第5話
テンタから今の状況を聞いた後、ボク達は一度ご飯を探すために山小屋の外に出てみた。いざ歩いてみると、自分の体が以前とは比べ物にならないほど軽快に動いて、思わず驚いてしまった。
「わ、すごいや。すごく体が軽い。」
「ルルア様の体は私と同化したため、もともとのルルア様の身体能力に加えて、私の身体能力も加わっております。ですので普通の人間よりも、はるかに高い身体能力となっております。」
「それ、つまりすごく強くなったってこと?」
「そういう認識で間違いございません!!」
「じゃあテンタってすごく強かったんだ。」
「普通の魔物よりは強かった自信はございます。しかしながら、私の力及ばずとある人間に敗北して命からがらこの場所に逃げ伸びてきた次第なのです……。」
テンタはボクの横で少し声色に怒りを滲ませながら、ボクに拾われる前に何が起こったのかを語った。
「で・す・がっ、あの人間に殺されかけたおかげで、こうしてルルア様と出会うことができたので今はとても幸せでございます。」
「ははは、テンタが幸せならそれでいいかな。」
顔の横にあるテンタの頭を撫でていると、ボクのお腹から空腹を知らせる音が鳴った。
ぐぅぅぅ~。
「あ……お腹減っちゃったなぁ。テンタ、ボクに持ってきてくれた果物がある場所わかる?」
「お任せください!!あちらです!!」
テンタは自分の頭をある方向に伸ばして、食料のある方角を指し示してくれた。
「魔物がうろついている可能性がありますので、お気をつけてお進みください。」
「うん、わかった。」
そしてテンタが指し示した方向に進んでいると、目の前に大きな木が見えてきた。その木には見覚えのある赤い果物がたくさん実っていた。
「あ!!あった、あれだ。で、でもどうやってあんなに高いところにある実を採ろうかな。ボク、木登りなんてできないし……。」
「ふふふ、私にお任せくださいルルア様。」
自信たっぷりにそう言ったテンタ。すると驚くことに腰から生えていたテンタの体がグーンと伸びて、高いところにあった赤い果物を採ってくれた。
「お持ちしましたルルア様!!」
「ありがとうテンタ。」
テンタの頭を撫でながら、ボクは赤い果物にかじりついた。
「んっ、やっぱりちょっと酸っぱいけど美味しい。」
「ルルア様に貢献出来て、テンタは幸せでございます。」
「そ、そんなに喜ぶことかなぁ。」
そんな疑問を抱きながら、赤い果物を食べていると、後ろの茂みが不自然にガサッと揺れた。
「うん?」
「ルルア様、お気を付けください。魔物です。」
「えっ!?ま、魔物!?ぼ、ボク戦えないよ!!」
「ご安心ください!!ルルア様を狙う愚かな魔物はこの私っ!!テンタが片付けましょう!!」
そうやってテンタが張り切っていると、茂みから緑色の肌のボクよりも小さな小人が三人姿を現す。ボクはその小人に見覚えがあった。
「あっ、あれ図鑑で見たことある。確か……
「性懲りもなく、ここを縄張りとしているようですね。つい先日私に何匹も殺されたばかりだというのに……はぁ、知性のない魔物の行動は理解に苦しみます。」
やれやれと呆れた様子でテンタは、大きなため息を吐いた。
「テンタ、今何匹も殺したって言った?」
「はいっ、ルルア様の食料を取りに行っていた道の途中で邪魔をしてきましたので、10匹ほど排除したのです。」
「し、知らなかったよ。そんな危険な目に遭ってたなんて……。」
「心配はご無用です。こんな雑魚では私たちの体に傷一つつけられませんから。」
そう嬉々としてテンタが話した直後、一匹のゴブリンがボロボロのナイフを振りかざしながら走ってくる。
「ギエァァァァァッ!!」
「チッ……ルルア様との会話を、その汚い声で邪魔するな。」
ボクの顔の横にいたテンタが一瞬で姿を消したかと思えば、いつの間にかゴブリンの体をテンタが貫いていた。
「ギ……ゲ?」
「貴様の血は不味い。こんなものはルルア様の体に毒だ。」
テンタはすぐにゴブリンから体を引き抜いて、ボクの近くに戻ってくる。
「お、お帰りテンタ。」
「申し訳ございませんルルア様。ただいま綺麗にいたします。
紫色の血で汚れていたテンタは、何か呪文のようなものを唱えると一瞬で体が綺麗になっていた。
「そ、それもしかして魔法?」
「はいっ、今のは体を綺麗にしたり、呪いを浄化する魔法でございます。」
「すごいなぁテンタは……魔法って生まれつきそういう才能のある人じゃないと使えないって聞いたことがあるよ。」
「ご安心くださいルルア様!!私が扱うことのできる魔法は、ルルア様も扱えるようになっておりますので!!」
「えっ!?そうなんだ。」
「後程魔法の扱い方についてはご教授しますね。ルルア様であれば説明を少し聞いただけで使えるようになりますから!!」
「そ、そうかなぁ。」
「私が断言いたします!!」
「じゃあ後で、教えてくれると嬉しいな。」
ボクも魔法が使えるかもしれない可能性があることを聞いて、思わず期待に胸を膨らませていると、それがテンタにも伝わったようで、テンタは激しく頭を上下に振っていた。
「では、ほんの一部ですが……私の扱える魔法をお見せしましょう!!」
意気揚々とテンタは残る二匹のゴブリンへと視線を送る。
「ではまずは、こんな魔法から……。」
テンタがそう話していると、一匹のゴブリンの周囲を囲むようにたくさんの魔法陣が現れた。
「水魔法……激流槍。」
そう唱えたと同時、たくさんの魔法陣から放たれた槍の形をした水が、ゴブリンの体を貫いて穴だらけにしてしまう。
「ギャギャッ!?」
あっという間に二匹のゴブリンがテンタによって倒され、最後に残った一匹は怖くなったのか逃げ出してしまう。
「ルルア様に魔法を見せなければならないのだ、逃げることは許さない。
逃げるゴブリンの足元に魔法陣が現れたかと思えば、次の瞬間ボクたちの目の前にもう一つ魔法陣が現れ、そこに逃げていたゴブリンが引き戻されてきた。
「雷魔法……
引き戻されてきたゴブリンに向かって、突然空から巨大な雷が落ちてきて直撃した。雷が直撃したゴブリンは黒焦げになっていて、風が吹くとサラサラと灰になった体が崩れ去ってしまう。
「い、如何でしょうかルルア様。」
魔法の感想を求めてきたテンタだったけど、ボクはテンタが放った強力な魔法の衝撃が強すぎて,
開いた口がふさがらず、なかなか答えを返すことができなかった。
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