第6話 隻眼事変

隻眼魔猿キクロプス

象骨怪獣ギリメカラ

深海豹デメパルド登場



 ギガントシャーク一行はギリシャ共和国に向かっていた。大型クルーザーと巨大な鰭が波を切っていく。シャークは卵焼きの味が忘れられないようで、上機嫌だった。

「なぁマーク。教えてくれよ。豆ツブの料理って奴をさ。」

 シャークは船に擦り寄りながらマークな尋ねる。

「まぁ待て。クソデカ食材がまた手に入ったらだ。つまり怪獣を倒さなきゃだな。」

「よし!殺しまくるぜ。」

「物騒な言い方だな。」

「ミスティさん。次の行き先は?」

「ギリシャよ。神話に出てくる怪物の多さから見てあの国はきっと怪獣だらけ。今回は一つ目巨人の伝説を調査するわ。ペンテリコン山の近くにあった都市を山肌から現れた一つ目巨人が跡形もなく滅ぼしたっていう話があるの。」

「何やらヤバそうだな。」

「伝承を見るに、複数体の出現もあり得るわ。」

「サメどもはどうだ。シャーク。」

 ブレットがシャークに尋ねる。

「まだはっきり感じ取ってるわけじゃねぇが、ギリシャの方に顔を向けるとヒレ騒ぎがするみたいだ。調べる必要はありそうだぜ。」

シャークの周りをメジロザメの群れが不安そうに回転しながら泳いでいた。

 ミスティはクルーザーの速度を上げ、ピレウスの港に向かう。と、その時、メジロザメたちが飛沫を立てて跳ね、尋常ではなく騒ぎ出す。

「チカイ、チカイ」

「ハヤク、ハヤク」

「ジカンガナイ」

 彼らはシャークに向かって騒ぎ立てているようだ。

「あぁ、こりゃいるわ。」

シャークが言う。

「やっぱりね。早く行きましょう。」

 シャークをエーゲ海の底に待機させるとミスティはペンテリコン山付近の住民を中心にアテネ全体に避難勧告を出した。そして生命反応検知計で山肌を探り始め、いつ怪獣が姿を表してもいいよう山の周囲に電磁レーザー砲車を配備する。これで準備は整った。怪獣が現れたらレーザー砲を叩き込み、その後シャークを呼んで追い打ちをかける作戦だ。数時間が経過し、それは現れた。大地が揺れ、轟音と共にペンテリコン山の白い山肌を突き破って毛に覆われた腕が現れる。現れたのは細長い腕と脚を持つ痩躯の猿に似た怪獣だった。体毛は灰色と白で尖った耳を持っていた。頭部には黄色い目が一つだけついており、口には鋭い犬歯が生えていた。

キィィィィィッキキィッ! 

怪獣は猿らしい甲高い耳障りな鳴き声で吠えた。

「目が一つだけ‥」

「名前は‥『キクロプス』以外にはないわね。」

ミスティは何の迷いもなく命名する。

「砲撃開始!」

 すぐに電磁レーザー砲による総攻撃が始まる。キクロプスの体にレーザーが命中していく。キクロプスは攻撃が当たると怯む。何度か当たるとふらつく。これまでの怪獣たちとの戦いにおいて、電磁レーザー砲は気休めにしかならず、ほとんど効果はなかった。しかし、このキクロプスにはかなり効果抜群らしい。

「よし!効いてるぞ!」

「じゃ、シャークを呼びましょうか。」

ミスティはシャークのロレンチーニに電磁信号を送る。

「よっしゃ出番だぜ!」

 シャークは海底から起き上がり、浮上し、アテネの街を進撃しながらキクロプスの元に向かい、対峙する。

「待ってたぜぇ。」

キキィ‥

キクロプスは大きな単眼ではシャークを睨みつける。

「かかってきやがれ。一つ目野郎。」

キキィィィィィィィィィッ!

