OH MY BUDDY!! Ⅲ
後の祭りだった二階と違い、地下一階は今が最高潮。
ゴーレスが順に好葉を襲い、好葉が次々とターコイズ色の箇所を突いていく。
これこそ想定通りだった。ゴーレスの群れが全て地に伏していたのが妙で小撫は戸惑ったが、階段を下りた好葉の前には、一階と同じ広々とした空間に、半分ほどのコンテナの列。三十体ものゴーレスが待ち伏せしていたことも別に意外ではないため、惑うことなく戦いへ移れた。
ただ、過去にも数度あり、十全な好葉でも気分を害する要素として、女子が一人、中央にある凹んだコンテナに寄り掛かっていた。
女子のすぐ傍に、ターコイズの破片と一人分の爆散した跡があった。おそらく先程の爆発だ。
生死は不明も、銀色のスカジャンと黒色のスカートが汚れていないようで希望は持てる。遠目かつ前髪が垂れて顔が視認できないが、自分と同じか一つ下くらいに思う小柄な少女で、好葉は義憤に駆られた。
(すぐ助けるから!)
先にもそう言い、救助を阻むターコイズの海へ飛び込み、既に五体立てなくした。
被害者は好葉の声に反応しなかった。仮に起きていたとしても、きっと怖ろしい思いでいるに違いない。
自分のことのように胸を痛め、それでも好葉は躍動する。
「おかしい……」
煮え切らない理由が他にもある。
何より、ゴーレスが集団で行動していることだ。必ずしも単独か独自に協力者を得て暗躍するものとは限らないが、それぞれが犯罪行為に譲れないこだわりを持っているのが特徴なのだから、大群で固まっているなど事前に知らされていても当惑は免れない。
(こいつら……)
ここのゴーレスたちは基本的に三体ずつで襲い掛かってくる。休む間もない。五体退けたところで個々が十分な力を持っていると分かり、体力の配分を意識するようになった。
「矢継ぎ早じゃないのはありがたいけど!」
ゴーレス同士が連携を取って戦うのも異様だが、その他にも共通している部分がある。
隙を見せた一体の発光部分を突けず、腹部を蹴って怯ませることしかできずに悔やみ、観察を続けた。
五体……六体を立てなくするところまでは無傷でいられたが、連続かつ疑惑が晴れない以上、劣勢を強いられる時が来る。
一体が身を顧みず強引に棍を掴みに来ると、察して好葉は棍を下げた。
だが、背後の敵に引いたものを掴まれ、体ごと後ろへ引っ張られてしまい、仰け反る格好にさせられた。
そうなると好葉は不自由で、棍を掴む威勢だった正面の敵に右足を拾われ、後ろからは棍を引っ張られるため、残る左足のつま先が床を突くのみとなる。仰向けで宙に浮かされた。
「このっ!」
屈辱な時間。三体目が好葉のがら空きの腹部の前後両方に肘や蹴りを入れ、短く喘いだ。好葉は横向きのサンドバッグにされたのだ。
ただし、一方的にやられる好葉ではない。攻撃の衝動に合わせ、掴まれた右足を乱雑に振り回すと、すっぽりと掴みが解けた。
そのまま地に落ちた好葉は腹部を踏まれて苦悶。「ハッ!?」と吐くも、幾度かの腹部攻めを無視し、握られたままの棍を両手で思い切り引っ張り、手繰り寄せた背後の敵を盾に脱出した。
ズキズキと腹部に痛みが蓄積された。解放後も好葉はよろめき、気味の悪い汗を垂らした。
(もう捕まるわけにはいかない……)
迫り来る三体をギリギリまで引き付けてから棍の先端を床に撃ち、その衝撃を使ってコンテナの上に移った。
ゾンビのようにコンテナ上の獲物に手を伸ばすゴーレスたちだが、登ってくることはなかった。
それを確かめて好葉は回復に努めた。
「確かに、慢心してるのかも……」
すぐにでもやり返したい真下の敵を見つつ、膝を突いて座った。
ゴーレスたちに背を向けてセーラー服をめくると、臍の辺りが濁った色になっていて苦笑した。
