オーバーメイジ: 魔法が存在しない世界に転生したので、ゼロから魔法を作り出すことにしました。

surūku

第1話: 「すべてがめちゃくちゃだ。」

3158年、特異点の出現以後。


自然はその壮大な姿を見せつけ、生き物たちであふれていた。どこに目を向けても、深く鮮やかな濃緑色が日差しの下で輝いているように見えた。

周囲は無数の木々に囲まれており、エメラルドの海が目の届く限り広がっていた。それは、上空から見ても果てしない、無限の森のようだった。


空は実に壮麗だった。雲ひとつない純粋さが広がり、その美しさを損なう汚染の痕跡すらない。清らかで幻想的な青、その美しさはまるで神が描いたキャンバスのようだった。

高く昇る太陽が大地を光で包み込み、木々の色彩をさらに鮮明にしていた。緑は一層鮮やかで輝きを増し、自然の見事な光景が息をのむほどの美しさを放っていた。


そんな巨大な木々の高い枝の一つに、奇妙な風貌の青年が腰掛けていた。彼の瞳は珍しいピンク色に輝き、その髪は雪のように真っ白で、柔らかく顔にかかっていた。彼は足をぶらぶらと揺らしながら、遠くの地平線に目を向け、好奇心に満ちた視線をたたえていた。

「すごいなぁ!どれだけ見ていても、この世界には飽きることがない。」

彼は驚きと喜びに満ちた笑顔でそう言った。

風に吹かれて顔にかかった髪を払うように軽く頭を振りながら、彼は続けた。

「まるでおとぎ話から飛び出してきたようだ。」

彼の声は興奮と感嘆が入り混じっており、どこか夢見るような響きがあった。


突然、彼の口元から笑い声が漏れた。

「バカみたいだな、こんなことを言うなんて!でも間違いない、ここは紛れもなくファンタジーの世界だ。」

彼の瞳に思索の光が宿り、その表情は少し真剣なものへと変わった。

「でも…目に映るものだけじゃない。この場所全体、周囲のすべてが、何か特別なことを僕に求めているように感じる。」

彼の瞳に熱い輝きが灯り、広がる笑みがその顔に現れた。

「よし、少し楽しんでみようか!」


決意を込めて、彼は腕を前に差し出し、何かをしようとするかのように手を広げた。しかしその瞬間、木の下から女性の声が響き渡り、彼の集中を容赦なく断ち切った。

「ニカ!早く降りてきなさい!いつまでかかるのよ!」


突然の呼びかけに、彼は意識を現実に引き戻された。小さくため息をつき、手を下ろして木の幹に背を預け、諦めたような表情を浮かべた。

「はぁ、いつも一番いいところで邪魔が入るんだよな。」

彼は軽く苦笑しながらぼやき、その声にはほんのりとした苛立ちが混じっていたが、最後には静かな笑みに変わった。

「今行くよ、ルーシー!」

やる気のない様子ながらも声を張り上げて応じた。


最後にもう一度地平線を見つめると、彼は木から降りる準備を始めた。


***


2030年6月8日、キリスト暦後。


部屋は影に包まれていたが、完全な暗闇ではなかった。微かに青みがかった光が空中でちらつき、闇をわずかに破るだけの明るさを放っていた。しかし、その光はランプでも、電球でも、窓から差し込む光でもなかった。その源は、長方形の画面、モニターかテレビのようなもので、何らかのゲーム映像が映し出されていた。鮮やかに動くその映像だけが、この陰鬱な空間を照らしていた。


その部屋は暗いだけでなく、まさに惨状そのものだった。どこを見てもゴミが散乱し、制御不能な疫病のようにすべてを覆っていた。この光景はあまりにも酷く、足を踏み入れる者なら誰でも即座に嫌悪感を覚えるだろう。


床には食べ物の残骸が散らばっていた。空っぽのピザの箱やハンバーガーの包み、そしてくしゃくしゃになったポテトチップスの袋が無造作に転がっている。即席ラーメンの容器もあり、繰り返される怠惰な食生活の名残を感じさせた。しかし、それだけでは終わらない。部屋の隅に忘れ去られたゴミ袋が、無秩序に散らばる残骸と混ざり合い、まるで終わりのない汚物の海を作り出していた。