一つ目の巨猿はシャークに向かって吠え、拳を振り翳して襲いかかってくる。

「おっと。」

 シャークはキクロプスの拳を片手で受け止める。そしてそのまま手首を掴んで、地面に叩きつけた。

「弱いなお前。」

キィィィィィ‥

シャークの一言に土煙に塗れて苛立ったような顔を見せるキクロプス。すぐに起き上がって飛びかかるそぶりを見せるが、シャークはすぐにその体を掴んで再び叩きつける。キクロプスはその後も何度も飛びかかってくるが、シャークは全て軽くあしらい、ねじ伏せる。シャークはほとんど一方的にキクロプスを叩きのめしていた。

「こりゃすぐに終わるな。」

 シャークはそう呟く。だが、キクロプスの目にはまだ闘志が宿っていた。それどころか不敵な笑みのような表情を浮かべていた。

キクロプスは単眼を光らせた。何かのエネルギーを溜めているようだ。

「やっぱり飛び道具があったか。」

 キクロプスの目の光が黄色からこいいろに変わる。そしてオレンジ色の光線が飛び出す。

「ぬぉっ!」

 シャークが身構えるが、光線はあらぬ方向に飛んでいき、ペンテリコン山の壁に激突した。

「ギャハハハハハ!どこ飛ばしてんだエテ猿野郎!」

キキキキ‥

キクロプスはシャークの嘲笑を受けてなお笑みを浮かべていた。

「トドメの時間だ。」

 シャークは背鰭を光らせ、必殺のシャークサンダーを出そうとする。その時、

キィィィィィィィィィッ!

 キクロプスが金切り声を上げた。その鳴き声があたりにぐわんぐわんと響く。ミスティたちは思わず耳を塞ぐ。

「一体何?」

「いきなりデカい声出しやがって!どういうつもりだこの野郎!」

 シャークが怒鳴る。すると

バオォォォォォォォン!

キクロプスのそれとは明らかに異なる鳴き声が聞こえてきた。シャークがその声の方に目をやると山の岩壁が崩れ出し、もう一体の巨大な影が姿を現した。それは巨大なそり返った牙を持つ動くマンモスの骨の姿をした怪獣だった。頭蓋骨の目に当たる部分が爛々と赤く光っている。よく見るとナックルウォーキングの姿勢をとっていた。

「怪獣が二体‥?これまでにない現象だわ‥」

 ミスティが呟く。 

骸骨マンモスはキクロプスの腕を牙に引っ掛け、立ち上がらせる。二体はお互いに目配せのような動作をした。そして

キィィィィッキキィィィィィッ!

バォォォォォォォン!

天に顔を向け、二頭同時に咆哮した。

「ほぅ‥面白いじゃねぇか‥」

シャークの口角が上がる。

二頭はシャークの方に向き直り、猛スピードで迫ってくる。キクロプスは身軽な体で跳躍し、骸骨マンモスは牙を振り翳して猛突進してくる。

「仲間を増やそうが同じことだ!蹴散らしてやる!」

 シャークはキクロプスの腕を掴む。キクロプスはもう片方の腕を振るい、シャークの顔を引っ掻く。シャークは怯んで手を放してしまう。キクロプスはその隙に飛び上がってシャークの脇腹を蹴ろうとするが。シャークは脚を掴まれてまたもキクロプスを地面に叩きつける。しかし、息つく間もなく骸骨マンモスが突進してくる。シャークは突進をモロに受けて民家を何棟か壊して倒れる。骸骨マンモスは倒れたシャークの体を何度も踏みつける。

「ぐおおおおおっ‥」

 シャークは苦しみの声を上げる。しかしすぐに骸骨マンモスの足を掴んで持ち上げ、仰向けになったまま上にぶん投げる。骸骨マンモスは地面に叩きつけられてバラバラになる。散らばった骨があたりの建造物を破壊する。が、すぐにバラバラになった骨が動き出して合体し、元の骸骨マンモスに戻る。その瞬間にシャークがタックルをしてまたバラバラにする。シャークはこれを何度か繰り返し、だんだんと疲弊してきた。この怪獣たちは防御力が高いとは言えないがとにかくしぶとい。二体はダメージは受けていたもののまだまだやる気満々のようだ。

「あの骨の怪獣、名前は『ギリメカラ』にしましょう。」

 骸骨マンモス怪獣には伝説上の象の悪魔の名前が与えられた。

「シャークを援護しろ!」

 怪獣対策機構の兵士たちが二体に電磁レーザー砲の集中攻撃を浴びせる。

「おおっ!助かるぜ!オレ様も‥」

 シャークはそう言うと、拳を帯電させて、 

「2連続シャークエナジーパンチ!」

と叫び、キクロプスの鳩尾とギリメカラの眉間に帯電パンチを浴びせる

キキィ‥

バルルルルル‥

 二頭は怯み、シャークを睨みながら唸る。そしてキクロプスがエーゲ海の方を向きと目を光らせる。再びあのオレンジ色の光線が飛び、海の中に入る。光線は海底にまで届いているようだ。そしてしばらくすると異変が起きた。エーゲ海の水面がゴボゴボと波立ち、何かが姿を表す。

キシェェェェェェェッ!

