クラスの三大派閥のリーダーである美少女達に好かれたら~仲の悪い彼女達を仲良くさせようとしたらなぜか悪化した~

柊なのは

第1話 三大派閥のリーダーは仲が悪い

 このクラスには3つの派閥が存在する。


 1つは、コミュ力高めの人達が集まる『楠派閥』。クラスの委員長を務めており、スポーツ万能な楠灯花くすのきとうかを中心とした派閥だ。


 派閥というのが存在するが、楠は、派閥関係なしにクラス全員と仲良くなりたいと思っていて、他の派閥の人とも交流がある。


 2つ目は、大人しめな人達が集まる『白川派閥』だ。おっとりしているが、しっかり者の白川真城しらかわましろを中心とした派閥。


 白川は、基本マイペースで争い事に関わりたくないタイプだ。


 そして最後に頭が良く、コミュ力高めな人達が集まる『藤咲派閥』。


 成績優秀で学年首席である藤咲紗由ふじさきさゆを中心とした派閥で、『楠派閥』と真逆な人達が集まっている。 


 藤咲と楠は何かあるごとによく対立し、入学して1番最初にあった体育祭という行事では同じクラスで団結しなければならない場面で2人の意見がぶつかったことによりクラスでの仲間割れ状態が悪化した。


 白川派閥は2人の争いに介入することはあまりないが藤咲と楠とは仲が悪い。


 入学して5カ月。夏休みを終え、今日から2学期が始まるが、果たしてこのまま仲間割れの状態で1年が終わるのだろうか。



***



 俺、水野晃成みずのこうせいは、3つの派閥のうちの1つ藤咲派閥に入っている。なぜ藤咲の派閥なのかというと入学してすぐに彼女に目をつけられたからだ。


 そのため、入りたくて入ったわけじゃない。ほぼ無理やり入れられたと言ってもいい。だが、藤咲派閥にいる人達は親しみやすい人が多く、気の合う友達と出会えた。


 だから今は藤咲派閥で良かったと思ってる。けれど、俺は派閥がなくクラス全員が仲良くなる日が来ることはないのかと時々思う。


(このまま1年が終わるのは何だかなぁ……)


 クラスのすみっこにいるような、発言力がない俺が「クラスのみんなで仲良くしよう」と言っても意味はないだろう。


 もし、俺ではなく彼女であれば……クラスみんなで仲良くということが実現するかもしれない。


「水野くん、おはよ!」

「お、おはよう」


 元気に挨拶をしてくれたのは派閥の中心的存在である楠灯花。


 さらさらのロングヘアにすらっとしたスタイル。そして誰にも負けない大きなものを持っている。彼女は派閥関係なしによく俺に話しかけてくれる。


「夏休み、どこか行った?」

「夏休みは特に……」


 派閥のメンバーと遊んだりしたが夏休み、特別なことはしなかった。


 好きな本を読んで、バイトして、そんな日々を送っていたらあっという間に夏休みが終わっていた。


 楠はクラスメイト、そして他クラスにも友達が多いみたいだし、いろんなところに行ったりしたしたんだろうなぁ。


「私は友達と遊園地に行ってきたよ。水野くんは遊園地行ったりする?」

「遊園地か……最後に行ったのは小学6年生だな」

「じゃあ、ここ最近行ってないってことか。じゃあ、次行くときは水野くんも誘ってもいいかな?」

「……俺を?」


 いつも声をかけてくれるが、俺と楠は友達と呼べる関係ではないし、遊ぶような関係ではない。


 それに俺を誘ったとしても俺はあまり歓迎されないだろう。別の派閥の人と遊園地なんて嫌に決まってる。


「別の派閥だし、俺と遊ぶのは良くないんじゃ」


 俺がそうボソッと呟くと楠は人差し指を横に振り、違うよと否定した。


「関係なしだよ、水野くん! 派閥が違ったって仲良くしたらダメなルールはない。私は派閥が違ってもみんなと仲良くしたいなっ」


 さすが誰とでも仲良くする楠。俺の両手をぎゅっと握り、そして胸を近づけてくる。手が柔らかいものに当たり、離れようとしても彼女が手を握っており、離れられない。


(距離が近すぎる……)


