第7話 導線を探して
14時30分、ワンビル内 フロア案内板前
「“彼の残した導線”って言われても、具体的にどこを探せばいいんでしょう?」
沙羅はフロア案内板をじっと見つめながら呟いた。藤川とともに再びワンビルへ戻ってきた二人だが、どこから手をつけるべきか皆目見当がつかない。
「地図って言ってたけど、どんな形なのかも分からないしね……」
藤川も腕を組んで考え込んでいる。さっき城島から聞いた「地図」という言葉がずっと頭の中で引っかかっているが、その具体的なイメージはまだ掴めていない。
「普通に考えれば、設計図のどこかにヒントがあるのかもしれないけど、そんなもの私たちが簡単に見られるわけがないわね。」
「じゃあ、何か目印になるものとか……例えば、このビルに普通はないものとか?」
沙羅がそう言って案内板を指差すと、藤川はふと思い出したようにポンと手を叩いた。
「待って、普通じゃないもの……そういえば!」
「どうしたんですか?」
「さっき管理室にあったモニター、覚えてる? あれに、このビル全体の監視映像が映ってたでしょ。」
「はい……えっ、まさか?」
「そうよ。監視映像に、普通じゃない動きが映ってる可能性がある。つまり、何か異常な場所が分かるかもしれない。」
藤川は目を輝かせて、スマホを取り出しながらどこかに電話をかけ始めた。
「誰に電話するんですか?」
「さっきの管理室のスタッフよ。彼らが全て協力してくれるとは限らないけど、監視映像だけでも見せてもらえれば進展があるかも。」
14時40分、管理室前
電話を切った藤川は沙羅に向かって親指を立てた。
「よし、行くわよ。」
「……本当にいいんですか?」
「管理室のスタッフの一人が、私たちの熱意に負けて映像を見せてくれるってさ。」
「熱意……というより、藤川さんの押しの強さに負けた気がしますけど。」
沙羅は少し呆れつつも、再び管理室へと足を運ぶ。今回は管理室の扉がすんなりと開き、さっき応対した中年の男性スタッフが二人を出迎えた。
「お約束通り、短時間だけ映像をお見せします。でも、どこまでお役に立てるかは分かりませんよ。」
「ありがとうございます! それで十分です!」
藤川は満面の笑みを浮かべて頭を下げた。沙羅もつられてぺこりとお辞儀する。
14時50分、管理室内
再び管理室に足を踏み入れた二人は、壁一面に広がるモニターの前に案内された。そこにはワンビル全体を映し出す監視カメラの映像が映し出されている。スタッフがリモコンを操作し、カメラの映像を切り替えていく。
「何か異常な動きや、普段と違う場所があれば教えてください。」
スタッフの説明に、二人は画面を凝視した。映像にはエスカレーター、カフェフロア、地下フードホール、オフィス階などが順に映し出されていくが、特に異常は見当たらない。
「……何もないですね。」
沙羅が呟いたその時、画面が地下フロアの奥を映し出した。そこに映るのは、薄暗い通路。そして――
「これ……さっきの地下通路じゃないですか?」
沙羅が指差すと、藤川も頷いた。
「間違いないわ。あのドアが見えるもの。」
「ここに、何か変わった動きがあれば……」
スタッフがさらに映像を巻き戻し、少し前の記録を確認し始める。そして――
「ん? これ、見てください。」
スタッフが指差した映像には、黒コートの男が再び映っていた。彼はゆっくりと通路を進み、例の「関係者以外立ち入り禁止」のドアの中に消えていく。
「またあの人……!」
沙羅は目を見開き、画面を見つめた。その男が明らかにこの謎に関わっていると確信せずにはいられない。
「この人を追えば、何か分かるはずです!」
沙羅が興奮気味に言うと、藤川も頷いた。
「そうね。ただ追うだけじゃなく、もっと彼が何をしているのか深く調べないと。」
スタッフがさらにカメラを切り替え、他の映像を探し始める。その中で、男がドアを開ける直前に壁に何かを操作している様子が映し出された。
「これ、壁に……?」
「タッチパネルのようなものを操作しているわね。あのドアを開けるためのキーか何かかしら。」
藤川はスマホでその映像を撮影しながら、スタッフに尋ねた。
「この壁の装置の場所、どこか特定できますか?」
「少しお待ちください。」
スタッフがシステムを操作し、数分後に答えを出した。
「この装置は、地下2階にある特殊な制御端末です。普段はメンテナンス用にしか使われません。」
「地下2階……!」
沙羅と藤川は顔を見合わせた。新たな手掛かりが見つかった瞬間だった。
15時10分、地下2階への道
「地下2階に行くしかないですね!」
沙羅が勢いよく言うと、藤川はニヤリと笑った。
「やる気十分ね、沙羅ちゃん。その調子よ!」
「だって……ここまで来たら、もう行くしかないです!」
二人は地下2階へのエレベーターを目指して歩き始めた。新たな謎の端末が、どんな秘密を隠しているのか――それを確かめるべく、再び冒険の一歩を踏み出したのだった。
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