 猫が威嚇するような鳴き声が響き、真ん丸な両眼が海面に現れる。そしてそれは高速で泳ぎ、飛沫をあげて勢いよく海面から飛び上がった。それの上陸でアテネの港が全壊する。

キシュゥゥゥ‥

それは土煙の中で静かな唸り声を上げる。第三の怪獣が現れたのだ。

「嘘でしょ‥」

「ヤバくなってきたぞ‥」

ミスティたちがざわつく。

 その怪獣は豹のような細くしなやかな体付きをしていて、全身は紺色の鱗に覆われ、背中には鋭く尖ったヒレがあった。顔はワニに似て、目はまるでレンズのように真ん丸で頭にある透明なドームのような突起の中にある。

「あれは‥デメニギスの特徴‥豹(レオパルド)みたいな体型‥ええと‥あぁ‥もう!名前は『デメパルド』でいいわ!」 

ミスティが興奮気味に言う。

「急にネーミングの方向性変わったなミスティさん。」

「取り乱してるんだよ。こんな状況じゃ仕方がない。」

 ミスティは深呼吸をして、語り始めた。

「キクロプスのあの光線、きっと生き物を怪獣に変える力があるんだと思う。あの二匹はそれに当たったマンモスの化石とデメニギス‥自分だけではパワーがたりないから、他の怪獣を作って手駒にする。昔の街を滅ぼしたのも他の怪獣の手を借りたからね。」

キシェェェェェェッ!

デメパルドは建物を踏み潰しながら猫のように軽やかに飛び、キクロプス、ギリメカラに合流した。ついでに近くにあった電磁レーザー砲の車を蹴散らしてしまう。

「ほほぅ‥こりゃもっと楽しくなりそうだぜ‥」

シャークは顔にうっすら笑みを浮かべる。

キキィキキィ‥

バォルルルル‥

キシシシシシ‥

 3頭は揃うや否や顔を寄せ合い、何やらヒソヒソ話のようなそぶりを見せると、三手に分かれて三角形の陣形のようなものをとった。

バォォォォォォォォォ!

ギリメカラが前足を上げ、地面に振り下ろす。その肋骨が体から分離して飛び、ぐるぐると回転し、シャークの腕に引っかかり、シャークはペンテリコン山の山肌に磔にされたような状態になる。

バォォォッ!バォォォォォォッ!

ギリメカラはさらに一対の肋骨を飛ばし、拘束を強化する。シャークは拘束を解こうとするが、肋骨は想像以上に強固で深く岩壁に突き刺さっており、シャークの力をもってしても抜ける気配はない。ギリメカラはシャークが拘束されたのを確認すると、いきなり突進してきた。そして、頭を上げその長くそり返った牙をシャークの両足の間ーー股間にめり込ませた!

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 シャークの悲鳴がアテネ中に響いた。

股間。それはこの世の雄の最大の弱点。それは怪獣であるシャークにとっても変わりはない。ギリメカラは再び牙を股間にずぶりと突き刺す。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ギリメカラの連続股間攻撃が続き、シャークの悲鳴が何度か轟く。

「おーイテェ‥」

 ブレットは思わず股を押さえる。

「なんて卑怯な奴らだ!」

マークは憤慨していた。

ミスティも目を覆っている。

ギリメカラは一旦股間への攻撃を止め、デメパルドに牙で指示を出す。

バォォォォォォッ‥

キシッ!

