第11話「影の調査員」



「くしゅん!」

「くしゅん!」

「くしゅんっ!」


魔食研の朝は、三重奏の魔力くしゃみで始まった。


「もう」リリアが眼鏡を直す。「どうして私まで伝染してるんですか」


「それこそ研究テーマですよ」エマがにっこり。


虹と星が交差する中、一郎は昨夜の出来事を思い返していた。


裏口の影。スケッチブック。機密の封筒。

(あれは...いったい誰だ?)


「一郎さーん!」エマの声で我に返る。「今日のランチメニュー、どうしますか?」


「そうだな...」


その時、店の入り口で小さな物音。


「!」


振り向くと、小柄な人影が慌てて逃げ出すところ。


「待って!」


一郎は反射的に追いかけた。路地を曲がり、市場を抜け...。


「はぁ...はぁ...」


追いかけっこは、古い倉庫街で終わった。


「もう逃げられませんよ」


人影は溜息をつき、ゆっくりとマントを脱ぐ。


「まさか...」


そこにいたのは、薄紫の髪をした少女。白衣のポケットには、魔法学院の記章。


「私の負けですね」少女は悪戯っぽく笑う。「フェリシア・von・マジックフード、魔法学院食品研究室の主任研究員です」


「食品研究室?」


「はい。実は貴方たちの店を、ずっと研究させていただいていました」


フェリシアはスケッチブックを取り出す。そこには魔力料理の詳細な分析データが。


「これは凄い...」一郎は思わず見入る。「でも、どうして隠れて?」


「それは...」


話の途中、突然の轟音。


「なっ!」


倉庫の壁が崩れ、中から巨大な影が。


「し、しまった」フェリシアが青ざめる。「実験サンプルが暴走...!」


現れたのは、巨大化した...キノコ!?

しかも、リズミカルに踊っている。


「これは」一郎は直感する。「僕たちの店の...」


「すみません!」フェリシアが謝る。「貴方たちの料理を研究しようとしたら、魔力増幅の実験が暴走して...」


巨大キノコは、まるでダンスを踊るように街へ向かって進み始める。


「大変!このまま街に行ったら...」


「一郎さーん!」


振り向くと、エマとリリアが駆けつけてきた。


「あれ、踊ってるキノコ...可愛い!」エマが目を輝かせる。


「可愛い場合じゃありません!」リリアが叫ぶ。「このままでは...くしゅん!」


突然の星型魔力が、キノコに直撃。すると...。


「わっ!キノコが光ってる!」


「そうか!」フェリシアが手を叩く。「魔力で中和すれば...」


「エマさん!」一郎が叫ぶ。「虹のくしゃみを!」


「はい!...くしゅん!」


虹と星が巨大キノコを包み込む。


「ふわぁ〜」


キノコはまるでため息をつくように、ゆっくりと元の大きさに戻っていった。


「やった!」


歓声が上がる中、フェリシアは申し訳なさそうに頭を下げる。


「本当にごめんなさい。でも、これで研究データは完璧です!」


「もう」リリアが呆れる。「データ取る前に、ちゃんと協力を...くしゅん!」


「あ!私も...くしゅん!」


「くしゅん!」


三人の魔力くしゃみが重なり、キノコは虹色に輝きながら、最後のダンスを披露した。

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