学園一の美少女に毎日死ね死ね言い続けていたら、本当に死んだ件

マウンテンゴリラのマオ(MTGのマオ)

第1話 とある生徒の日常

「おはよー、達也」

「死ね」

 教室に響き渡る、女子生徒の可愛らしい声と、それに応える男子生徒の罵声。これを聞くと、今日も一日が始まったのだと実感する。

「今日の一限って数学だよね? 宿題まだ終わってないんだけど、写させて?」

「今すぐ死ねばその必要もなくなるぞ」

「あ、それ数学のノートでしょ? 貸してー」

「勝手に持ってくな、呼吸すんの止めろこのアバズレ」

 親しげに話しかける女子生徒に対して、男子生徒のほうは見るからに苛立ちながら奪われたノートを引っ手繰っている。友好的に接してくる相手に、塩対応なんて表現が生温いほどのドギツイ発言を繰り返す男子生徒もだが。そんな彼に何を言われても、一切動じない女子生徒のほうも大概である。

「ケチ~! 私には達也だけが頼りなんだから、ノートくらい見せてくれてもいいじゃん!」

 女子生徒のほうは、可憐も可憐。国民的アイドルにすら優るとも言われるほど整った顔立ちは、年相応の無邪気さを伴ってその魅力を更に引き上げている。癖のない艶やかな黒髪をツインテールに結わえており、その髪型もあってなのか、全体的に可愛らしいという雰囲気を纏っている。

 反面、その体型は幼さとは無縁の、これまた均整の取れたプロポーション。今は制服姿なのでそこまで目立たないが、逆に言えばボディラインが出ない服の上からでも分かるくらいには発育がいいということである。

 そんな、凡そ外見上の欠点らしきものが皆無の美少女こそ、我が校で最も有名な女子生徒、桃園友梨佳である。去年の入学直後から、その存在が全校生徒に知れ渡るほどに圧倒的な美少女。当然ながらその人気も圧倒的であり、学園のアイドル呼ぶに相応しい女子生徒だ。

「甘えるなカスが。お前の脳みそには蛆虫でも巣食ってるのか? そうでないなら宿題くらい自力で片づけておけ。その程度の知能くらいは、てめぇみたいなアホンダラにでもさすがにあるだろ。もしないなら、この世に生を受けないでくれ。生まれてこられるだけで迷惑だ」

 そんな桃園さんに対して、無駄に凝った表現方法で罵倒を繰り返す男子生徒。彼こそが、我が校のもう一人の有名人、藤村達也だ。

 外見だけで言えば至って普通。髪を染色したり制服を着崩したり、なんてこともなく、その点ではとても真面目。常に不愛想で不機嫌そうな表情をしているが、それ自体は大した問題ではない。彼を有名たらしめているのは、その言動だ。

 口を開けば暴言、罵倒、罵詈雑言。それも、よりにもよって学園一の美少女である桃園さんに対して遠慮なく放つのだから、すぐさま校内一のやべー奴として知れ渡ることになった。

「違うの、昨日ゆうつべで動画見てたら、広告で面白そうなゲームを見つけて、それをやってたら時間が無くなっただけなの」

「やっぱりアホじゃないか。そもそも宿題やってから動画見ろよ。計画性のなさで世界の頂点でも目指すつもりか、行き当たりばったりの化身め」

「いいから宿題見せてよ~。私と達也の仲じゃない」

「そんな仲になった覚えはないが? 勝手に記憶を捏造するな。幻覚作用のあるキノコでも喰ったか? 或いはお前の残念な脳みそは自動で記憶の改竄をする欠陥品か?」

 そんな二人だが、何故かいつも一緒にいる。藤村がいくら邪険にしようと、罵倒しようと、桃園さんは懲りずに話しかけている。というか、桃園さんは藤村以外の生徒と接する機会が極端に少なく、少なくとも校内では本当にずっと一緒にいるのだ。

 噂によれば二人は幼馴染らしいが、それが事実ならば、もう何年もこの関係が続いているということだろうか?

「お願~い! 今日のお昼奢るから~」

「なんでお前の奢りで飯を食わねばならんのだ。そんなものは食事じゃなくて産業廃棄物だろ。もしくは放射性核廃棄物」

「いいからお願~い! 授業始まっちゃうよ~!」

「ったく……」

 拝み倒す桃園さんに、藤村は溜息交じりにノートを放り投げた。

「ありがと~! この御恩は一生忘れません~!」

「三歩歩いたら忘れる恩なんてどうでもいいから、さっさと写して返せ」

 ノートを受け取って感謝のあまり拝み始める桃園さんと、あくまで塩対応を貫く藤村。……どうせ貸すなら、意地悪しないでさっさと貸してあげればいいのに。こういうところが原因で、藤村は学校中の生徒たちから蛇蝎の如く嫌われている。とはいえ、学内で一番人気の桃園さんと一緒にいるせいで、面と向かって何かを言える生徒もいないのだが。その点も、彼に対するやっかみを増長させる原因なのだが。

「じゃあ早速写さないと……ってうわ、字汚っ!」

「文句があるなら返せ」

「嘘嘘じょーだん! めっちゃ字綺麗だから、勘弁して~!」

 今日も二人は騒がしく、そうやって一日が始まる。そしてこれからも、この二人はこんな感じで賑やかに過ごしていくのだろう。……今はまだ、誰もがそう思っていた。

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