デメパルドはいかにも任せたというような鳴き声を上げると、妖艶でしなやかな歩き方をしながらシャークに迫り、息も絶え絶えなシャークの顎を前足でクイっと上げる。

キシシシシシシシシシ‥

デメパルドは笑うような鳴き声を上げ、両前足をシャークの股間に置き、前足を揉むような形で動かし始めた。ちょうど飼い猫が飼い主の体を「ふみふみ」するように‥

「ぬぁっ‥ぐぉぉ‥てめっ‥」

 いかがわしいプレイのように見えるが、シャークは今ギリメカラの牙でダメージを受けた股間を鋭い爪のついた前足で踏まれているのだ。そこには快楽などなく、苦痛があるだけだ。「地獄のふみふみ」に飽きたデメパルドはシャークの次なる弱点に目をつけた。鼻先だ。サメの鼻先には感覚器官が集中しており、とても敏感である。デメパルドはシャークの鼻先に顔を近づけ、ワニのような顎で顔に軽く噛み付くと、その尖った鼻先に長くざらついた舌を絡め、ぺろぺろと舐め始めた。鼻先にゾワゾワとした不快感を感じると同時にひどい匂いが鼻腔を刺激する。デメパルドの口腔内の匂い。生臭さと磯臭さが混じったような「深海の匂い」は筆舌に尽くしがたいものだった。

「はなせっ‥このやろっ‥」

 デメパルドは口を放し、満足したかのようにニヤニヤと笑い、再び前足でその顔をクイっと上げた。唾液に濡れたシャークの顔を見たデメパルドは

キシャシャシャシャシャーッ!

恍惚の表情で天に向かって吠えた。デメパルドはシャークを散々慰み者にして満足したのか、ニヤニヤ笑いながら卑劣な攻撃を見つめていたキクロプスに合図を送る。

キィキキキキキィ‥

キクロプスはほくそ笑むと助走をつけて走り出し、シャークの股間に思いっきり飛び蹴りを入れた

「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 これまでで最大の悲鳴が上がり、シャークがうなだれる。

キィッキキキキキキッキキ!

キクロプスがシャークを指差して笑う。

キシャシャシャシャ!

バルルルルルルルルルルルルル!

 三体は完全に敗北したかのような体制のシャークをみて大笑いしていた。

その時、キクロプスの肩に何かが命中し、爆発した。ブレットが簡易バズーカ砲を撃ったのだ。

「このクソ野郎ども!さっきから卑怯なことばっかしやがって!」

「禁的なんて最低だぞ!」

 ブレットとマークは三体に何度もバズーカを撃つ。 

キキキキキッ!

バォォォォォォォッ!?

キシェェェェェェ?

三体は不意打ちの攻撃に戸惑うような声を上げる。と、その時、うなだれて力尽きていたかのように見えたシャークの体がぴくりと動いた。

「テメェら‥」

 シャークがボソリという。顔に青筋が浮かんでいるのが見える。両腕の筋肉が盛り上がり、彼を拘束していたギリメカラの肋骨にヒビが入る。目が青く光り、青い電撃が走り、荒い息遣いが響く。そして次の瞬間、ギリメカラの肋骨が砕け散り、シャークは自由の身になる。

「いい加減にしやがれ‥いいか‥読者が本当に見たいのはなぁ‥」

シャークは拳を構える。

「もっと健全な怪獣バトルじゃぁ!」

 シャークはそう叫ぶと、ギリメカラの頭に渾身のパンチを見舞う。ギリメカラの頭蓋骨が砕け、破片が飛び交う。

バォォォォォォォォン!

 ギリメカラが悲鳴を上げ地面に倒れ込む。

「オラオラオラオラオラオラ!」

 シャークはギリメカラの体に高速で往復連続パンチを浴びせる。ギリメカラの体が粉微塵になっていき、数分経つ頃には骨粉の山ができていた。さしものギリメカラもこうなってしまっては再生できない。

「次はお前だ。一つ目野郎。」

キキッ!?

シャークの剣幕にキクロプスが怯える。シャークは帯電状態の拳をその顔に叩きつけた。その一撃でキクロプスはかなりの距離を吹き飛び、サメの群れが待つエーゲ海に落ちる。

「必殺ムラサメ流し!」

シャークが叫ぶとサメたちが渦巻きを作りはじめた。キクロプスは噛みつかれながら渦に巻き込まれていく。

「そのまま沈んじまえ!」

キシェェェェェェェェェェッ!

