吹雪の日に家に籠っていたら、超絶美女が二人我が家に訪ねてきたんだが

先崎 咲

そんなこと、ある!?

 今日は猛吹雪だった。三歩歩けば、雪の中に沈むような天気。そんな中、俺は囲炉裏の火と敷物と布団と摩擦熱の力で寒さをしのいでいた。そろそろ摩擦熱の力でスネ毛が燃えそうな気がしてきた。

 父と母はこの前の冬に死んだ。一人で冬を越えるのは初めてだったが、猟師仲間に助けられて準備はできていた。誰とも話さないことが、こんなにも寒いなんて知らなかった。

 吹雪が扉に当たるのか、玄関扉はしきりにガタガタ言っている。


「ごめんください」


 可憐で美しい鈴音のような声がした。たぶん、寒さからくる幻聴だ。こんな大男ですら埋もれる雪が降る日に外を歩くバカはいない。


「ごめんください」


 幻聴再び。やはり、人が恋しいのだろうか。俺が結婚する前に両親は死んでしまったし、嫁が欲しいという俺の潜在意識が幻聴を生み出しているのだろうか。


「もし、すみません。どなたかいらっしゃいませんか。外が寒くて、死んでしまいそうで、どうか温めてほしくて」


 控えめでいて、可憐な声。気が付けば、俺は玄関扉をスパーンと開け放っていた。


「かわいそうに。すぐに温めて差し上げます、ね」


 玄関先にいたのは可憐な美女だった。透き通るような白い肌。ツヤッツヤな黒いストレートロング。丸々パッチリの黒い瞳。なによりも、両手を胸の前で組んでいても分かる、ナイススタイル。

 俺は真剣に悩んだ。プロポーズはどのタイミングですればいいんだ?

 初対面の男にいきなり好きだと言われてもこの可憐美女は頷いてくれないだろう。しかし、こんな美女と仲良くなるには何をすればいいのかサッパリわからん。俺がうんうん唸っていると。


「すいません。寒いので、玄関閉めますね」


 閉められる玄関扉。なんて優しい、天女か。というか、今、俺、美女と家に二人きり……?

 あわてて、囲炉裏周りの敷物を整える。布団も、敷きっぱなしのだらしない男と思われないように畳んでとりあえず部屋の角に。


「よかったら、どうぞ」


 そうして、敷物を指して、涼しい顔をして美女に勧めた。


「ありがとうございます」


 ただでさえ可憐な美女なのに、はにかむと威力がすごい。とりあえず、お茶とか出すべきだろうか。

 台所の棚をガチャガチャと探す。一人になってからお茶なんて飲んでいない。けれど、母がいた頃はよく飲んでいた記憶があるから、多分どこかにあるはず。


「あの」

「えっ、はい」


 真後ろまで来ていた美女に話しかけられた。思わず敬語になる俺。しかし、めっちゃいい匂いするな。


「なにか、お探しですか」

「アッハイ、お茶を」


 なんで分かるんだ。美人なうえに頭までいいとか最高すぎる。ついついカタコトで返答してしまう。


「わたくしも、お手伝いいたしますわ」


 重なるhand and hand。俺のheartしんぞうbeatこどうは急上昇だぜ。


「じゃあ俺は水を汲んできますねぇ~~」


 脱兎のごとく駆け出す俺。玄関前の水瓶を掴み、転がるように外に出た。これじゃ、どっちが猟師か分からないぜ……。


「寒」


 そして、忘れていたが外は極寒だった。速攻で顎が震えだす。これは急いで水を汲んで戻らねば死ぬぞ……。

 家の裏に回り、井戸の蓋を外す。釣瓶に取り付けた縄がちぎれていてないか確認して、井戸に落とした。


 コーン。


 もしかして、井戸水、凍ってね?


 やばいやばいやばい。カッコつけて? 出ていったのに何もできずに帰ってくるとかあまりにもカッコ悪すぎる。


「そこの者」


 そして、寒さからかまた幻聴が聞こえだした。今度は勝気そうな声だった。この声もまた、美人そうだなぁ。


「そこの者」


 危ない、心が揺れていた。俺にはさっきの美人さんがいるじゃないか。それなのに、ほかの美女の幻聴を聞くとか、疲れてるんだよハハハ。


「聞こえておらんのか! この、たわけ!」

「いえ、はい! 聞こえてます!」


 おもわず、叫び返してしまった。そうして振り返った先には、先ほどの可憐な美女とはまた方向性の違う美女がいた。

 健康的な肌色に赤い頬。霜柱のように輝く銀髪。気の強そうなツリ目の青い瞳。なにより、着物の上からでもわかる腰のくびれ。


 さきほどの美女が月なら、この美女は太陽だ。


「ふん。わらわはこのあたりで迷ってしまってな。お主、そこの家の住人であろう? わらわを一晩泊めてはくれんか」

「もちろんですとも」


 何という申し出。こんな幸運があってもいいのか。

 気が付けば、家に美女を案内していた。しかし、何かを忘れている気がする。


「狭い家ですけど、ゆっくりしていただいて構いませんからね」

「うむ」


 そう言って、玄関扉を開けた。


「あっ、おかえりなさい。お茶っ葉、見つかりましたよ」 


 うれしそうに笑う、可憐美女。かわいい。そして忘れていたことを思い出した。


 しまった、美人がダブルブッキング。いや、別に付き合っているわけでもないから後ろめたいところとか何もないけどね?

 顔を合わせた二人の美女。大変な目の保養。人助けして目の保養もできるとか今日の俺最高だな。

 しかし、二人の美女は顔を合わせるなり、こう言った。


「「誰よこの女!!」」

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