第4話
「......そうだったのか」
「あのリジェクトが......」
リグさんとマイクさんは沈痛な顔をしている。 ユグナさんから自警団に事情を話してほしいと頼まれたので事情を話した。
「それで、先生は」
「逮捕してほしいそうです」
「......それは」
二人はうつむいた。
「お二人は知ってたんですね」
「......先生のところにリジェクトがきたときから、おかしなことが起こりはじめたんだ」
「犬猫がいなくなったり...... 不調のものがでたり、おかしいとは思っていても、誰も先生には聞くことができなかった」
二人そういって黙った。
「それは昔、ここであったことが理由ですか」
「......ああ、命を助けてもらっておきながら、自らの生活が苦しいからと、恩ある先生たちを見捨てたんだ......」
「私たちは、この町のものはあの人を責めることなんてできない...... 憎まれて当然だ」
そう二人は苦しそうに言葉を絞り出した。
「どうなるのかな」
ぼくは町から遠ざかりながらミーシャに聞いた。
『さあな。 どちらも相手への複雑な感情が交錯している。 他の人間に解決はできないさ』
「ミーシャも......」
『それよりやつらだ』
ほくが話すのを遮るかのようにミーシャは話しはじめる。
「あの異形のディシーストを作り出したネクロマンサーの少女ーーリジェクト」
『ああ、組織的に動いている。 ただ動機がわからない。 人を殺してどうするつもりなんだ?』
「これなんじゃないかな。 星幽石」
ぼくはリボルバーの弾を銃のシリンダーからだした。 その弾丸の真ん中は宝石のようになっている。
ネクロマンシーは死者の魂を星幽石にこめ、その星幽石を核にして素体を器に使役する術だった。
『星幽石はネクロマンシーによって魂を結晶化したものだろ? その魂を集めてるのか?』
生物は死ぬと、すぐにその魂は飛散してしまう。 その魂を集めて結晶化したのがこの星幽石で、それはネクロマンサーたちに術よって精製されていた。
「星幽石は魂を残しておける器でもある。 それを使って何かしようとしてるのかも」
『まあネクロマンシーは星幽石の魂を他に移して使役する術だからな。 もしかして誰かをよみがえらせようとしてるのか? だが死んだものはもう甦らせられないだろ』
「そうだね。 でもこの秘術は古代からあるから、まだ不明なところもあるし、何か目的があるのかも......」
(もしかしたら人間すら生き返らせられるかもしれない...... ミーシャだって)
『まあ、いまは情報がほしい、カイルと接触しよう』
「......そうだね」
そう答えた。
それから二日あと、ぼくたちは隊長にあうため、ベルトランスという町にきていた。 待ち合わせは裏通りの人のいない廃屋敷だった。
「ここで待ち合わせか......」
『......ずいぶん怪しげな場所だな』
ミーシャはサルをだしてその肩にのり、キョロキョロと落ち着かない。
「ミーシャ、こわいの」
『ば、ばか! 私が怖がるわけないだろ!』
(昔からミーシャは幽霊が苦手だったな。 これをいうとすごく怒るからいわないけど......)
「それにしても、その大きなサルよく手に入ったよね」
『ああ、戦場の被災した動物園にいて死にかけてたからな』
ネクロマンシーの使役するディシーストは自分で殺したり傷つけたりすると、その魂が反発するため星幽石に取り込めない。 だから魂の剥離した死にかけているものを取り込む必要があった。
(人間や大きな動物などは死ぬと、大きな魂が四散するから、全てを取り込むのは無理だが、小さないきものなどは魂を取り込むことができる)
とはいえ使役には自分の魂が必要になるから、普通そう何体もは使役できない。
その時、ガラスが割れる音がした。
『ひぁ!』
ミーシャがそう声をだした。 ライトをつけると窓ガラスが割れて落ちたようだった。
「壊れてた窓ガラスが風で落ちただけだよ」
『ふ、ふん、わかっているよ!』
「ミーシャ......」
何かの気配がする。
『......ああ、なにかいる』
ミーシャは耳を動かし、鼻もひくつかせている。 だが暗い屋敷内ではよく見えない。
ぼくは銃を抜いてかまえる。
奥の暗がりで、ブンブンと音がする。 それは仄かに光っていた。
「......彷徨える魂よ、我が声に答えよ」
かすかにそう聞こえると光るものがこちらに向かってきた。
『【石猿】《ストーンエイプ》!』
石のサルが壁となりそれをはじく。 それは弾丸のような金色のコガネムシだった。
「彷徨える魂よ、我が声に答えよ! 【跳蛙弾】《バウンドトード》」
弾丸を放つと、弾丸はカエルとなりコガネムシを跳ねてとらえた。
「隊長、冗談はやめてください。 星幽石がもったいないでしょう」
暗がりに声をかけると、筋肉質の男がでてきた。
「ははっ、すまんすまん。 実戦から時間がたっているから、なまってるから、少し試したくてな」
そう頭をかいている。
この人は特殊部隊【黒き使徒】《ブラックアポストル》、六番隊、隊長カイル。 飄々とした人だが、ぼくたちが禁忌の術を使ったのをかばい、自分の隊へとひきいれてくれた恩人でもあった。
『それでカイル、情報は?』
「俺は隊長なんだけど...... まあいい。 お前たちがであったものは、やはりどこかの組織のようだ。 まだ定かではないが、各地で同様の事件が報告にあがっている。 そしてネクロマンサーが何名も殉職、失踪しているようだ」
『黒き
「戦闘のプロ、相手は普通じゃないですね......」
「ああ相手はかなりの力をもつ、異形、異能のネクロマンサーらしい」
「やはり、帝国が関与してるのですか?」
「そこまではな......」
『おいおい、あてになんねーな』
「正直、黒き
「権力闘争ですか」
ぼくが率直にそういうと隊長は無言でうなづく。
『そんなことしてる場合かよ。 帝国が関わってるかもしんねーのに、国の一大事だろーが』
そうあきれたようにいって、ミーシャは頭を足でかいている。
「そうだな。 だからこそともいえる。 俺たちネクロマンサーは前の戦争での功績で政治的に発言力がいままでにないほどたかまっている。 元々迫害を受けていたネクロマンサーたちはなんとかその地位を確保しようと躍起だからな」
(そう、ネクロマンサーはその異質な力ゆえ、歴史的に迫害されてきた......)
「これに乗じて政治力、権力を手に入れるつもりですか」
「......そういう隊や人物もいるのだろう。 だから自らの得た情報を隠蔽しているかもしれん。 それぞれの隊では任務内容も異なるしな。 ただ漏れでてくる情報から、この国にあだなすものたちがいることはわかった」
「帝国か、それとも内部にいる野心をもつものかですか......」
『まったく人間は強欲だな』
「ああ、そういうものだ。 だがこのまま放置もできん。 我々も生きている。 そして大切なものを守らねばならん。 なぁミーシャ」
『にゃぁ!!!』
ミーシャの体を吸って引っかかれた猫好きのカイル隊長は、指示をだして帰っていった。
『まったく、あいつ!!』
「さあいこう」
ぼくたちは隊長からの指示で現地に向かった。
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