この部屋に住む者が、清潔さの概念を完全に放棄していることは明らかだった。しかし、その混沌の中で、不思議なことに比較的綺麗に保たれているものが一つだけあった。それはベッドだった。


そのベッド――混乱の中の唯一の安息地――には、一人の人間が横たわっていた。彼の乱れた外見と虚ろな姿勢は、周囲の環境に負けず劣らず陰鬱だった。天井をぼんやりと見つめる彼の目には、輝きも生命力もなく、ただ無限の虚無だけが映し出されていた。


その悲しげで疲れた瞳は、瞬きも少なく、何も語らずとも多くを物語っていた。それは、希望を失い、生きる意志さえも失った人間の目だった。


わずかに身を捩り、彼は体を横向きにし、顔を枕に沈めた。その視線は気だるげに部屋の中をさまよい、存在しないと知りながら何かを探すように各隅で止まった。


彼は重いため息をつき、その息には肉体的な疲労を超えた重さが込められていた。


「部屋がめちゃくちゃだな…」彼はぼそりと呟いた。その声はほとんど聞き取れないほど小さかった。「最後に掃除したのがいつだったか、もう覚えてない。」


再び彼の視線は混沌とした部屋を見渡したが、今度はどこか自己への冷酷さに近い無関心さが伴っていた。


「掃除するべきか?」彼は誰にも答えを期待せずに問うた。その声は、この部屋のように空っぽだった。


少し間を置いて、彼は首を横に振り、呟いた。「やっぱりやめよう…。どうせ意味なんてない。」


その言葉は重く、諦めに満ちた響きを伴い、薄暗い部屋に反響した。


「誰も来るわけないし、やらなくても何も言われない。」


不快な沈黙が部屋を包み込む。モニターの音とゲームの音だけが静寂を破っていた。


「話すのも疲れるな…」彼はようやく呟き、重く目を閉じた。


その体はベッドの上で微動だにせず、目を覚ましていることさえも彼にとっては越えられない試練のようだった。


「もう何もしたくない…。ベッドから出るなんてもっと無理だ。」彼はほとんど聞こえない声で呟き、部屋を支配する重苦しい沈黙を破った。


その顔には痛ましいほどの悲しみが刻まれていた。目の下の深いクマは、眠れない夜――もしくは休息を拒む精神――の証だった。


彼の服は汚れてしわだらけで、正体不明の染みが無数に付いており、何週間も放置された様子が見て取れた。そのあまりにも乱れた外見は見る者にとって辛いものだった。その場に遭遇した誰もが、哀れみと絶望の入り混じった感情を抱くに違いない。


彼はわずかに身を動かし、再び同じ体勢に戻った。視線は天井に戻り、空虚で焦点の合わないままだった。唇にかすかな苦笑が浮かぶ。

いつから全てがうまくいかなくなったんだろう? そう考えながら、彼は乾いた笑い声を漏らした。それは溜息にも満たないほどかすかな音だった。


だが、その問いに答えを見つけるのに、さほど時間はかからなかった。

いや、全てがうまくいかなくなった瞬間なんて存在しない。生まれた瞬間から、何一つうまくいったことなんてなかったんだ。


その思いは、痛みを伴う真実として彼の心に深く沈み込んだ。それはずっとそこにあったものだが、今ではこれまで以上に重くのしかかっていた。彼は目を閉じ、静かに涙が頬を伝うままにした。腕で目を覆い、避けられないもの――押し寄せてくる記憶の嵐――を隠そうとした。


彼の過去の断片が混沌とした形で現れた。それは、どうしても組み合わせられないパズルの欠片のようだった。

彼が覚えている限り、人生は終わりのない闘争の連続だった。


8歳か9歳くらいの子供の頃、彼が望んでいたのは、他の人にとってはごく自然で簡単なことだった――両親の愛情。ただ、彼らに見てもらいたかった。子供を抱きしめるように、彼を抱きしめてもらいたかった。「よくやったな」とか「私たちはお前を誇りに思う」といった優しい言葉をかけてもらいたかった。それだけだった。

