現実で魔王信長の黒魔法!? ゲームスキルでバトルロイヤルを勝ち抜け!
雨宮 徹@クロユリの花束を君に💐
俺、信長に覚醒する
カチャカチャという音が部屋に響く。それは俺がゲームのコントローラーをいじる音。かれこれ十数時間はテレビ画面と向かい合っている。
「やっと桶狭間の戦いが終わったよ……」
画面には「第1章1560年 完」と表示されている。そこには激しい戦いの跡が映し出されていた。信長の軍勢が、奇襲によって今川義元の本陣を突き崩した瞬間だ。緊迫した音楽が耳に残り、指はまだ興奮を引きずっている。
俺は「戦国バトル列伝」を始めるにあたって「第六天魔王」こと織田信長をキャラクターとしてチョイスしていた。
このゲームはその名の通り、戦国時代をバトルで駆け抜けるのだが、戦がすべてではない。各キャラクターはそれぞれ「武将にまつわるスキル」が使える。発売されたばかりだから、織田信長がどのようなスキルを使えるかは分からない。だが、天下統一まであと一歩までいったのだ、強いに違いない。
「さて、ポイントをステータスに振りますか」
現在のポイントは100。織田信長自身の素のステータスとしては攻撃が抜きん出ている。俺は100ポイントをそのまま「奇襲斬撃」スキルに割り振った。攻撃は最大の防御だ。それもあるが、「守りに徹する織田信長」なんて、情けなくて見てられない。
「やべ、もうこんな時間だ!」
時計を見ると、すでに朝の8時。学校までは徒歩15分。朝食を抜けば、ギリ間に合う。
着替えて階段を駆け降りると「ちょっと! また朝食抜きなの?」と母さんが心配するが、食べていては遅刻間違いなし。「行ってきまーす」と返事だけして学校に向けて駆け出す。
**
「それで、
「当たり前だ、織田信長さ」と俺は親友である
「そういう智樹は、誰を選んだ?」
「秘密だよ、秘密。どちらが先にゲームクリアするか、競争でもするか?」
あのゲームにクリアの概念があるかは分からないが「その勝負、のった!」と言った。と、同時に鐘がなる。
「よりにもよって、一限目は数学だぜ。今年の担当は、あの頭が固くて理屈っぽいバカ教師だぜ。勘弁して欲しいよ」と智樹が嘆くと同時に、ガラッと音を立てて先生が入ってくる。
「えー、みなさん。数学の授業を始めます。まず、はじめに簡単に自己紹介を。私は……」
俺は先生の言葉を聞き流しながら考えた。あのゲーム、1560年が第1章ということは、第2章は上洛までか? それとも、その先の比叡山焼き討ちか? ワクワクが止まらない。
「おい、鷹野! ボーッとするな! この数式を解いてみろ」
めんどくさ。俺はゲームの攻略を考えるので忙しいだって。「解けません!」と大声で言うと、チョークが飛んでくる。おいおい、今時そんなことしたら、炎上待ったなしだぞ。そんな俺の心配は時すでに遅しだった。智樹をはじめ生徒たちがスマホで動画を撮っていた。また、我が校の名前が有名になるのか。「パワハラ先生がいる学校」として。
**
俺は授業を終えると、智樹に「今日は先に帰るわ」と断ると、「『戦国バトル列伝』のためにだろ?」ニヤつきながら、つついてくる。
「そう言う智樹もだろ?」
「当たり前よ」
校門前の空気が妙に重い。美少女の怯えた顔が、不良たちの嘲笑にかき消されている。拳を握りしめた俺の手のひらには、じっとりと汗が滲んでいた。逃げる選択肢はない——そう自分に言い聞かせ、一歩前に踏み出す。俺は彼女の前に立つと、不良の一人を殴りつける。そこまでは良かったのだが、知らないうちに周りが黒い膜で覆われた。それと同時に腕にブレスレットが現れる。一部に信長の家紋があしらわれている。
「なんだこれ?」
「てめぇ、よくもやってくれたな!」
気を取られているうちに、二人目の拳が迫ってきた。次の瞬間、ブレスレットが光ると「奇襲斬撃を発動します」と、機械的な声が響く。突然、俺の腕から発せられる青白い光が辺りを切り裂いた。空気がビリビリと震え、斬撃の軌跡が残像のように残る。何が起こったのか理解する間もなく、不良は校門を突き破り、遠くへと吹っ飛んでいった。息を呑む静寂の中、心臓の鼓動だけが耳に響く。
「そんな……。兄貴が一撃でやられるなんて」
残りの一人は仲間を置いて逃げ出した。薄情な奴だ。
そいつが逃げ出すと同時に、謎の黒い膜は消え去っていた。ブレスレットは消えることはなかっま。
「さっきのは『奇襲斬撃』って言った。ということは、もしかしてゲームのスキルが使えるのか……?」
そんなことがあり得るのだろうか。だが、そうだとしたら、ゲームを攻略するごとに使えるスキルが増えることになる。今は「奇襲斬撃」しか使えない。これは桶狭間の戦いをクリアしただけだからだ。このまま比叡山の焼き討ちなどのイベントを進めれば、より強力なスキルが使えること間違いなしだ。
「早速、帰って続きをやりますか」
俺は家に向かって駆け出す。その時、ふと疑問が湧いて出た。仮にスキルが増えたとして、何に使えばいいのだろうか? さっきみたいに人助けが無難だろう。しかし、この時の俺は一つ重要なことに気づいていなかった。俺がスキルを使えるのなら、他のプレイヤーもスキルを使えるかもしれないということに。
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