句の果てに、勢い余って木の下に落としてしまった。さらに、そいつは雨水によってどっかに流れていっちまう。終わりだ。

 

「俺は……現実でも夢でもこんなに駄目なのか……。俺は、俺はっ……どうして、こんなにボロボロにならなきゃいけないんだっ……」


 この雨音が地球の叫びなら、俺だって叫んでいいだろう……この雨が地球の涙なら、俺だって流してもいいだろう……俺の顔は雨と涙でもうグシャグシャだ。

 

 救いを求めて、潤んだ目で辺りを見渡す。何も見えないが一つだけ、異様なものが目に映る。あかりだ。

 

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