侵略者、日本の報道で詰む
序章:新たな戦略
「コロナ対策での失敗は、我々の準備不足だった」
帝国軍総司令官Z-34は、作戦会議で厳かに宣言した。前回の失態から3ヶ月、彼らは新たな侵略計画を徹底的に練り上げていた。
「今度は世論操作だ。地球人、特に日本人は『空気を読む』という特殊な性質を持つ。これを利用して、内部から崩壊させる。我々は『Zチャンネル』という独自メディアを立ち上げ、高度な技術を駆使した報道により、人類に真の恐怖を知らしめるのだ」
作戦は緻密に練られていた。主要メディアのシステムをハッキングし、混乱に陥れる。その隙に、帝国軍の洗脳電波で人々を操る。完璧な計画に思えた。
だが、ハッキングを試みた直後、予想外の通達が届く。
「申し訳ございません。報道機関への出演には、事前の『メディアトレーニング』が必要となります」
「なぜ我々が...」と抵抗するZ-34。
「放送法の関係上、『Zチャンネル』の開設には、既存メディアでの信頼性の確保が...」
結局、帝国軍は「メディアデビューのための準備」という名目で、
各局への出演を強いられることになった。
誤算1:ワイドショーの恐怖
「はい、『おはドキッ!』です。宇宙人さんの朝ごはんに密着〜!」
作戦開始から一時間も経たないうちに、想定外の展開が始まった。宇宙船の前で、朝から晩まで中継が続く。
Z-34は困惑しながらモニターを見つめた。
「なぜだ...我々は恐怖の帝国軍のはず...」
「スタジオには宇宙文明研究の権威、松竹梅(まつたけ)教授をお招きしています」
「はい。彼らの体温がマイナス273度という点から、明らかに水瓶座のO型、しかも末っ子の可能性が高いですね。ちなみに、宇宙人の血液型は特殊で、マイナス型というのが...」
「血液!?我々の体内を循環しているのは濃硫酸だが...」
「そう!やっぱりマイナス型特有の熱くて厳しい性格!」
Z-34は真顔で作戦参謀に問いかける。
「我々に星座などあったのか?」
「いいえ、司令官。そもそも母星には占星術の概念が...」
「次は宇宙人さんの好物についてです!『銀河堂』のおにぎりを選ぶ姿が目撃されましたが、塩むすびを選ぶ慎ましやかな姿勢から、推定年収は3000万円程度。さらに独身である可能性が...」
「作戦参謀!我々の年収は地球通貨でどれくらいになる?」
「申し訳ありません。銀河通貨との為替レートが...」
誤算2:週刊誌の執念
そして事態は更なる展開を見せる。
「『週刊サルまる』です!宇宙人の私生活を独占スクープ!」
Z-34は眉をひそめた。
「なぜ分かった...量子暗号で守られた監視システムは完璧なはずだが」
週刊誌の見出しが踊る。
『特集:宇宙人 素顔の素顔』
『暴露:帝国軍制服は実は作業着』
『衝撃:司令官の実家は茨城県!?地元住民が証言』
「我が母星は...いや、そもそも実家とは...」
困惑する司令官をよそに、すでに「Z-34司令官の実家」と称する民家には観光客が押し寄せ、「宇宙人御用達」を謳う納豆店まで出現していた。
誤算3:情報番組の猛攻
報道作戦の立て直しを図ろうとした矢先、今度は情報番組が攻勢をかけてきた。
「『めざまし!ハッピー』です!宇宙人さんいち押しのランチを調査!」
厳かに用意していた声明文を手に立つZ-34。
「本日は重大発表が...」
「はい、では食レポお願いします!」
「しかし我々は侵略者であって...」
「笑顔で『おいしい!』って言ってくださいね!」
そして、スタジオの人気芸人が謎の缶詰を試食。
「うまい!これはうまい!」
「オリエント超新星(人気芸人)さん、それ宇宙船で飼育している生物用のエサですよ」
「ペットフード!?」
「いえ、正確には捕食生物用の...」
「えっ!?待って!なんか蛍光色に光ってきた!」
会場が爆笑に包まれる中、Z-34は呟く。
「あれは第四級捕食生物用の餌だ。致死量の放射性物質を含んでいるのに...まあ、地球の芸能界なら生き残れるかもしれないが」
夕方のニュースでは。
「宇宙船の影響で、明日は局地的な雨が...」
