辺境薬師はVtuber達の異世界攻略の裏で最強を目指す~最弱毒属性アラサーのコツコツ回復薬密売ビジネス
しば犬部隊
異世界転移:初日
第1話【ログアウトは出来ません。その機能は削除しました!! イエーイ!!】
◇初日:エルダーフロンティア、スタート画面にて◇
【ログアウトは出来ません。その機能は削除しました!! イエーイ!!】
「……………え」
【今日、ここに集まって頂いた1000人の超人気Vtuberの皆さん! 賑やかしの一般先行プレイヤーの皆さんには、私が用意した最高の世界で、楽しいハッピーな冒険と人生を楽しんでそれぞれの夢に向かって頑張って欲しいです!】
「……………は?」
2032年11月26日。
俺は、世界初の完全五感フルダイブゲームの先行プレイに参加した。
ゲームにインした直後、真っ白な世界の中でどこかで聞いた事のある最悪な展開を告げられる。
仕事を辞め、小説家になる夢を目指して早3年。
構想、執筆に3年をかけた超大作の選考結果は、二次選考で落選。
帰ってきた選評。
”主人公に魅力がない、独りよがりな文章と世界観は誰かに読ませる為のものではない”
その1文だけだ。
しかし、捨てる神あれば拾う神あり。
プロアマ問わずのシナリオライターコンペに参加し、見事佳作入選!
その特典として、このゲームの先行プレイに参加出来たのに。
【今から皆様に向かって頂く世界は”フルダイブゲーム・エルダーフロンティア”の世界……ではなく、それをモデルにした本物の世界――異世界となりまーす!!】
「………」
【あ、もちろん。死ぬと本当に死にますので注意して下さいね!!】
デスゲどころか異世界転移系に巻き込まれたっぽい。マジかよ。
真っ白な世界の中、たくさんの人間が集められている。
駄菓子屋の飴みたいな色の髪の毛、派手アバターの皆様は多分……。
世界的最強エンタメコンテンツと化したバーチャルライバーの方達だろう。
彼らはこのエルダーフロンティアの先行プレイの目玉だ。
各事務所、1000人からなる選りすぐりの現代のスター達。
彼ら、彼女らは皆、配信に合わせてイベントやドッキリ企画だろうと驚いた振りやノリで騒いでいた。
でも――。
【……え? もしかしてふざけてます?】
ぴちゅん!!
指からビーム。
「「「「「「「え???」」」」」」
集められたプレイヤーの一角が、ビームで肉片に変えられた瞬間、空気は変わった。
【ああ、なんてことでしょう……世界人気ランカーVtuberの赤島さん、青海さん、緑山さん!! 3名の尊い人命と近くにいた賑やかしの200人が一瞬で脱落してしまいました……!! 悲しい……!!】
焦げる血と肉の匂い、全世界配信されるには明らかに放送コードに引っ掛かる死体の様子。
Vtuberの皆様を含むほかの人もこの事態の異常に気付いたらしい。
悲鳴、怒号 焦り、叫び。
パニックの波が一気に広がる。
タキシードの男はにっこり笑って。
【ああよかった。今の皆さんはとても真剣ですね!! う~ん、やはり何事も本気でやる事は素晴らしい事ですね!】
マジか。
……手が震えて、膝もがくがくと笑い始める。冷や汗も凄い。
二次選考落ちのHP通知を見た時くらいには、ショックだ。
皆が泣け叫んだり、怒号を飛ばす中、俺は固まっていた。
すると、最悪な事に、タキシードの男と目が合ってしまった。
【おや? 貴方、他の方と違ってやけに落ち着いていますね?】
どうしよう、固まっていただけなのに何か勘違いされてるような。
ワクワクした顔で、タキシードの男が俺に近づいてくる。
【もしかして、面白い男、という奴でしょうか? ふふ、私、気になります】
俺に興味を持つな。
だが、そんな願いも空しく、そいつは俺の目の前に。
近くでその男を見た事で、気付いた。
――これは人間ではない。
均整の取れた身体に、人形のような顔、この世に存在しない宝石みたいな虹色の眼。
【これは、どういう事でしょう? もしかして、私の世界に向かうのが気に入らない? それとも、やる気がないのでしょうか?】
機嫌が少し悪そうだ。
だが、この状況、まるで小説の主人公が直面する死の危険みたいだな……。
俺の小説が面白くないのこういう緊迫感のある場面でのリアリティがないのも原因な気がするな……。
【……あの? 私の話を聞いていますか?】
だとしたら、この状況は、まさに、絶対絶命の主人公と同じ状況……?
