創也と翠。

天月虹花

第1話

 特に明確な理由は無かった。何が辛いとか、そんなのはない。ただただ、自分を傷つけたかった。初めては人さし指と手首だった。滲む血とヒリヒリとした痛みも何処か心地よかった。限界だと思った。傷口を見ながらもっと血がでないかなぁとか思った。危険な思考だって分かってる。ダメなことで、命は大切にしなければならないと。分かってる。けど、そんなこと気にしてられない。この衝動は抑えられない。少しずつ傷は増えていった。切るたびに思う。簡単には死ねそうにないなと。特に理由とかないけど、人は簡単には死なないんだなと。こんなに傷つけてもまだ死なない。人前で笑顔も作れる。例えハリボテだろうと誰も気づかない。だから私は気づかないうちに無理をしていたんだ。いつもどおりにこやかに笑顔を張り付けて接していれば誰も疑問に思わないから。誰も救ってなどくれないから。そもそも出していないSOS気付くはずがない。


 やめなければと思った。これ以上自分を自分で傷つけてはならないと。分かっていても、やめられない。

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