Z-34は思わず通信機を取る。
「本部!我々の最新鋭戦艦は気象には一切影響を...」
「特に傘の用意を!詳しくは気象予報士の月星(つきぼし)さん」
誤算4:謝罪会見の罠
一連の報道への対応を協議するため、緊急作戦会議を開いたZ-34。
「今こそ我々の真の姿を示す時だ。記者会見を開こう」
万全の準備を整え、記者会見場に臨む。壇上には帝国軍の誇りを示す最新の量子通信装置を設置。威厳に満ちた雰囲気を演出するはずだった。
しかし。
「その壇上の高さ、威圧的ではありませんか?」
「テーブルの角度が視聴者に不快感を...」
「お水の銘柄がよくありません」
Z-34は困惑しながらも毅然と切り出す。
「えー、本日は重大発表が...」
「その『えー』は言い淀みですか?何か隠していることが?」
「いえ、我々帝国軍は常に真摯に...」
「『真摯』という言葉を使うということは、普段は不真面目だったということですか?」
結局、Z-34は土下座の仕方から学ばされることになった。
「頭の角度が3度足りません!やり直しです!」
「申し訳ございません...なお、我々の首の構造上、これ以上の角度は...」
「言い訳はNGです!」
誤算5:SNS炎上の渦中へ
事態収拾を図るため、帝国軍広報部が慎重に準備した投稿。
「地球の皆様と建設的な対話を...」
しかし。
「建設的って、今までは破壊的だったってこと!?」
「対話って、今まで聞く耳持ってなかったってこと!?」
「#宇宙人は謝罪しろ」
「#帝国軍は上から目線」
「#Z34は地球から出ていけ」
トレンド入りが止まらない。
ネット民の執念深い調査により、
宇宙船の製造年(2021年式)、価格(3000ガラクティカ)、
さらには艦内で流れている音楽(アイドルグループ「宇宙少女戦士」の最新曲)まで特定される始末。
最後の試練:バラエティ番組出演
「本日の『笑ってポン!』のゲストは、宇宙人の皆様です!」
Z-34は眉間にしわを寄せる。
「我々は視聴率稼ぎの道具ではない。帝国軍の威厳に関わる」
しかし、すでにスタジオでは。
「では、『全員集合ダンス』いってみましょう!」
「我々は侵略者なのに...って、え!?なぜ部下たちは踊っているんだ!?」
特別番組も立て続けに放送される。
「宇宙人の驚き体験!地球の常識クイズ」
「帝国軍司令官の(偽)実家に突撃!」
「宇宙船内だらけて見せます」
新たな最終報告書
「地球の報道システムは、我々の想像を超えていた。彼らは『視聴率』という名の武器を使い、我々の全てをコンテンツ化することで、侵略者としての威厳を完全に崩壊させた。
特に致命的だったのは、『視聴者プレゼント企画』である。
「宇宙人さんが実際に使った机を1名様に!」
「Z-34司令官と行く!母星バスツアー」
「宇宙船の前で記念撮影&サイン会」
我々は恐怖を与えるべき侵略者だったはずが、いつの間にかエンターテインメントの一部と化していた。
本部への提言:
日本のメディアへの対応は不可能。
彼らは『視聴者が求めている』という言葉の前には、いかなる抵抗も許さない。
さらに恐ろしいことに、我が軍の兵士たちですら、この状況を楽しんでいる節がある」
追伸:
報告書作成中、一人の兵士が私に近づいてきた。重要な軍事報告かと思い、厳かに頷く。
「失礼、電話だ...あ、プロデューサーさん!先日は素敵なお店にお連れいただき光栄でした。
ええ、生食率調整師(通称:芸人)との共演、大成功でしたね。第四級捕食生物のグリちゃんが暴れた時のリアクション、最高でしたよ。
普段はもっと凶暴なんですけどね。ちゃんと躾けてGOを出したのが良かったですねー
茂木坂99さんも次回呼んでいただけるんですか?ぜひぜひ、以前から共演させていただきたいと...
では、また後ほど」
「で、なんだ?」部下に向き直る。
威厳ある声音だったが、手には既に次回企画の台本が握られていた。
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