第23話 あるVtuberのありふれた終わりの1つ
失敗した。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
オレは失敗した。
エルダーフロンティア。
世界初の完全フルダイブゲーム。
事務所からこのゲームの仕事が入った時は歓喜した。
ファンタジーの世界に入ってそこで冒険するなんて。
ロマンじゃん。
そんなの嫌いな男はいねえだろ。
だからすぐに飛びついた。
事務所の友達とか先輩、ユニットの仲間、後輩、妹にも声かけて。
そんで、ゲームに参加して――。
【ログアウトは出来ません。その機能は削除しました!! イエーイ!!】
最悪の時間が始まった。
楽しいハズのゲームが、ガチの異世界サバイバルに。
尊敬してた先輩が、目の前で3人死んだ。
まだVtuberが全然世間に浸透してない頃から、ずっと活動していた3人。
あれで、大勢のライバーの心が折れた。
俺と妹も配信とかそんなのもう何も考えれなくなって。
キャラとか、リスナーにどう見られているのかとかも全然考えられねえ。
プロ失格だ。
配信されてるのがわかってて、あんな姿をリスナーに見せちまった。
でも、怖くて、動けなかった。
この世界で与えられていた家から出られなかった。
その時、あの動画を見た。
部屋から出てこない妹の食事を用意してた時、
運営が”切り抜き”として称したその動画には――。
『今のは悲鳴かァ!? クソみてえな匂いの毒も!! てめえの悲鳴と一緒なら、ミストサウナみてえなモンだ!』
そこには、俺の理想が映っていた。
マジの異世界転移、命を賭けたサバイバル。
でも、そんな事関係ないようにモンスターと渡り合うその姿。
衝撃的だった。調べるとその人は、ライバーじゃなかった。
先行プレイヤーの1人だ。
俺は、恥ずかしくなった。
びびって、家に引っ込んで、何してんだって。
その瞬間、気付いたら俺はライバー達の会議所で突撃してた。
幸い俺らはステータスを見ると、この世界でもかなり強い存在だって事を知った。
運営の情報、星の柱。
アレをクリアすれば元の世界に戻れる。
会議に出てたライバーで話し合い、攻略組を選抜。
勇んで星の塔に挑戦して――。
ああ、クソ。
最悪だった。
あれだけゲーム配信して、お約束って奴を理解してたハズなのに。
調子に乗った奴から、たいてい死んでいくって。
いざ、異世界ファンタジーが現実になると駄目だった。
俺らは選択をミスった。
単純な話だ。
レベル不足、練度不足、経験不足。
ああ、もう言うわ。
舐めてたんだ、この世界を。
ライバーは皆――勇者っていう特別なクラスを与えられていた。
皆、強いスキルをもって、特別なアイテムをもって。
だから、浮かれてた。
ゴブリン、オーク、スライム、コウモリ。
そんなRPGゲームだと序盤の雑魚でしかないモンスター。
それすら、勝てなかった。
攻略組は、全滅。撤退。
散りじりに逃げたもんだから、誰が生き残ったかもわからない。
おまけに、俺は途中で罠に引っ掛かった。
転移罠。
魔物から逃げている最中に、魔法陣を踏んだ瞬間――俺は気付けば空の中。
ペットのワイバーンのおかげで難を逃れたと思えば、気付けばワイバーンは撃ち抜かれて。
ああ。ごめん、ごめんなァ……。
俺がバカであほで無能なせいで。
死なせちまった、死なせちまったよお……。
かっこ悪ィ……
この世界にきてからやる事なすこと全部駄目じゃねぇか……。
俺は今更、気付いちまった。
俺は俺が思ったより、ダサい奴だったみたいだって。
だから、これは、罰なのかもしれない。
自分の無能で、多くに迷惑を掛けた俺への。
「げげげげげげ」
「GOBBBBBB」
「げひひひひ」
饐えた匂い。
じめっとした淀んだ空気。
松明の、焦げ臭い香り。
いびつな顔をしたゴブリンに囲まれている。
オレは両手を縄で縛られ、首輪をつけられている。
首輪は壁につながって、外れそうにもなかった。
洞窟……?
いや、その割には……人の手が入っているような。
RPGで言えば、地下墓って言うのか?