コンテナに寄り掛かる少女を眺め、あの子のためにもしっかりしなくちゃ、と次のラウンドに向けて心身を整える。
まだ六体しか仕留めておらず、早くしないとそれらも復帰してしまうが、環境は悪くない。
ゴーレスたちはコンテナを登ってこない。時間は掛けられないが、それでもここに上がれば一息つけると分かった。
(作業っぽくなるかな)
一体ずつ確実に仕留め、まずいと判断したらコンテナに飛べばいい。
必勝パターンとはいえ長丁場となる。腹部の痛みが引いて立ち上がるも、苦笑は止まなかった。
「やっぱり小撫向きだよねぇ。同じ感じなら上は決着がついてる頃かも」
深呼吸し、得物を両手で握る。這い寄らんとする真下の三体にその先端を向けた。
内心では、この場に集うゴーレスたちに共通する疑惑を訝しんだ。
(本当に兵隊みたい)
経験則から、敵の手口が明らかでないまま突撃すると悪い展開に繋がる可能性が高まる、と知っている。
棍に込めた力を抜いた。自然と溜め息が漏れた。
集いし三十体のゴーレスは、倒れた伏六体も含めて全て同じ様相だった。
どれもこれも、額からターコイズ色を発している。それだけならゴーレスとして普通だが、街の電波塔を連想させる角が生えているのだ。
ゴーレスとはゴーレムの未完成体だと、好葉は思っている。
全身にターコイズ色の宝石を纏ったゴーレムと違い、ゴーレスは数か所しか輝かない。全身が薄めに硬質化した者ならいたが、基本はそれぞれバラバラだった。
硬質化した部分は強固で、十分な鈍器になるが、弱点でもある。破壊されると耐え難い激痛に苛まれるらしい。
(そういう不完全な存在だから私たちは勝ってきた)
むしろゴーレスにならない方が有利だったのではないかと感じる猛者も過去にいた。達人的技量の格闘家であれば、ただ硬質化するだけで急所が増えるなど、余計なハンデに他ならない。
ゴーレス化は意欲的狂人にとって本当に必要なのか。どうしてこのようなものなのか。ゴーレスと化した者たちも釈然とせず、それを狩る自分たちも当然、真実を知らない。
私たちは、よく分からないまま戦っている。
戦う理由だけははっきりしているため、戦意を欠くことはないが、時折、この戦いは上手く畳まれるのかと思うことが、復讐を動機とする好葉にすらある。
(悩んでも答えは出ない)
元凶を特定して始末すれば……とシンプルに考え、好葉は再び躍動する。
「決着は近いはず。真実も!」
かつてない奇妙な戦場を前に、つまり黒幕にも焦燥があると解釈した。正しく戦いの最中なのだから、ポジティブに考えた方が楽と。
飛んだ好葉は、真下の三体ではなく、残る群れとの間に孤立している一体への落雷となった。
標的は棍を掴もうとし、好葉は寸前でフェイントをかけ、空振るそいつの肘を撃ち、それから角を砕いた。
その後は目論んだ通り、コンテナ上という安全地帯を利用し、時間を掛けて群れの数を削いでいった。
「ごめん……でも必ず助けるからね!」
反応が返ってこなくても被害者を励まし続け、三体ずつ襲い来るゴーレスを凌いだ。
羽交い絞めにされて腹部を狙われ、棍を支配され、グレーのセーラー服が段々と汚れを増していく。息は回復も足りず乱れ、汗を拭う長袖は冷たい。
それでも好葉は挫けない。普通なら体力以前に心が折れるところ、それこそ物言わぬ兵隊と化したゴーレスたちのように、戦う作業をひたすら繰り返す。
常人であれば無惨で痛々しい光景に映るだろう。あるいは勇敢、凛々しいと。
しかし、好葉自身は、同じ条件であれば今頃こっちに来ていてもおかしくない相棒のことを気にしていた。
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