他の子供たちにとって、親の愛情や褒め言葉を受け取ることは日常茶飯事だった。しかし彼にとっては……。


彼が記憶している限り、生き延びるための最低限のものしか与えられたことはなかった。愛情のこもった言葉も、優しい仕草もなかった。ただの基本――食べ物、服、そして屋根の下での暮らし――それだけだった。

彼の家族は大家族で、全部で7人の子供がいた。彼は4番目、ちょうど真ん中に位置していた。年上と年下の兄弟たちに挟まれた彼は、なぜかいつも両親の注目の中心から外れていた。年上の兄弟たちはその成果を褒められ、年下の兄弟たちは甘やかされていた。しかし彼だけは……常にその計算の外に置かれていた。


どうして彼らには全てが与えられるのに、俺には何もないんだ? 彼は何度もそう思い、答えを見つけることができなかった。


兄弟たちとは違って、彼専用のメイドはいなかった。いや、厳密には一人いたが、彼の専属というわけではなかった。そのメイドは家族全体の管理を担当しており、時折彼の世話をしてくれることもあったが、いつも時間に追われていた。彼が彼女に会うことは稀で、その出会いも短命なものだった。


兄弟たちとの関係は……存在しないか、むしろ敵対的だった。彼らはいつも彼をいじめ、見下していた。平和な瞬間など一度もなかった。


そして両親……彼らはまるで幽霊のようだった。彼はほとんど彼らを見ることがなく、見たとしても長時間ではなかった。彼らの注意を少しでも受けることなく、完全に忘れ去られて、夕食も抜きで過ごした日々や夜がいくつもあった。


彼は幼い頃から兄弟たちを注意深く観察し、自分がなぜ同じ扱いを受けられないのかを理解しようとしていた。何週間も、何ヶ月もかけて彼らの生活のすべてを分析した。そして彼が発見したことは、明確であると同時に痛烈だった。


彼の家族の中で、特別でないのは彼だけだった。


兄弟たちは、まるで神々によって彫られたかのような完璧な顔立ちを持ち、自信に満ち溢れた存在感を放っていた。その光はすべての注目――両親の注目すらも――引き寄せた。それに対して、彼はその真逆だった。顔立ちは平凡で、存在感は薄かった。


もし特別に生まれなかったのなら、何か特別なものを自分で作り出さなければならない。 彼はそう思い、愛を渇望する子供の無垢な決意でそう誓った。


彼が望んでいたのはただ、見てもらうことだった。両親に気づいてもらい、自分も彼らの一員として認めてもらい、兄弟たちと同じように愛情と尊敬を受けることだった。しかし、母親に近づこうとするたびに、彼女は冷たく突き放した。それはまるで、彼の存在そのものが忘れたい何かを思い出させるかのようだった。


兄弟たちの生まれ持った才能に勝てないことを悟った彼は、決心した――最高の学生になろうと。小学校から高校まで、彼は自分の時間をすべて勉強に捧げた。彼は誰よりも努力し、学業での成果が両親の注意と愛情を得るために十分だと信じていた。


しかし、彼が望んだ認められる瞬間は決して訪れなかった。


いくら成績優秀者の名簿のトップに彼の名前が載っても、両親は無関心のままだった。その無関心と、自分に課した過度なプレッシャーが重なり、彼の心に不安が広がった。そのストレスの捌け口となったのは食べ物だった。そして気づけば、彼の身体はそのフラストレーションを如実に映し出していた。


数年後、彼の世界は一変する。


そのきっかけは、彼に優しく接してくれる数少ない存在の一人、年上の姉だった。彼女は長い間隠されてきた真実を彼に打ち明けたのだ。今の母親は本当の母親ではない、と。


実際には、彼は父親と17歳の少女との不倫の末に生まれた子どもだった。姉によると、その少女は家族によって経済的または政治的な利益と引き換えに売られたのだという。その結婚は愛情とは無縁で、取引のようなものだった。


