5年生編(1)
和樹は5年生の春を迎えた。
今年も弘前の桜祭りは大盛況。いくつもの店が軒を連ね、国内外問わない多くの観光客で人の波ができていた。元気なおばさんが焼きそばを売っている屋台があり、そこら中に美味しそうなソースの匂いが漂う。また、射的やお化け屋敷など子供たちが楽しめる出店もある。行き交う人たちは、各々フランクフルトやチョコバナナなどを食べており、はしゃぐ子供を宥める親子の姿も見てとれる。
そんな中、和樹は厳かな桜の下、静かに佇んでいた。大きな桜から無数に映える枝には、淡いピンク色の花が綺麗に咲いていた。優しく吹く春の風に柔らかな花が揺られ、バニラに似た甘い香りが微かに香る。土から垣間見える太い根は、逞しさをも覚えさせる。今年も弘前城の綺麗な桜を見ることができたことに、自然と笑みが溢れる。
(「今年もこの桜を見られて、本当に良かった。来年も見られるといいな。」)
野球部に入部し、昨年よりも1回り成長した和樹。野球の技術も上達し、仲間との連携も覚えた。昨年よりも成長したおかげか、桜の見方がまた変わった。和樹の背がさらに伸びたため、桜が小さくなってしまったと錯覚する。また、花びら一枚一枚の違いや桜ごとの枝の生え方の違いなど、昨年では気にしなかったことも見えるようになっていた。身長だけではなく、感性も成長を遂げていた。
和樹が静かに桜を眺めていると、出店にフランクフルトを買いに行っていた正樹が小走りで戻ってきた。今年は正樹と一緒に桜を見にきた。和樹は誰かとこの綺麗な桜を共有したかったのだ。
「お待たせ!フランクフルト買ってきたよ。思ったより人が多くて、買うのに時間がかかっちゃった。ごめん、ごめん笑。はいどうぞ!」
「全然大丈夫!ありがとう。ずっと歩いてきたから、お腹すいちゃった。早速、食べようぜ。」
2人は桜の幹に寄りかかって座った。しっかりと硬い根を生やしている桜は、寄りかかっても微動だにせず、寄りかかる2人を優しく受け止める。丁寧に草刈りがされている地面はとても柔らかく、まるで絨毯に座っている気持ちにさせた。自然に囲まれて座っていると、それだけで心が穏やかになる。
一息つき、フランクフルトを一口頬張った後、正樹が話し始めた。
「それにしても、去年の練習は大変だったよね。体力作りも辛かったし、投球も上手くいかないし、バッティングなんて全然……。でも、2人一緒に練習したおかげで、体力もついたしコントロールも良くなって、遠くに球を打ち返す事だってできるようになったよね。走るのはまだ遅いけど笑。これからも、もっと上達できるように頑張ろうね!」
キラキラした目で素直な気持ちを語る正樹。続けて、和樹も胸の内を語り始めた。
「確かに練習大変だったな……。体力作りなんて、どんだけ走っても体力が付かなかったから、正直めちゃくちゃ苦痛だった。だけど、頑張れたのも正樹のおかげだな笑。練習付き合ってくれて、ありがとな。明日からは、もっともーっと頑張ろうな!今年こそ、一緒にレギュラー獲ろう!」
和樹も純粋な感想と感謝を伝えた。生まれて初めて、友情の大切さを真に感じ、正樹という親友をいつまでも大切にしようと思えた瞬間だった。そして、それぞれの想いを伝え合ったことで、野球に対する情熱が火に油を注いだ如く、さらに燃え上がった。
熱く語り合い、フランクフルトを平らげた2人は、帰路につく。
「正樹、せっかくだから、チョコバナナとかいちご飴とか食べながら帰ろうぜ。フランクフルトだけじゃ、全然足りなかった涙。」
「賛成、賛成!いっぱい食べて、体を大きくしなくちゃね。正直、僕も全然足りなかった笑。せっかくのお祭りだし、たくさん食べて帰ろうね。」
太陽のように明るくはしゃぐ2人。そんな彼らを晴れ渡った春の空は暖かく見守るのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます