第33話 慈愛の家と新たな出会い
「マジかよ……」
「わん!」
豪邸だ。
喋る木の口の中には、豪邸がありました。
広間に豪華な造りの調度品。
海外の格式あるホテルのロビーのような内装。
床なんて磨かれた大理石だぞ……!
『よォウ、マイマスタァァァァァ、ようこそようこそォ、ワタシ様の中へぇ!』
「……家がしゃべっているのか?」
『ああ、その通りだぜぇ! こんにちはこんにちは、こんにちはァ! ここは大広間だぁ! 遊びに来た友人に、ワタシ様の豪華さを思いっきりアピールしてくれよなァ!! おっと、くだらない話をしてる場合じゃねえやァ、そちらのけが人は治療室に運んでやんなァ!』
戸惑ったが、タボが何も警戒していない。
それどころか、かちゃかちゃ爪を鳴らして、部屋を進んでいく。
勝手知ったる我が家、みたいだ……
「すげえ……」
大理石の壁に太い蔦が伝わっている。
天蓋付きのベッドが1つ。
天井には……プラネタリウム??? 黒い天井にきらきらした光がちりばめられている。
『ここが治療室!! そこのお嬢ちゃんは綿毛のベッドに寝かしてやんなァ!! ケガァしてるみたいだなァ! ノーム共! 客人に癒し粉を!!』
『『『『『はーい!』』』』』
「うお!」
部屋の至る所から、わらわらと小人が現れる。
三角帽子にパジャマみたいな服、ほんまに小人やんけ。
『えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ』
『ますたーまいまいまいまいますたー、お客人をベッドに乗せて!!』
『ますたーますたーますますますたー、傷ついたお客人をベッドに寝かせて!』
「ええ……急にディ〇ニー……」
とりあえず負ぶっているVtuberさんをベッドに寝かせる。
ふかふかの丸いベッド、すげえ身体が沈んでいく。
『けが人!』
『骨、折れてる!!』
『粉、粉、粉、粉を振りかけなきゃ!!』
「おい、待て待て待て!」
『『『『?????』』』』
「一斉に首を傾げるな、何をしている、おまえたち」
『粉! 粉粉粉!』
『粉をね、かけて体をゆっくり治すの!!』
『粉をかけると、10年眠って身体が治るの!』
小人たちが総出で抱える袋、口から毒々しい色の粉が覗き見える……。
「それ毒じゃないか!? だめだめだめ、その粉、しまいなさい!」
『えー』『ボス―、マスターが粉、ダメってー!』『粉はねー毒だってー!』
『ええええええ! なんでだよ、まいますたァ、その人間放っておくと死ぬぜ?? 教会のカスどもの治癒術はあぶねーからよォ! 粉で眠らせた方がいーって!!』
「時間感覚が狂ってるのか!? 10年間眠ってケガを治すのは治療ではなく昏睡だ!」
『ん~??? アア、なーるほど、そっかァ! 今は戦争じゃねえのか。人間は寿命が短くて大変だねえ~』
おそらくこいつらは、人間と感覚が違う。
異世界め、めちゃくちゃな奴しかいないのか。
『でもよ~まいますたァ~、どうすんンだよォ~、その竜の騎士、けっこー傷んでるぜ! 竜の血があるとは言え、長くはねえ。見殺しなんかいやだぜ~』
「いや、見殺しにする気はない」
『あー? どうするつもりだよ?』
「こうするんだよ」
トクトクトクトクトク。
回復薬を取り出し、そのまま患部に流す。
粘性のある液体がわずかにベッドを濡らす。
『エッ』
ジユウウウウ。
緑の煙、回復薬が傷を治すときの反応だ。
ゴキキキキキキキ。
変な方向に捻れていたVtuberさんの腕や足首が歪な音を立てながら元の形に戻っていく。
『き、貴公! 主人の傷が治っていくぞ!』
「ああ、問題は無さそうだな」
やはり、副作用とかはなさそうだ。
ふむ、だがなあ、なんか引っかかる。
俺、薬師の設定どんなものを書いたか微妙に忘れているんだよな
そんな杞憂もつゆ知らず、ワイバーンがぴょんぴょんとベッドの周りを跳ね回る。
うんうん、まあ、結果的には全員生存。
上々の成果じゃないか。
『『『『………………』』』』
あれ、小人共が固まっている……。どうしたんだ、こいつら。
『オイオイオイオイオイ!!?? マジ!? マジかァ〜!? マイマスター、それお前、まさか、回復薬、か〜!?』
「うお、声でか!」
地響きのような、
『マジかマジかマジかァ~、パーラーハーラ、本当にこの人ァ、陛下の言ってた幕引きなんだなァ~、まさか、陛下以外に回復薬を作っちまう奴がいるなんてよ~!』
「陛下……フランシスも同じ事を言っていたな」
『おっと! あのバカとも会ったのか!? ……って、パーラハーラとあのバカが陛下なしに出会って、パーラハーラが生きてるっつーことは……はあ、あのバカ、死んだか』
「……」
そうだ、こいつ、そういえば、厄王軍とか言っていたな。
フランシスの仲間だった場合、どうなる?