その真実は雪崩のように彼に押し寄せた。そしてすべてが繋がった。長年彼を苦しめていた疑問に、ようやく答えが見つかったのだ。彼がその家族の中で居場所を感じられなかったのは、自身の存在が過去の不都合な記憶を思い出させるものだったからだ。


しかし、その答えは彼に安堵ではなく、怒りをもたらした。


その怒りは、消えることのない炎のようだった。彼は、決して自分を本当の家族として見ていない人々の愛を得るために努力してきた自分自身を憎んだ。そしてその原因を作った父親のことを、もっと強く憎んだ。


姉の話によれば、彼の実の母親は彼を産む際に亡くなったという。彼女は虚弱な少女で、出産の合併症に耐えられる身体ではなかった。自分を無条件に愛してくれたかもしれない唯一の存在が、彼をこの世に生み出す代償として消えてしまった。その事実は、彼の心にさらなる虚しさを刻んだ。


それでも、年上の姉は彼のそばにいてくれた。彼が決して会うことのない母親と繋がる唯一の存在だった。そしてもう一人、彼が知っている唯一の母親的存在である家政婦もいた。ただし、彼女との関係は、その役割の限界によって常に距離を伴うものだった。


そんな彼を支えてくれた彼女たちのおかげで、彼はある決断を下すことができた。それは家族を捨てて生きる道だった。


時が流れ、彼は努力の末に高校を優秀な成績で卒業した。姉は相変わらず彼を支え、彼が家族と二度と関わることのないほど遠くへ引っ越すのを手伝ってくれた。


こうして、彼はついに一人になった。過去の痛みで縛るものも、留める根もなくなった。


初めて、すべてが自分自身の手に委ねられたのだ。


新しい生活は順調に始まった。引っ越し先では安定した仕事を見つけ、彼がずっと夢見ていた「システム工学」の学位の勉強を始めた。すべてがうまくいっているように思えた。


自分の家で暮らし、よい収入の仕事があり、学業の成績も完璧だった。もう両親や兄弟、あるいは過去の痛みを共有する人々の承認は必要なかった。彼は自由で、完全に独立していた。その感覚は新鮮であり、素晴らしいものだった。


ついに、彼は夢見た人生を手に入れたのだ。


しかし、その胸の奥底には、何をしても埋められない虚しさがあった。彼の一部は、決して手に入らない何かを渇望していた。それは家族だった。特に、実の母親に会いたいという思いだった。話をしたい、声を聞きたい、それがたった一度であっても。


不可能な願いだった。しかし、彼はそれを夢見ることをやめられなかった。

すべては順調だった……彼の学業の二年目までは。だがその頃から、疑念が芽生え始めた。最初はほんの小さなもの、頭の片隅で囁く程度だった。だが、それらの疑問は少しずつ大きくなり、次第に強く主張し始めた。


「あの頃、勉強をやめようと思ったことを覚えている」

胸の奥に苦い悲しみが広がるのを感じながら、彼は心の中で呟いた。

「はっきり覚えている。あの瞬間から、すべてがまた崩れ始めたんだ」


目を閉じ、こみ上げる涙を堪えようとした。だが、涙は止まらなかった。


彼の心はあの頃に戻り、あらゆる細部を思い出していた。すべての疑念、すべての苦悩の瞬間を。

もしあの時……

フラストレーションが彼を飲み込む。

もしあの時、あの瞬間に学業を辞める決断をしていたら、こんな汚い場所で、こんな情けない状態でいることはなかったのに!

彼は心の中で叫んだ。止まらない涙が頬を伝う中で。


震える手で顔を覆い、部屋に響く嗚咽を必死に押し殺そうとした。

「あのプログラムを辞めて、彼女と出会わなかったら、俺はどうなっていただろうか……?」


その問いは永遠に彼の心に反響し続けた。そして、まるで残酷な鏡のように、自分自身の声が答えを返した。

「きっと、俺の人生はこんなふうに崩れなかっただろう」


―続く―




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る