ギガントシャーク 

亀井惺司

第1話 怪獣の目覚め

溶鰐怪獣セベク登場


 20xx年、大西洋沖合ー

ある漁船がこれまでに前列のない異常な現象を確認した。突如起きた嵐の中、漁船は港へと向かっていた。その途中、魚群探知機にとんでもない数の大魚の群れが映り込んだのだ。

「これは‥」

 船長は慌てて海の方を見た。そこにあったのは見たこともない光景だった。海面から突き出した無数の逆三角の背鰭ーサメの大群だ。

ホホジロザメ、アオザメ、イタチザメ、シュモクザメ、巨大なジンベエザメまでもが群れをなしてまっすぐ進んでいく。船員たちは茫然とその様子を見つめていた。

「おい‥あれ‥」

 その時、一人の船員が指を刺した。雷が轟く水平線に豪華客船ほどもある巨大な背鰭が見えたのだ。背鰭は海に沈み、巨大な何かが波を立てて進んでいく。サメたちはそれについて行くかのように次々船を通り過ぎて行く。サメの群れは数十分かけて漁船の前を通り過ぎていった。この漁師たちの報告はオカルト雑誌などに取り上げられ、話題にはなったが、疲労による集団幻覚であると片付けられ、忘れられていった。

それから数ヶ月後ー

エジプト、カイロに3トントラックに乗った二人の男がいた。名をマークとブレットという、彼らは小学校からの大親友であり、二人で働いて集めた金でトラックを買い、世界中を旅している。生活費は各地で商売をするなりバンド活動をするなりで稼いでいる。大きなトラックの荷台の中には楽器やら生活用品やらが詰まっている。

「折角エジプトに来たんだし、ピラミッドでも見るか?」

「そんな月並みな観光するより、ナイル川でワニを捕まえようぜ。」

 マークはできるだけ安全なことがしたかったが、ブレットは危ない橋を渡るのが大好きだった。彼は立入禁止区域に入ろうとしたり、危険な動物に平気で近づいたりするので、いつもマークに止められていた。

「ピラミッドだって面白いだろ。」

「俺には逆さまのアイスクリームコーンにしか見えないね。」

 そんな会話をしながら男たちは車を降り、街をぶらついていた。

「治安が悪いって聞いてたが、そうでもないな。」

「割と平和で安心したよ。」

「テロリストでも出ないかな。」

「縁起でもないこと言うなよ‥」

「冗談だよ冗談。」

「それにしても平和だ‥」

「平和だな〜」

 二人は走る車や道端の屋台を見ながらそう呟いた。遠くに陽炎で霞む大きなピラミッドが見える。二人はその光景をぼんやりと眺めていた。

「さて、店にでも入るか。飯にしようぜ」

 ブレットがそう言った瞬間、突如として地鳴りが起きた。

「うおっ!地震か!」

 しばらくすると地鳴りは収まった。

「ふぅ‥なんだったんだ全く‥」

 マークが一息ついた瞬間、再び地面に衝撃が走った。道路の方を見るとみるみるうちに地面が盛り上がっていく。

「な、なんだ!」

 狼狽える二人。周りの人々も慌てふためく。地面からプシューッと蒸気が噴き出し、何か巨大なものが姿を表す。ところどころマグマのように光るゴツゴツとした黒い体。燃えるような橙色の瞳。鋭い牙が並んだ熱を帯びた口。棘だらけの金棒のような尾。体に垂直ながっしりした脚。それは全身がまるで火山のような巨大なワニに似た怪物だった。怪物は鼻から荒々しく息を噴き出し、首をのけぞらせた。

ガロロロロロロロロ!

そして凄まじい轟音を立てて咆哮した。

それと同時に巨獣の体の側面から熱い蒸気が噴き出す。

「おい‥何だよ‥あれ‥」

「映画の撮影じゃなさそうだな。」

「とにかく逃げるぞ!」

 二人は慌てて走り出した。周囲の人々も逃げ出す。

「ありゃいったい何なんだ?」

「俺に聞かれても困る!だが言葉にするなら‥」

「なんだ?」

「カイジュウだ‥」

「納得。」

 巨大な怪獣は灼熱の蒸気を吹き出しながらあたりの建物を手当たり次第に踏み潰している。鼻先で小突くだけで頑丈な高層建築がくずれ、その巨体から出る熱であたりの車やバスが溶け始める。尻尾の一振りで10戸以上の建物が倒壊する。白昼のカイロは大パニックになっていた。怪獣は巨大な脚を動かしながら市街を爆進し、建造物を薙ぎ倒しながら暴れ回った。

「ひいぃっ!あれきっとドッキリ番組のホログラムだよなぁ!海外のはスケールがデカいって聞いたし‥」

「バカ!熱まで感じるホログラムがあるか!」

怪獣は街を蹴散らし猛進していく。

「クソッ!なんなんだよ全く!」

 ブレットがそう思った瞬間、ナイル川の水が大きく波立ち、巨大な逆三角形のものが現れた。軍の潜水艦かと思ったがあまりに大きすぎる。まるでサメの背鰭のようだ。そして巨大なしぶきが立ち、それの全容が現れる。細く長く、尚且つ筋肉質な腕、尖った鼻先に鋭い牙、背中から突き出た巨大な背鰭、二足歩行で立ったサメそのものだ。第二の巨獣の出現にパニックは加速する。

「カイジュウが増えた!」

「マーク‥俺たちは死ぬ時も一緒だ‥」

「そんなこと言うなよ!」

二人が死を覚悟したその時、

「下がってなぁ‥豆ツブどもぉ」

上から声がした。二人が見上げると

「聞こえなかったか?踏み潰されたくなきゃとっとと逃げろ!」

 サメに似た方の怪獣が喋った。二人はあまりのことに唖然としていた。がすぐに我に返って逃げ出した。

「さぁて‥オレ様の久々のお相手はテメェか‥」

ガルルルルルルル‥

ワニ型が唸る。

「かかってきやがれ、クソ野郎」

 サメは中指を立てる仕草をして、腕を前に突き出して構えをとった。

ガルァァァァァァッ!