タボとは険悪な仲ではなさそうだが……。
敵対した場合、どうやれば殺せる? 木だぞ?? 殴るか?
『おおっと、マイマスタァ、毒気出すのはやめておくれぇ、安心しなあ、ワタシ様はフランシスのバカとは違う解釈でね。アンタと敵対する気はねえよ。はははは。さすが、厄の香気を纏った人間、陛下と同じで恐ろしいや!』
『『『こわーい!! でも、回復薬すごーい!!』』』
小人達も拍手。
だが、フランシスと言い、こいつらと言い……。
回復薬に相当な反応だな。
「ン……ウ……」
『あ!! 主人!!』
「え……ウェル……? なん、で、お前、オレのせいで、死んで……」
『死んでない! この通り生きているぞ! 主人!』
「な、なんで……そ、それに、ここは、どこだ? オレ、ゴブリンに……あれ? ケガが……身体、痛くねえ……」
ワイバーンがVtuberさんの膝に乗る。
でかい七面鳥が懐いてるみたいで面白いな……。
『薬師殿だ! 彼が我々を助けてくれた!!
「えっ??」
おっと、Vtuberさんが俺に気付いたみたいだ。
ルビーのような真っ赤な瞳、しみ1つない真っ白な肌。
日の光に照らされた新雪のような白銀の長髪。
凄いな。
3Dモデルが現実化すると、こんなに現実離れした美しい容姿になるのか。
ハスキーボイスの超美少女が俺を見て固まっている。
正直、あまりVtuberには詳しくない……。
しかし、現代でVtuberと言えば、芸能界をも超えるエンタメ界のトップ。
有名人って奴だ。
ここはまあ、無難に挨拶からだな。
「初めまして、友村友人です。貴女と同じ、エルダーフロンティアの先行プレイに参加し、この世界に転移したプレイヤーです」
「ぇ、トモムラ、トモヒト……?」
む?
なんか、お嬢さんの顔が固まったぞ。
挨拶が少し硬すぎたか?
少し、フランクにしてみるか。
だが、女性だしな、丁寧に越した事はない。
俺はその場で片膝をついて。
「無事でよかったです、お嬢さん。そこのワイバーンの言う通り、貴女はもう安全です。傷も恐らく残ることはないでしょう」
「ァ、ソウ、っスカ……あ、ありがと、ございます」
お、少し緊張が薄れた気がするぞ。
この調子で――。
――アンタさ、もう少し女子に優しく対応してあげなよ。だからモテないんじゃない?
……ふと、昔の友人の言葉を思い出す。
そうだ、女性の扱いが下手なのをよくしかられていたな。
今こそ、あの経験を生かす時!!!
優しく対応……優しく、優しく!!
「痛む所はありませんか? 女性の身体に何かあったら一大事ですからね。もし、まだ痛む所あったら――」
『き、貴公!! 待て! 今、主人の事をなんて言った!!?? や、やはり、貴公、勘違いしているな!』
「え?」
「……」
なんだ、この空気は??
俺は大人として至極当たり前な対応をしたはずだ。
なのに、ワイバーンは荒ぶる鷹のポーズだし、小人は口元を抑えて固まっている。
そして、Vtuberさんは……。
あれ、俯いて、肩が震えているような……。
「オ、オトコッス」
「え」
綺麗な顔は真っ赤に染まっている。
プルプル震える彼女――いや、彼が桜色の唇を開いて。
「オレ、イエ、ジブン……オトコッス」
マジで??
けしけし、退屈そうにお座りして後ろ足で首を掻くタボ。
「ワ~ァフ……」
大きなあくびが部屋に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます