白夜の抱擁 第十二章 何か私に…隠してるでしょ?

 みおさんと横須賀の記念艦三笠で急接近したあの日から……

 その後も何度も同じように二次会を抜け出し……二人で過ごす時間を作ってはいたが……

 二人に……二人の恋に……それ以上の進展は、取り立てて無かった。

 一緒に居られさえすれば、それでよかった……なんて言えば嘘になるが……

 プラトニックな二人でいることが、その時の二人にとっては心地よい関係だったのかもしれない。

 だから……簡単にホテルへ入ったりは、しなかった……できなかったんだ。


 もう一つには……

 そんなプラトニックなままの二人の……『心だけが、絆を深めてしまっていた』ことに、互い気付いていて……

 もしも一度でも唇を重ねてしまったら、そこから一気に関係が深くなってしまい……

 その『心地よい』プラトニックな関係は、それで破壊されてしまう。

 錯覚とも真実とも思える、暗黙の了解を……お互いが持ち寄ってしまっていたのかもしれなかった。




 そんなある夜、いつものようにツバキの二次会を抜け出し……

 肩を寄せ合い、夜の街を歩いていた二人は……

 ホテルが立ち並ぶ一角へ入ってしまう。


 周囲では、次々と建物に入って行く恋人達を……気にしないフリができなかった二人は……

 どちらからともなく足が止まり……見つめ合った。


 先に口を開いたのは、みおさんだった。


「何か私に……隠してるでしょ?」

「え?」

「まだ……それは話してくれないけど……」

「……」

「キミが、何かを抱えているのは……わかるよ」

「みおさん……」

「その何かが、キミを躊躇わせているのも」


 躊躇わせている?

 何かが僕を……みおさんに対して……?


 何も……何も答えてあげられなかった。

 勿論この時点までに、みおさんへは……

 みおさんが察知したであろう過去の詳細を話してはいない。


 その前年、ゆなさんとの関係が深くなり始めた頃……

 その時も、過去の恋愛の傷を引きずっていた僕は……

 めぐみさんや都子とのことを、ゆなさんに洗いざらい話した。

 それは、ゆなさんの誘導尋問が巧いというのもあったが……

 せっかく聞いてくれるというのだから……自分でも、抱え込んだまま塞いでいないで、話しておくべきだと思ったから。


 だが、今回は事情が違う。

 みおさんからの詮索も無かったし……だから僕もみおさんには、自分からも明かす機会なんて無かったんだ。


 なのに、みおさんは何故……どうして、何もかもを知っているかのような……。



「なんとなく、わかるんだけどさ……」

「……うん」

「れいが、自分自身のことを赦せたとして……」

「!!」


 みおさん……そこまで、見抜いていた……?


「心がちゃんと真っ直ぐ私の方、向いたらその時は……ね……」


 と言いつつ、少し微笑んでくれたみおさんだったが……


「その時……は……?」


「ばか。 そこだけ聞き返さないの! 行くよ!」


 僕の手を引っ張り、魔界ホテルがいからは脱出……


 の、はずだったが……


 抜け出す……その一歩手前辺りで、立ち止まるみおさん。

 僕の手を掴んだまま、更に一歩だけ前へ進み……背を向けたまま、ビルに切り刻まれた夜空を見上げている。


「違うの……」

「えっ?」

「あのさ、れい……勘違いしないでね」

「なぁに……?」

「まだ……私も自分がわからないトコあるけど……」


 そこまで言うと、クルッとこちらへ向き直り……涙を堪えているような瞳で……


「一緒に……居たいのは、本当だよ」

「うん。それは僕も……」


 真っ直ぐで一本気な、みおさん。

 僕の『躊躇う』気持ちをちゃんと見抜いていて……

 お互いに好きだと言う気持ちはあっても……

 性愛そこへ至るまでには、過去をスッキリと清算した、中途半端ではない『気持ち』が、先にきちんとあるべきだというのが……

 二人の共通の想いだったのだろう。


 この狭い……ビルに切り刻まれた都会の夜空は……

 『明日の二人』を、結び付けてくれるのだろうか……。

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