【4話】一緒にランチ
翌日、午後零時三十分。
昼休憩も折り返しを迎えたこの時間、中庭の端にあるベンチに座っているリヒトは、一人で昼食を食べていた。
学園の売店で購入したコッペパンをかじりながら、青い空をボーっと見上げる。
「あ、あの!」
空を見上げているリヒトに、背中越しから声がかかった。
後ろに顔を向けてみれば、そこにはステラが立っていた。
「こんなところに来て、いったいどうしたんだ?」
「リヒト様に言いたいことがあって、ずっと探していたんです」
リヒトの正面へ移動したステラ。
ありがとうござました! 、と大きな声を出して、深く頭を下げた。
「もしかしてそれを言うために、昼休みの時間を使って俺を探していたのか」
「はい。昨日助けていただいたお礼を、まだ言ってなかったので」
「そんなの気にしなくていいのに、律儀なヤツだな」
リヒトは軽く笑う。
「そうだ。あのケーキ、美味しかったか?」
「はい、とっても! 妹も大喜びしていました!」
「よかった」
「……リヒト様は、いつもここで昼食を食べているのですか?」
「ああ。教室だと、食べづらくてな……」
友人のいないリヒトにとって教室という場所は気まずく、居心地が悪かった。
そんな空気の中で食べる昼食の味は、とても美味しいとは言えない。
「ここは人が通らないから、重宝しているんだ」
目立たない場所にポツンと設置されていることもあってか、めったに人通りがない。
教室と違い、ここでは人目を気にする必要がない。
ぼっちであるリヒトにとって、学園内における唯一心休まる場所だった。
「素敵な場所ですね。……あの、ご迷惑でなければ、私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
どうして、と口にしそうになるリヒトだったが、その言葉を飲み込む。
(ステラも、俺と同じかもれない)
ステラが転校してきてから一週間が経ったが、内向的すぎる性格のせいか、彼女はクラスに溶け込めていなかった。
リヒトと同じく、教室にいるのが苦痛なのかもしれない。
その辺りの部分はゲームでは触れられていなかったので、これはあくまで推測だ。
けれど教室での彼女の様子からして、あながち的外れでもない気がする。
「ああ。構わないぞ」
同じくぼっちであるリヒトは(あくまで推測だが)ステラの辛さが痛いほど分かる。
断るなんて非道な真似はできない。
それに、ステラは超がつくほどの美少女。
そんな子と二人きりで食事を摂れるなんて、男子なら誰でも憧れるような最高のシチュエーションだ。
「ありがとうございます!」
校舎の方へ駆けていったステラは、数分して戻ってきた。
手にはバスケットを持っている。
リヒトの隣にちょこんと腰を下ろしたステラは、膝の上にバスケットを乗せた。
バスケットの中からサンドイッチを取り出すと、小さな口で噛みついた。
(うまそうだな)
ステラのサンドイッチは、とても美味しそうだった。
膝の上に乗っているバスケットへと、ついつい視線が惹かれてしまう。
「もしよければ、お一つ食べますか?」
「いいのか?」
「はい。いっぱいあるので、どうぞ食べてください」
「ありがとう! お言葉に甘えさせてもらうよ!」
「私が作ったので、味は保証できませんけどね」
自信無さげなステラから、サンドイッチを一切れもらったリヒト。
パクリとかぶりつく。
「うまい! めっちゃうまいぞ、これ!」
あまりの美味しさに、リヒトは大興奮。
見た目だけでなく、味も大変素晴らしかった。
「良かったぁ」
ステラがニコリと笑う。
天使のように可愛らしい笑みだ。
ズキュン!
リヒトのハートが、一瞬で打ち抜かれる。
初めて見た彼女の笑顔は、それはもう破壊力抜群だった。
「どうかされましたか?」
「…………いや、何でもない」
ゴーンゴーン。
大きな鐘の音が中庭に響く。昼休憩終了五分前の合図だ。
「そろそろ戻ろうか」
「あのっ!」
立ち上がろうとしたリヒトへ、ステラから声がかかる。
「明日のお昼もご一緒してもよろしいですか?」
「もちろんだ。明日だけじゃなくて、毎日でもいいぞ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ステラの顔がほころぶ。
可愛らしい笑顔につられて、リヒトまで笑顔になってしまう。
「明日は昼食を持ってこないでくださいね」
「……おう。いいけど――」
「約束ですよ」
理由を聞く前に、ステラは校舎の方へ駆けていってしまった。
その後ろ姿は、とても嬉しそうに見える。
(どうしてステラはあんなことを言ったんだ?)
それについて考えそうになるも、今はそんな場合ではないことにすぐ気づく。
「午後の授業に遅れる!」
リヒトは急いで、校舎へ戻るのだった。
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