第9話 心晴

 冷たい風が吹きすさぶ。

 鼻をすすりながら、昇降口に入る。


 学年問わず、たくさんの生徒たちでにぎわっていた。


 心晴こはるは、靴箱から上靴を取り出して、すのこの上に置いた。


「あれぇ! 心晴?! その髪型どうしたの? ボブカット……だね」


 同じクラスの風花ふうかが声をかけてきた。途中言いかけたのは、きっと男子みたいと言いたいんだろうなと想像する。


「うん。切ってみた」


「え、ちょっと、待って。失恋とかじゃない?」


「……それはこれぽっちもない」


「だ、だよね。あまりにも短いから本当びっくりした。確か、前の髪型はポニーテールじゃなかった?」


「……そうだったかな」


 心晴は気にせず、廊下を突き進む。後ろから風花が着いてきた。


「どうして、そこまで切っちゃったのよ」


「シャンプーが楽だよ。ドライヤーも」


「これから冬で寒くなるのに?」


「いいじゃん。すぐ寝れるよ」


「そういうことじゃなくて……」


 そんな話をしていると、部活で一緒の2個上の琉生るい先輩が彼女と共に通りかかる。


「おはよう」


 少し驚いた顔をして心晴をじろじろと見ていた。


「おはようございます」


 うつむきながら言う。


「髪切った?」


「そうですね。楽です、だいぶ」


 心晴は、心にも無い作り笑いで返答した。

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