魅力的な主人公を書くためのヒントが得られるかも……。
【もしもーし……聞こえてない? まあ、いいでしょう。本気ではない方は皆さまのモチベの邪魔になりますし、殺してしまいましょう!】
こんな時、主人公ならどうするのだろう。
『俺達を開放しろ?』 いや、秒で死ぬモブっぽい。
『面白そうだ』 いや、もしも本当に人死が出ている場合、倫理観に欠けるな。
もっと主人公らしいセリフはないか?
こう……建設的かつ現実的でありながら、諦めない意思を感じさせるセリフは……。
「――チュートリアルはあるのか?」
【――!! 今、なんと仰いましたか?】
タキシードの男が喜色満面の顔で一気に迫る。
周囲の者が全員、俺達に視線を向けて。
「……いきなり、異世界転移と言われても……困る、説明とか案内とかがないと……」
【――】
タキシードの男の虹色の目が、じっと俺を見ている。
目の前の男の機嫌1つ損ねたら死ぬ。……凄い緊張感だ。
こういうのを小説で表現出来たらなあ……。
【これは、私とした事が失礼しました! これから皆様は各人に割り振られた
「あ、どうも……」
【いいえいいえいいえ! むしろこちらこそ、貴方の事を誤解していました! 真剣ではない方と思いきや、先ほどまでの沈黙は極度の集中力が為せるものだったのですね!】
タキシードの男が俺の手を掴んでぶんぶんと上下に振り回す。
仲良さそうに見えるからやめてほしい。
【貴方のような積極的かつ建設的なプレイヤーは大歓迎……おや? おやおやおやおや……アア!! もしかして、貴方、先生!? 第一二シナリオライターの友村友人(ともむらともひと)センセイ!? いやあ、まさか参加して頂けるなんて光栄です! 先生の担当して頂いた世界観シナリオと硬派な
まずい。
こいつがフレンドリーな雰囲気を出してきたせいで、周囲からの視線がやばい。
これじゃまるで俺が共犯のような……。
【おっと、そうこうしている間にこんな時間です! さあ、それでは世界初の全世界配信異世界生活の始まりです! 細かい仕様や、皆さまの冒険の目的はチュートリアルに入れてまーす!! ではでは、ボン・ヴォヤージュ!! 良い旅を!! ――皆さんの良き友人、運営を務めさせて頂きますクリエイターでした!!】
世界が真っ白に染め上げられる。
光が、目を焼く。
俺は思わず、目を瞑る。
真っ白で何も見えない視界、運営の声だけが響いて。
【それでは、みな様の夢の成就を願って!! 楽しんで!】
◇◇◇◇
◇初日:友村友人、七大秘境・世界樹林にて◇
緑。原生林、凄い森。
一面ものすごい緑、緑、緑。
見上げればバカでかい木に囲まれ、目線は緑の絨毯、はい、付近にはきれいな小川が流れています。
どうやら……森だ。
うん、文明のぶの字もない、人の影も見当たらない。
森です、森以外の何物でもありません。
ぴよよよよ。
耳を澄ませば、鳥さん達の歌――。
ぎょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
でかい翼付きのトカゲが上空で鳥さんの群れをパクリと丸呑みにしちゃった。
弱肉強食~。
「……っす~……。空気美味え~……」
【ぴんぽーん、チュートリアル開始】
「え?」
【貴方はこの世界の最大宗教”一二神教”から迫害された職業”
頭の中に響く声。
運営が言っていたチュートリアルという奴だろうか。
……世界樹森、薬師……?
俺にはその言葉に聞き覚えがあった。
「おい、まさか、それって……」
【ぴんぽーん、実はここだけの話。この世界にはセンセイと同じライターの方があと11人いらっしゃいます。その方達は皆、ご自身で考案されたユニーククラスでこの世界に転移しています!】
嫌な予感がする。
【薬師クラスは戦闘や個人活動には向かない職業です! この世界から喪われた薬物を作成する事が可能なパーティープレイ推奨の職業です。 お早めに仲間を集める事をおすすめします! それでは!!】
言われなくても知っている……。
職業”薬師”は――。
・直接戦闘能力なし
・低HP、紙耐久、魔術適正なし
・戦闘スキル無し
・ゲーム開始地点がラスダン付近の景観エリア
・所属勢力無し
・世界観的には迫害対象
誰だ、こんなクソ職業考えた奴は……!!
「――俺じゃん……」
職業:薬師は俺の考えた”エルダーフロンティア”の職業の1つだ……!
それも、完全縛りプレイ向けの!!
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