沈もうとするキクロプスをシャークが見ていると、後ろからデメパルドが襲いかかってきた。

「ぬおっ!テメェだけは許さねぇぞこのクソビッチ深海魚!」

 シャークは背中に爪を立てて攻撃してくるデメパルドの首根っこを掴み、地面に叩きつける。

「オレ様でSMプレイしやがって!この話は全年齢対象だぞ!」

 シャークはデメパルドの体を何度も叩きつける。よろよろと立ち上がったデメパルドに向かって、シャークは背鰭と口を光らせ、シャークサンダーを発する準備をする。しかし、次の瞬間、深海に流し去られようとしていたキクロプスが力づくで渦から抜け出し、デメパルドの脇腹に蹴りを入れて海に突き落とす。

キシェェェェェェ!?

海に落ちたデメパルドは戸惑いの咆哮を上げながらサメの渦に巻き込まれる

キィッキッキッキッキッキッ‥

キクロプスは下卑た笑い声を上げる。薄情で卑劣な彼にとってデメパルドは捨て駒に過ぎなかったのだ。キクロプスはシャークを睨みつけ、襲い掛かろうとするが、

「もう襲い!シャークサンダー!」

 青い閃光がキクロプスの体に命中し、キクロプスは後ろに吹き飛ばされ、ペンテリコン山の岩壁に激突して赤茶けた体液を撒き散らし染みとなった。眼球がコロンと地面に転がる。

「はぁ‥はぁ‥ざまぁみやがれ‥」

 さすがのシャークも今回は疲弊していた。

「やったぜ!」

 ブレットがガッツポーズをする。シャークはブレットたちに向かって親指を立てるのだった。ふと、シャークは地面に転がるキクロプスの眼球に目をやった。

「なんか‥これから凄まじいパワーを感じるぜ‥そうだ!ミスティ!料理の時間だぜ!前見たレシピを試すとするか!」

 シャークはミズハメとの戦いの後、怪獣対策機構から特注の巨大な本を貰っていた。一つは子供用の「ジャングル・ブック」で、もう一つは初心者向けの料理本だった。シャークはそれが気に入ったようでいくつかのレシピを覚えていた。ミスティは巨大な調理器具が乗った調理艦をアテネの港に入れた。シャークが準備している間、ミスティはキクロプスの眼球を調査した。その結果、未知なるエネルギー粒子が発見された。しばらくすると、海上にサメたちに全身を噛まれながら渦に巻き込まれ、失血死したデメパルドの死骸が浮き上がってきた。シャークはこれを好機とばかりに岸に引き寄せた。

 シャークはまず巨大なボウルの中にギリメカラの骨粉を入れ、デメパルドの腹を裂いて取り出した深海魚特有のゼラチン質の脂肪を混ぜ合わせた。そして熱した巨大な鉄板の上に置き、菜箸でぐるぐるかき混ぜる。キクロプスの目玉を入れ、それを巨大な容器に収めて調理艦の船腹内にある巨大冷蔵室に入れ、昼寝をしながら待つ。そして2時間ほど経ったら冷蔵室から取り出し、型に入れ、巨大なガラス皿に盛り付ける。キクロプスの眼球が中に浮かんだ透明なゼリーの完成である。シャークはゼリーをスプーンで掬い、大きな口でパクリと食べる。甘さは控えめで薄味だが、力が湧いてくるようだ。エナジードリンクに近い味である。シャークは夢中で食べ進める。眼球を白玉団子を食すように咀嚼し飲み込む。数分で完食すると、シャークは体を震わせ、凄まじい放電をした。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!力が漲るぜ!」

凄まじいエネルギーがシャークの全身を駆け巡る。キクロプスの怪獣化エネルギーは食べた他の怪獣を強化する力も持つらしい。

「あのエネルギー、まだまだ調査のよちがあるわね。」

ミスティが呟く。彼女は残ったデメパルドの体表から脂肪を取り出した。そこからキクロプスの眼球と同じエネルギー粒子が発見された。怪獣対策機構はこの未知のエネルギーを「Kエナジー」と名づけ、厳重な管理のもと調査を続けることにした。怪獣の研究がまた一歩前進した瞬間である。

そしてシャークはまた一つ料理の楽しみを覚えたのであった。










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