最凶少女Aの罪と贖罪
霜月レイ
エピローグ
いつかの出来事
「もぐもぐもぐ・・・」
静まり返った教室の中で、一人の少女が給食を食べている。
「うん、やっぱりここの給食のレーズンは美味しいなあ!」
・・・血塗れの教室の中で。
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ここは、アルゼクト帝国軍育成学校。この学校のモットーは、「一視同仁」。この名門校からは、多くの歴史に残る騎士や用心棒が卒業してきた。
そして・・・その校舎のある一室で大勢の教師に囲まれながらも、しかめっ面のまま微動だにしない少女がいた。
「一体これはどういうことだ?▓ ▓ ▓ 。」
「・・・・・・」
「まあまあ、先生、一度落ち着いてください。・・・良いかい?あそこには、君一人。その周りには、毒で死んだ生徒たちが倒れている。あの状況で、どうして君は食事を続けたんだい?お願いだ、先生としても君を信じたい。どうか、本当のことを言ってくれないかい?」
「・・・・・・」
「何がそんなに不満なんだい?何かしてほしいことがあったらすぐに言ってくれ。」
「・・・・・・レーズンパン食べたい・・・。」
瞬間、空気が凍りつく。
「・・・分かった、それで言ってくれるかい?」
「うん、本当にくれたらね。」
〈数分後〉
「もぐもぐもぐ・・・」
「「・・・・・・」」
大量のレーズンパンの山からレーズンだけをむしり取って食べ続ける少女をよそに、大人たちは困惑していた。
「(これはどうしたらいいんだ?)」
「(さあ・・・。でも、とりあえず食べ終わるまで待ったほうが・・・。)」
「(というか、パン持ってきたの誰だよ?これで調子に乗ってどんどん色々なもの要求されたらきりがないぞ?)」
「(しかたないだろ、食べたら答えてくれるって言うんだから・・・!というか、こいつが本当に犯人なのか?)」
「(そうに決まっているだろう。君はあの教室を見たか?あの悲惨な死体に囲まれながら給食を食べ続けるなんて・・・僕なんてあの教室に入っただけで吐き気がしたよ。あんなところで食事ができるのは、殺人鬼か狂人だけだ。)」
「(そうだ。それに、このレーズンをむしりとっている様子を見ろ!見ているだけで彼女の残虐な心が伝わってくるだろう?)」
「(そうか・・・?)」
教師達は少女を見つめるが、こんな幼い少女が生徒達に毒を盛るとは考えにくい。
「(というか、彼女はどうしてこの学校に志願したんだ?)」
「(どうやら、一級用心棒になりたいというのを聞いてあの最強の魔術師、リル様が直々に入学させたらしい。)」
「(そうか。じゃあ、その実力は本物なんだな?)」
「(ああ、受験の成績はトップで首席合格な上に容姿端麗だ。それに、レーズンなどの乾燥させたものが好きで、ドライフルーツを食べている姿をよく見かける。)」
「(最後の情報はいらないな。お前はこの少女のファンか何かか?まあ、確かに入学式のときには隙あらば乾燥クランベリーを食べていたが・・・。しかし、そんな少女が登校初日からこんなことになるとは、人は見かけにはよらないようだな。)」
そうこうしているうちに、彼女は全てのパンからレーズンをむしり取り終えたようだ。
「じゃあ、本当のことを言ってくれるかい?」
「犯人は君なんだから、言う必要もないと思うんだけどな。」
瞬間、空気が凍りつく(本日二度目)。
「そんな見え透いた嘘をつくということは、所詮君も子どもなのだね。良いだろう、君の周りで死んでいた人たちの死に様を教えてあげようか?」
「そんなこと知ってるよ。ずっと周りにいたんだから。」
「じゃあ、さっきの毒は何の植物の毒に似ていたか分かるかい?」
「南国の東部でよく生えているクルシ草かな?強い毒性から軍で兵器として使われていたこともあったらしいね。」
「はっ!そうか、そんなに毒に詳しいのは、君が毒を盛った犯人だからだね?」
「うーん・・・でも、本当にそうかな?例えば、さっきから君ばかり話して他の人は話に入れようとすらしない。それは、自分に都合の悪いことを質問されたくないからじゃないの?」
「そんなわけがないだろう。これは、ただ君が色々な人から話しかけられたら話しづらいと思っただけだよ。」
「ほら、それだよ。」
思いがけぬ一言に、話していた男の動きが止まる。
「この学校のモットーは、一視同仁。この四字熟語の意味、知ってる?」
「・・・誰にでも分け隔てなく、平等に接することだろう。」
「その通り!じゃあ、さっきまでの君の言動はそのモットーに適していたかな?」
「・・・・・・」
「まるで子どもに接するかのような話し方に、さっきの一言。私には適しているようには感じられなかったのだけれど・・・。」
男は相変わらず無口だ。
「この学校に入るときには、校風に適した人材であるかを判断するために必ず魂の真贋を試す試験のようなものがあるらしい。・・・貴方はどうかな?魔族さん。」
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バシィッ!
激しい痛みとともに幻覚が消え去る。
「お嬢よ、聞いておられますかな?どこか体調が優れませんかな?」
私の礼儀作法の指導係であるこの集落の長、アル爺が話しかけている。
「いや、体調は問題無いんですけど・・・。少しボーッとしていて・・・。本当にすみません!今話していた内容をもう一度話していただけませんか?」
「そうですか。もう一度言うのは構いません。じゃが、気を緩めるのは良くないですぞ。今話しているのは大精霊を鎮めるための儀式の作法ですからな。真剣に取り組まねば、それは神への無礼となりますぞ。」
はあ、全くその通りで反抗のしようもない。でも、だからって暴力は良くないと思うよ!痛た・・・。はあ、怒られるって分かるのに、なんでぼんやりしちゃったんだろう・・・。集中力には自信がある方なのに・・・!
あれは・・・白昼夢?でも、その割には妙に現実味があったなあ・・・。あの学校の校舎、すごかったなあ・・・。あんな大きい建物、どうやって作るんだろう・・・。都会でもあんな建物見たこと無いよ・・・。それに、あの「私」、すごい頭良かったな・・・と、おっと。続きは夜にして、今は集中しなきゃ!
私はこの村でたった一人の巫女なんだから。
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最凶少女Aの罪と贖罪 霜月レイ @ichigodaisuki
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