「水野くんは、私と遊園地行きたくない?」


 うるっとした目で俺の顔を覗き込んでくる楠。ここで派閥のことを理由に断るのは違うか……。


「……行きたくないわけじゃないよ。誘ってくれると嬉しい」


「! ふふっ、じゃあ、約束だね。絶対に誘うから!」


「あぁ……」


 遊園地に行く約束をし、楠は、俺の手をパッと離す。柔らかいものから解放された手を見て、俺はあの感触を思い出した。


「じゃ、またね。水野くん!」


 手をヒラヒラさせて、楠は友達のところへ話しかけに行く。


 1人になり、俺はふぅと息を吐く。女子と話すことはよくあるが、楠のようにコミュ力高めの人と話すのはまだ慣れない。


(いつか慣れるものなんだろうか……)


 読みかけの本があったので、授業が始まるまでに少し読もうとすると視線を感じ、横を向くとそこにはふわふわのセミロングに赤いリボンをつけた白川真城がいた。


 目が合うと白川は、口元に手をやり、小悪魔のような笑みを浮かべながら俺のところへやって来た。


「水野くん、いけないなぁ~」

「いけない?」

「うんうん。楠ちゃんと話してたから自分の派閥を裏切るのかなって」

「裏切るって……」


 まぁ、他の派閥に入る素振りを見せたら彼女が怒りそうではあるが。


「クラスメイトだし話すのは別にいいと思う。例え派閥が違っても」


「……ふぅ~ん、水野くんはクラスのみんなが仲良くなれると思ってるタイプ?」


「難しいかもしれないが、そうなって欲しいとは思ってる。このまま仲間割れした状態で1年が終わったら多分、よくないから」


 自分の思っていることを口にすると白川は、何も言わず、自分の髪の毛を触る。


 白川はふわっとした性格で、基本何を考えているのかわからない。だからこそ俺の発言が気にくわず、怒って無言なのかというのもわからない。


 ドキドキしながらこの空気に耐えていると白川はクスッと笑った。


「楠ちゃんタイプだね。応援するけど私は楠ちゃんと藤咲ちゃんとは仲良くしないよ?」


「何で……」


「何でって仲良くしたくないから」


 彼女は冷たい目をするとクルッと背を向けて行ってしまう。


(やっぱり難しいな……)

 


***



 放課後。今日はバイトもないので家に帰ったら小説を読むことに集中できる、なんて考えていると背が小さく、セミロングの髪に密編みをした彼女が俺のところへやって来た。


「水野くん、お疲れ様です。今日はもう帰るだけですか?」


 珍しい。同じ派閥だが、たまにしか声をかけてこない藤崎が俺にこうして話しかけてくるのは。


「そうだな。バイトもないし」

「では、私と一緒に帰りませんか?」

「……えっ、俺と?」


 藤咲はいつも同じ派閥の友達と一緒に帰っている。それなのに今日はなぜ俺を……。


「楠さんとの遊びの誘いは受けたのに私の誘いは断るのですか?」


「まだ俺は何も言ってないが?」


「ふふっ、すみません。水野くんの表情を見て先に発言してしまいました」


 ついうっかり、みたいな雰囲気を醸し出すが、藤咲さんが何かに怒っているのは表情から見てわかる。


 俺、怒らせるようなこと言ったかな……。てか、さっきの楠との会話、聞かれてたんだな。


「藤咲。気にさわるようなことをしたなら言ってくれて。謝るからさ」


 藤咲を怒らせると怖いと友人から聞いたことがあるので謝ろうとしたが、藤咲は首をかしげた。


「? 私は怒ってませんが?」

「いや、けど、顔が───」

「私は別に束縛の強い人ではないので例え派閥が違う楠さんと仲良くしていても気になりません」


 ニコッと微笑みかけられるが、俺はゾワッとした。なぜなら藤咲の表情が先程より怒ってるように見えたからだ。


「水野くんが他の女子と仲良くしていていても別に何とも思いませんし?」


「ふ、藤咲? 顔が怖いんだが……」


「ふふふ、私は怒ってません。いつも通りですよ?」


(絶対怒ってるやつだ)


 俺はこの時、まだ知らなかった。三大派閥のリーダーの仲が悪い原因が俺であることを。

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