第三章 甘えん坊

【まもる10歳】

【2010年 5月28日】


礼子の寝室で。


※※※※※※※※※※※※※※※


「あらあら・・・?」

私は呆れた声を出しながらも口元を綻ばせた。


夜中に目を覚ました時。

傍らに眠る息子の温もりが嬉しくて。


「しようがないわねぇ・・・」

息子を起こさないように静かに起き上がる。


暗闇の中、微かに聞こえる寝息が心地良い。

手探りでたどった頭の髪に艶やかな弾力を感じた。


いつの間にか成長した息子に戸惑いながらもそっと、唇を頬に寄せる。

甘酸っぱい汗の匂いに少し、ドキドキした。


守(まもる)を引き取って六年になる。


※※※※※※※※※※※※


『そんな・・礼子が犠牲になることは・・・』

戸惑う母が声を詰まらせた。


『そうだよ、礼子・・・』

父も言葉を続けた。


二人とも。

今は亡くなっていない。


『うぅん、大丈夫・・・』

私は守(まもる)を抱きながら笑みを返した。


幼い彼は無邪気に私を見上げていた。

数日前までは泣きじゃくっていたのに。


ようやく私になつこうとしていた。

突然、両親がいなくなってパニックになっていたけど。


以前から頻繁に可愛い甥っ子の面倒を見ていた私だから、違和感なく接してくれたのかもしれない。

私も守君のことが大好きだったから。

柔らかな身体をギュッとしながら私は言った。


『こんなに可愛いんですもの・・・』


それは本心から出た言葉だった。

この子が可愛くて、しようがなかったのだから。


『でも、大学はどうするの・・・?』

母が心配そうに聞いた。


『中退するわ・・・』

即座に声を返した。


幸い、我が家は裕福だった。

父は数十社の大株主で悠々自適の暮らしをしていた。


住んでいる家も世間で言えば豪邸で。

私も大学に通いながら何不自由の無い青春を送った。

只、お嬢様育ちだったせいか恋も知らずにいた。


大学に入学してからも告白は何度もされたけど、男性と付き合ったことは無い。

オクテでボンヤリしていた性格の私は、特に違和感は抱いてはいなかったのです。

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