第3話
「彷徨える魂よ! 我が声に答えよ! 【跳蛙弾】《バウンドトード》」
銃弾を撃ち込む。 六発の弾丸は蛙となり上下左右に跳ね、サルをぬけてくる犬猫たちを貫く。
「サルを操りながら、さらにカエルまでも操るの! でもまだ数はいる! この人形もいるわ! いきなさい!」
木のサルは前にでて迫る異形をおさえる。
その横を犬猫が通過する。
『彷徨える魂よ! 我が声に答えよ! 【木鮃】《ウッドフラウンダー》』
床木がヒラメになり、犬猫をはじいた。
「そんな! さすがにこの数を同時に扱うなんて! 人間ではあり得ない! まさか!」
そういってリジェクトはサルの肩にのるミーシャをみた。
『そうだ。 私もネクロマンサーなんだよ』
「そうか! そうね! あなたたち禁忌をおかしたのね...... 人間の魂をうつしたのね!」
そのリジェクトの顔は悲しげにも楽しそうにもみえた。
その言葉であの時ことを思い出す。
ぼくとミーシャは戦争で身寄りをなくし孤児院でそだった。 ミーシャは活発で元気な少女で、ぼくとは真逆の性格だったが、ぼくたちはとても仲がよく、毎日貧しくても楽しく暮らしていた。
だがそんな幸せは長くはつづかなかった。
それは十歳のある日。
「どうして!? ミーシャ! 急に軍に入隊するなんて!」
「私たちの家族を殺した帝国の奴らにやり返してやるんだ」
そういって拳を握ってミーシャは笑った。
(違う...... 孤児院の経営が苦しく、もう長くは維持できない。 軍にはいれば恩給で一日でも仲間が暮らせるからだ)
「ぼくもいくよ」
「やめとけ! お前は優しい、軍人なんか無理だ!」
そういうミーシャを説得して、ぼくたちは軍へと入隊した。
子供だから戦争が起こっても前線には送られないそう思っていた。
だが、ぼくたちには特異な能力があった。 それがネクロマンシー能力だった。 ぼくの家は代々ネクロマンサーだったからかもしれない。
高い適性があったぼくらは、ネクロマンサーの部隊に所属し、厳しい訓練に明け暮れ、13才で前線へと送られた。
そして。
「ミーシャ!」
雨がふり雷鳴轟く戦場で、ミーシャはどこかのネクロマンサーに重傷をおわされた。
「はぁ、はぁ、へへ、へたうっちゃった...... ごめんクルス、もう私はもう無理だ......」
「ダメだ! まだ大丈夫! 味方がくる! もうすこしだけ頑張れば!」
「......お前だけでもいき...... ろ......」
「ミーシャ! ミーシャ!」
(だめだ血がとまらない! このままだと...... 何か、何かないか!)
焦って動揺したぼくの前に一匹の黒猫の死体が目にはいる。
ぼくの腕の中、冷たくなっていくミーシャの姿がぼくを狂わせた。
「......彷徨える魂よ、その魂よ、輪廻の理を狂わせ、この新たな器へとその魂を呼び戻せ!」
それは禁忌、ぼくの家の書庫に隠してあった術式。 ありったけの【星幽石】をつかい、死にゆくミーシャから黒猫に魂を移した。
だが。
「生き返らない...... やはり」
冷静になったぼくは悲しみながら、すこしほっとした。 自らのやった過ちの大きさに気づいたからだ。
「ぼくもいくよ...... ミーシャ」
その時、近くに雷がおちる、ぼくはその衝撃で倒れた。
『わ、私は...... クルス』
「み、ミーシャ......」
ネコとなったミーシャが目覚めてしまうのを、薄れゆく意識のなかでみた。
そうぼくは大罪をおかしたのだ。
「君たちは禁忌をおかしたのね。 ふふふっ、そう、そうなのね。 ようこそ地獄へ。 また会いましょう」
リジェクトはそう笑うと部屋から去っていった。
「逃がさない!」
『まてクルス! まずはこいつらだ!』
「くっ! しかたない!」
まだ動く異形のディシーストたちをミーシャと共に倒した。
ぼくたちはすぐにリジェクトを追うがその姿はどこにもない。
「あれは...... ハミラではないのか。 もう妻はいないのか」
部屋に戻るとそうユグナは力なく座っていった。
「話してもらえますね」
「......数ヵ月前、私の妻が亡くなると、リジェクトともうひとりローブの男がやってきた」
(やはり仲間がいるのか)
「そして、墓をほると妻の遺体からあの異形を作り出した。 その姿はかつての妻の姿、だが呻くだけだった。 そして完全に妻を甦らせたいなら、この町の動物や人間を殺し、魂を集めろといったんだ」
『そんなことをのんだのか』
「ああ、私には妻が必要だった。 妻のいない人生など意味はない。 君たちとておなじなのだろう」
そういってミーシャをみた。
「......町の人間を犠牲にしてもですか」
「当然だ!」
獣のような形相でユグナはほえた。
「かつて、この町には病が流行り死に瀕した状況で、私と妻は無給で町のものたちを懸命に救った! なのに! 奴らは妻が感染症にかかると、誰ひとりその薬を買う金も出してはくれなかったんだからな! 死んで当然だろう!」
そう吐き捨てた。
「ですが、ハミラさんはそれを望まれたでしょうか」
「わかっている! そんなことはあの優しい妻は望むまい! ......だが! だからといって許せるものじゃない......」
ユグナはそういって机に突っ伏し嗚咽した。
ぼくたちは診療所をあとにした。
「何者かがこの町の人間を殺そうとしていた。 各地の情報と同じだ」
『ああ、単独犯の快楽的犯罪でもなく組織的な動きだな。 その恨みと妻の復活をエサに利用されたって訳か』
「そうだね。 なぜリジェクトたちは人を殺そうとしているんだろう。 帝国の策謀なのかな」
『わからないが......』
そういいかけてミーシャはこちらをみた。
『なあクルス、もう軍はやめないか』
「............」
『私ならもういい。 お前は軍に飼われたままだ。 もう戦争は終わった、孤児院も私たちのお金で経営している。 これ以上軍にいる必要はないだろ』
「でもぼくは禁忌をおかした、それを軍に所属していることで免除されている。 それにぼくせいでミーシャが......」
『お前のせいじゃない。 私たちは間違いを起こす。 それが人間だ。 だから私のことはいい、もうこんなことはやめて静かに暮らそう』
「まだ、まだ...... 諦めたくないんだ。 もしかしたらよみがえらせる方法があるかもしれないから......」
(あの術は不確定なものだ。 ミーシャはこの体でいつまでもつかわからない。 ネコの寿命なのか、それともぼくの力がなくなるののが先か......)
『............』
ぼくたちは沈黙したまま、空があけるのを静かにみていた。
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