10日目:Vtuberを救え!

第17話 10日目:ワイバーン墜落

 


 そろそろ野宿はやめるか。


 異世界生活10日目の朝。


日課の毒スキル修行をひと段落した時の事だ。


 薬師スキルの影響だろうか。

 外で眠るのが異常に心地よかったせいでずっと野宿生活だった。


 スキル経験値の伸びも、毒手スキルが進化したせいか、少しずつだが悪くなってきている。


 ここらで、生活環境向上の為に拠点を探してもいいかも知れない。



「わふ!! キューン!」



 そうそう、たぼのふわふわ毛皮が暖かいのも原因なんだ。

 ほんと布団いらずで可愛いね。


「きゅーん! きゅーん! わんわん! わふ!!」


 ふむ……だか、そろそろか?

 スキルの特訓もかなりの所まで来た。

 回復薬の備蓄もこつこつやってたらかなりの個数になっている……。


「そろそろ、味覚薬確保の為に動いていいかもしれん……」



 実は、6日目を過ぎた頃から外敵の察知スキルに変化が訪れた。


 レシピ本を開くと破れたページのありかを幻視できる。


 幻視の最中に外敵の察知スキルを使うと、その場所にいる連中の強さがわかるのだが……



 ~~~~

 外敵の察知、発動

 世界樹林・死王の蟲野営地との戦力評価

 ”覚悟が必要だが、良い勝負が出来るだろう”

 ~~~~


 ――2日目と戦力評価が変わっている。


 最初は、確か”命が3つあれば制圧できるだろう”とかいう無理目のメッセージだった。



「……強く、なっているのか?」


 確かに6日目は俺の毒手スキルにとって転機だった。

 植物園の夢? 

 あそこで俺はついに家族を名乗る不審者から教えられた技術の足掛かりをつかんだ。



 ”装”。

 毒手からあふれる毒液を自らの意思で操り、固定する技術だ。



 腕に毒液を纏う事で、シンプルな毒手でのパンチが劇的に変化する。


 木を殴るスキル修行もこれで一気に効率が上がった。


 拳の威力の上昇。

 拳の保護。

 そして毒による攻撃。


 まさに、毒手を持つ者が戦うための技術だ。


 スキルツリーでは得る事のできない技。

 ……エルマはどうしてこんな技術を知っているのだろうか。



「きゅ~ん……わふわふ」


「ん、どうした? たぼ」


 たぼが俺の手を舐めてきゅんきゅんと鳴く。


 撫でてほしくなったのお~? 

 いいよお~と、たぷたぷの首の肉と皮を撫でまわそうとして。



「わんわん! きゅ~ん! たぼ――ワォオーーーーーーーォン……」


「うお」


 たぼが空を見上げて、急に遠吠えを始めた。


 え、そんな……お前、ふだん、きゅんきゅんふがふがしとか鳴かない半分狸みたいな犬だったのに。



「――わふ……」


 たぼが、はっとした顔で遠吠えをやめる。

 ぶるるるると身体を震わせ、身体を伏せて前足に顔を埋める。


 ちらっと、たぼが前足の隙間から俺を見つめる。


 まるで、遠吠えした事で怒られるのを覚悟しているような――。



「やだあああああ、かっこいい!! たぼちゃん、お前、遠吠えできたのおおおおおおお」


「わふ!? ――わん!! わん!」


 俺は、たぼを抱きしめる。

 少しびっくりしたが、別に近所に誰もいないし遠吠えくらいいいだろう。


 ……あのクソカス犬虐待野郎達の元で、吠えたタボがどんな目に遭っていたか。


 容易に検討が付く。

 あいつら、できれば俺がてずから始末してやりたかった……。



「わんわん! ふが、ォオォオォオォオォン!」


「はははは、ああ、ほえろ、吠えろ。遠吠えも出来ないなら無理か。犬はね、遠吠えしないと――ん?」


 タボを撫でながら気付く。

 こいつ、さっきからやけに空を見ているような。


 俺は、そのままタボが見ている空を眺めて。



「え」


 ぶわっ。影が俺を覆う。


 青い空。

 太陽を遮るように広がる翼。赤い鱗、長い尾。


 それは、ファンタジー世界になくてはならない伝説の生物。



「ごおおおおおおおおおおおおおおお!!」



 竜、だ。

 二本足に、腕代わりの大きな翼。


 脚はまるで、太い鷹の脚みたいな……

 そんな大空の覇者、竜が空を飛んで――。


「人だ……」


 よく見ると、あの竜、背中に人を乗せている。


 ……なんとなく、ふらふらしているような……。


「わん!!」


「お?」


 どひゅん!!!!

 その時だ、同時に森の木々がざわめき、大きく揺れた。


 台風の日、沖縄の沿岸にはえているヤシの木並みに揺れている。 

 風!? いや、違う……!



「衝撃波……!?」


 森のどこからか放たれた衝撃波、そして。


「ォオォ……」


「あ……」


 いつのまにか、空を飛ぶ竜の胸に、大きな杭のようなものが刺さっている。


 血をこぼしながら、それでも羽ばたく竜。


 しかし、みるみる高度を落として――。

 あっという間に、森のどこかに墜落していった……。



「え、ええ……」


 目の前で一気に起こったイベントに頭が付いていかない。


 だが、1つわかるのは――あの竜には人が乗っていた。


 これもまた、選択だろう。

 墜落した竜。関わりにならないほうが安全だろう。


 それに、あの竜を撃ち落とした存在が近くにいるかもしれない。

 明らかに危険だ。


 味覚薬の確保の前に、みすみす必要のない危険に飛び込むなど……ありえない。


 ……ん? 待てよ。


 確か、この地域、世界樹林の設定俺が書いたな……。


 ウッドエルフという種族の設定も書いたぞ。


 ……そして、竜撃ちという文化の設定を書いた記憶がある……。


 ウッドエルフ達は、弓の腕を常に競っており種族にとって竜を射る事こそ誉れ、みたいな……


 と言う事はもしかして……まさか



「え、俺のせい?」

「わん」


 まずい、俺が深夜2時のテンションで描いた設定で人が死ぬ……!!


 冗談じゃない!

 ペンで人を殺すってそう言う意味じゃないだろう!


「頼む、死ななないでくれよ!!」


 俺の良心の為に!!

 こんな事で人殺しになるなんて冗談じゃないぞ!!


「わん!!」


「――ついてきてくれるのか、タボ」


「――わんわんわん!!」


クソ!! どうしてこうなった!!


俺は只、重厚な世界観を考えた結果、好戦的な事が原因で少数派になり、文明圏から追放されたエルフいいよね……


と性癖に従っただけなのに!!


だがもう、こうなってしまっては――。

 


「行くしか、ないだろ……!」

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