白夜の抱擁 第六章 貴女をこの雨から護るのは…

 降り続く雨の向こうに……初めて間近に見る、戦艦三笠。


 そうか……ここに……あったのか。


「大砲がいっぱい。軍艦ね?」


 みおさんは、三笠を知らないらしい。


「明治時代、ロシアの侵略から日本を護った、連合艦隊の旗艦。三笠っていうんだ」

「日本を……ってことは、日本人を護ったのね。この船を、見せたかったの?」

「いや……偶然。僕も初めて見た」


 みおさんにはそう答えたものの……本当に偶然だったのだろうか。

 そもそも、物事に『偶然』なんてあり得ないのではないのか?

 ここまでの経緯を鑑みても、なんらかの因果があって僕は……『みおさんと一緒に』初めて三笠に謁見できたのではないのだろうか。

 いずれにしても……みおさんに話した知識くらいはあっても、三笠が横須賀の、どこに保存されているかまでは知らなかった。


 きっとその日の二人は……三笠に導かれて、ここへ辿り着いた……そう思いたくなるような展開だった。


 しばらく佇んだまま、三笠を見つめるみおさん。

 そして……笑顔で口を開きつぶやく。


「カッコいい……」

「えっ?」

「私……軍艦とか、大和くらいしか知らないけどさ……日本を護ったんでしょう? カッコいいじゃない!」


 元々江戸っ子で、曲がったことが大嫌い。

 素直で真っすぐな、みおさんのその言葉に……僕は嬉しくなってしまった。


「そう……カッコいい。そうなんだよ! 三笠は、その後の時代の戦艦と比べると、そんな大きな艦じゃないんだけどね」

「見たことないけど……大和より小さいのはわかるよ、なんとなく」

「大和は……今でも、世界最大、最強の戦艦だよ」


 因みにこれは、みおさんへの誤案内。

 仮に大和が現存していたとしても、残念ながら……最大ではあっても、最強ではない。

 その頃の僕は、ミズーリが1992年に退役するまでアメリカ海軍の現役で……

 決定的な武器の違い……即ち、トマホークやシースパロー、ハープーン等の、水平線の彼方から飛んでくる、旧艦にはほぼ回避不可能な……ミサイル類まで装備していたことを知らなかった。


「でも三笠はね、当時は世界最強と恐れられていたロシアのバルチック艦隊を、のちに東郷ターンて呼ばれる、失敗したら全滅するかもしれない命懸けの作戦で撃破したんだよ!」

「へ~、詳しいんだね……クスッ!」


 少し興奮気味に解説をする僕だったが、みおさんには……笑われた?


「なんか……おかしい?」

「ううん……笑ってごめん。男の子って、そういうの好きよね~」

「あ……うん。でも……アニメや戦隊アクションの話じゃなくて……実際の史実だから……」

「そうだったね。じゃ……明治時代、現実に日本を護った次は……」

「……?」

「今度は……」

「なぁに?」

「今、この雨から、私を護ってくれるの?」

「それは……三笠が? それとも僕が?」

「そこは……協力すれば、できるんじゃない? れいくんと、三笠くんで」


 三笠の力を借りてもいいとは心強い。


「では、艦内をご案内します」

「アハハ! キミだって初めてのくせに!」


 どこか嬉しそうなみおさんの手をとり……

 その後23年間……通ることの無い、入り口のタラップを上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る