 その仕草を見るなりワニ型の方がサメ型に向かって突進してくる。サメ型も家々を踏み潰しながら猛ダッシュする。サメ型が飛び上がり、ワニ型の顔面を殴りつける。ワニ型は数十m吹っ飛び、いくつかの民家を下敷きにしながら横に倒れた。ワニ型はすぐに起き上がり、突進し、サメ型に飛び掛かる。サメ型はバランスを崩して倒れる。サメ型に覆い被さったワニ型は大口を開け

フシャァァァァァーッ!

灼熱の蒸気をサメ型の顔面に吹きつけた。

「熱っ!」

 サメ型はそう言うも、顔に火傷の跡は見られなかった。すぐにワニ型を跳ね除けて立ちあがりその体に掴みかかろうとするも、

ジューーーーッ‥

「アチャチャチャチャチャ!」

 サメ型はあまりの熱さに叫び声を上げる。

「この野郎‥ただでさえここは暑いっての‥傍迷惑なんだよ!」

グルルルルルル‥

 ワニ型が嘲笑うかのように唸り声を上げる。と、その時、軍の戦車隊が到着し、砲撃を開始する。砲弾の一部がサメ型の脚にも当たる。その瞬間、

「邪魔くせぇ!下がってろ!」

 サメ型が怒鳴り、その声の風圧で戦車隊が紙製のおもちゃの如く飛ばされる。

グヮガルァァァァァァッ!

 その隙をついてワニ型が襲いかかりサメ型に頭突きを見舞う。跳ね飛ばされたサメ型は尻餅をつく。

「こん畜生‥こうなりゃ‥」

 サメ型は起き上がって猛然と歩を進め、ワニ型の尻尾を隙をついて掴んだ。そして

「シャークスイング!」

と叫びそのままワニ型の体を振り回し、宙に向かって投げ上げた。ワニ型の巨体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。

その拍子にマークとブレットのトラックが駐車場ごと潰れた。

「ぎゃあ!」 

 完全に怯んだワニ型の前にサメ型が悠然と現れる。

「おい!サメ公!」

 ブレットが怒鳴る。

「んだよ。忙しいってのに」

「俺たちのトラックを‥」

「すまん。後にしてくれ。今は大事なところだからな。」

 おむもろに起きあがろうとするワニ型の方を向いたサメ型は背鰭を青く光らせた。

「危ねぇぞ。下がってろ。」

マークとブレットは走ってその場から離れる。

 サメ型の口の中に電気が走り青い光を発する。

「シャークサンダー!」

 雷鳴のような音とともに口から青く太い光線が放たれ、ワニ型の体に直撃する。ワニ型の体は宙に浮いて後ろに吹き飛ばされていき、ピラミッドに激突して体液を撒き散らしながら爆裂した。ピラミッドの壁面には丁度潰れたゴキブリのような形でワニ型の死体が残った。胴体は潰れ、頭はそのまま残っている。

「あちゃー‥海まで届かなかったかー」

「おい!サメ公!」

「んだよ」

「トラックをどうしてくれる!」

「お前らまだいたのか?そんなことオレ様に言われても困るぜ。事故だからなぁ。」

「金も食い物も全部詰まってたんだぞ!お前のせいで文無しに‥」

「崇高な戦いには大いなる犠牲が伴うのだ。」

「カッコつけるなコラァ!」

 そんな問答が行われている時、一隻の船が海からカイロの様子を見つめていた。

「もう収束してる‥」

 双眼鏡を持った30代半ばの金髪の女性が言った。

「それとあの個体は‥暴れてる様子はないみたいだけど。」

「はい、当個体については我々もマークしていました。数ヶ月前の世界的なサメの大移動。あの現象と密接な関係があると見られています。たった今入った報告ではあれが『セベク』を倒したと。」

 白衣を着た科学者らしき男が言った。

「怪獣同士の仲間割れってわけ?」

「さらに報告が‥あの怪獣に言語能力が?」

「そんなことありえない。奴らにそこまでの知能が‥」

 そんな会話が続く中、カイロ市街ではブレットとサメ怪獣が言い争っていた。

「分かったよ。しつけぇな。背中に乗れ。オレ様が船代わりになって世界中を廻ってやる。その代わり、怪獣退治に付き合ってもらうからな」

 サメ怪獣は胡散臭そうに見つめるブレットと怯えるマークを手に乗せ、海に向かっていった。海辺に着くと二人をヒョイと背中に乗せた。

「さぁ。行くぞ。しっかり掴まってなぁ!」

 サメ怪獣が海に浸かり、泳ぐ体勢に入った時、

「ん?」

 一匹のミツクリザメがサメ怪獣の脇にすがりつくようにして寄ってきた。

「何だ?」

 サメ怪獣は耳を傾けるような仕草をした

「ニホン ホッカイドウ カイジュウ メザメソウ スグニイッテ」

「分かった!」

 サメ怪獣は何かを聞いたようで、そう答えた。

「早速仕事だ!ついてきなぁ!」

「おいおい早すぎるだろ!」

「待て!待てって!どこ行くんだよ!」

「しのごの言うな!」

一方、船では

「あの怪獣、こっちに向かってきますよ。」

「大変!早く航路を‥」

「待ってください!怪獣の背に人が!」

「何ですって?」

 これが、世界を股にかけた大冒険の序章である。

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