ああ。クソ、ダークファンタジー系のゲームを配信でやりまくっていたのを思い出す。
こういう所に連れ去られた冒険者がどうなるか。
お約束だ、大抵死ぬ。
オレは、ここで死ぬ。
「GOBBBB」
「GORB」
オレを囲むゴブリン。
いや、そのゴブリンを従える、モンスターに殺される。
『美しい。美しいものはただそれだけで価値がある……そう思わないかい? 竜血の騎士よ』
そいつは、骨で出来た玉座に座っている。
長い白髪、筋骨隆々の肉体、背中には黒い翼と長い尻尾。
悪魔……ゲームで言えば強キャラだ。
『おや? 存外にお詳しいようで。勉強熱心なのですね』
……最悪だ、こいつ。
オレの心を、思考を読めるのかよ……。
『魔力の応用さ。ここの薄汚いゴブリン共も、同じ仕組みで操ってるんだ』
「……そりゃァ、やばいね」
『ははは、見れば見るほど良い。とても美しい。貴方、本当に雄かい? 水銀を梳かしたような銀の髪。月明りのような白い肌……男を惑わす桜色の唇、濡れる雨の日のような瞳……ここまで美しい人間は珍しい』
「……母親が上手くてなァ……見た目はこんなだが、しっかり男ですゥ」
Vtuberは全員、実際に配信で使ってるキャラアバターでこの世界にきている。
オレも例に漏れない。
『美しい……真の美しさに性別も関係ないわけだ。私はやはり運がいい、このような美しい竜血を持つ騎士に出会えるなんて……貴方はとてもきれいだ、お名前を伺っても?』
「あー。手錠と首輪を外してくれればら名乗ってもいいけどね……」
『はははは。可愛いね。本当に可愛い。恐ろしくてたまらないのに、虚勢を張っている。それもまた美しさの一つだね』
ぱちん。
悪魔が、指を鳴らす。
その瞬間、オレを縛る縄と首輪に繋がっている鎖が外れた。
「あ?」
「GOBBBBBB」
「GOB」
『あなたの美しさに免じて、1つだけ生存の機会を与えましょう」
「……なに?」
『お逃げなさい、もしもゴブリン共に捕まらず我が聖堂から出る事が出来れば、貴方の勝ちとしましょう』
「……お前、何がしたいんだ?」
『――美しいものが大好きなのです。ただ、それだけですよ』
にこり微笑む、外套を羽織った悪魔。
女、だろうか。
ゾッとするほど、綺麗で小さな卵型の顔。
青い肌に、黒い翼はまさに、悪魔……。
長い脚を組みなおし、余裕たっぷりな顔でオレを見つめる。
分かってる。
これがもし、ゲームだったらオレはこいつらに攻撃してる。
でもだめだ。
「GOB」
「ひっ」
そいつらは、オレを見ている。
オレの顔を、オレの首を、オレの腕を、オレの脚を。
ひときわでかい、巨人のようなゴブリンもいる。
白い息、零れるよだれ、血走った目――腰蓑、下半身の一部がなぜか膨らんでいた。
「GOB」
「GOBBBBBBBB」
「GOBU!!!!!!!!」
武器。
ボロボロの槍、剣、鎚、トゲ付きのこん棒。
汚い汚物が塗りたくられたそれを掲げて。
『はははは、どうやら彼らは……貴方に興味津々みたい。仲良くなりたいみたいだよ』
悪魔の言葉の意味が理解出来てしまう。
こいつら、男でも、見境が……!
「う、う、うあ、うわあああああああ」
気付けば、足が勝手に動いた。
逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ……!
俺はそいつらに背中を向ける、出口、出口、出口、出口!!
どさっ……。
「えっ……」
なに……なん、で。
身体が、動かないんだよ!!??
駄目だ、早く立たなきゃ……。
『おや……これは、これは……どうしたんだい? 逃げなくていいのかな?』
「か、身体、待っ、動かないッ……」
『ははは、怯えた顔も綺麗だね。本当に雄とは思えないや……!」
『麻痺毒……時に、毒とは空気に混じるものもあるのは知ってるかい?』
ちりん、ちりん。
女の悪魔が掌に乗せた小さな……鈴?
そこから、黄色の煙が立ち昇って……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます