第43話 開戦

「こちら管制塔、聞こえるか」


 耳にあてたドクロから声がした。


 そして声はフルヤさんだ。


「ヤマトくん聞こえるか」

「こちらヤマト、感度良好です。そちらも聞こえますか」

「こちらも感度良好」


 いま黒竜は、演習場の上空を旋回していた。その背にまたがるおれは、周囲の空を注意深く見ているところだ。


「ヤマトくん、きみは空での戦いになれていない。こちらからの通信をわかりやすく伝える」


 ほうほう。


「いま、きみから見てうしろが、管制塔だ」


 言われて、おれは背後をふり返った。ちょうどうしろに滑走路と管制塔が見えている。


「きみから見る管制塔を六時の方角と呼ぶことにする」


 なるほどね。東北東とか瞬時に言われても、どっちが東なのかわかんない。


「きみの進行方向に、だいたい合わせるということだ」


 なるほど。うしろの管制塔が六時。となると、正面が十二時、また零時。


「二時の方角より、正体不明の飛行物体。おそらく一匹目の竜だ」


 言われて瞬時に考えた。おれたちが飛んでいる方角は十二時。敵は二時の方角。つまり、おれたちから見て右ななめまえだ。


「クロ、右ななめまえから敵くるぞ!」

『ワカッタ』


 一匹目か。残る二匹はくるのか、こないのか。


「っつうかフルヤさん、そこから見えるんですか、目がいい!」


 電気のないこの世界、レーダーなんかはないはずだ。


「こちらは五十人態勢で、双眼鏡を使用している。全方位を見はっているので安心してほしい」


 さすが、できる男フルヤ!


「夜空は暗いので、助かります!」


 夜に飛んだことはあるけど、戦うのは初めてだ。まっ暗で近くはなにも見えない。


『オカシイ』


 黒竜の声だ。


「クロ、おかしいってなにが」

『ワレノ眼ニモ見エナイ』


 そりゃこんだけ暗けりゃ。って思ったけど、そうでした。おれもいま視覚は共有している。竜の目は魔力を見ることができる。敵の竜が近づいているなら、それは光る物体として見えるはずだ。


「三時の方向、くるぞ!」


 耳からフルヤさんの声だ。


「クロ、しゃがめ!」


 空中でしゃがめ。おれの言葉はまずかったけど意味は伝わった。黒竜がななめ下へと飛ぶ。


 おれたちの上をなにかがかすった。黒い物体。


「姿かくしの魔導具だ!」


 姿だけでなく、魔力もシャットアウトしているのか。だから竜の眼にも見えない。


「フルヤさん、ヤバいっす。敵の姿がぜんぜん見えないっす!」

「こちらに手がある。管制塔までもどれ!」

「了解!」


 おれが「クロ反転!」と言うまえに黒竜は針路を曲げた。いきたい方向というのは感覚で伝わっているらしい。


「九時方向、くる!」


 耳のドクロから声。


「クロ、上!」


 おれが言うまえに黒竜は翼を動かした。おれたちの下を黒いかたまりが通りすぎる。


「針路維持せよ。魔導照明点灯!」


 魔導照明ってフルヤさん、ここ地上。


「おわっ!」


 下の演習場からだ。あちこちから強力なライトが上空にむかって光をはなった。


「砲弾のマト!」


 大きな板に二重丸や三重丸が書かれていたマトだ。それがいま上をむいて光をはなっている。あれは砲弾のマトに見せて、魔導照明だったのか!


「六時の方向、敵!」

「クロ!」


 黒竜は急旋回した。


「待てクロ、ストップ、ストップ!」


 おれの声に黒竜は旋回をやめ、その場で羽ばたく動きになった。空中で静止する態勢だ。なぜおれが黒竜の飛行を止めたか。敵もそうしているからだ。


 黒い影にしか見えない竜だった。ばさりばさりと羽ばたきながら、こちらをうかがっている。


「いい動きだ、黒崎大和!」


 声が聞こえた。この声。


「おまえ、赤城なんちゃらか!」


 名前、忘れた!


「宅急便をしているというだけあって、飛行能力だけは得意としているようだな!」


 ああ、おれあいつにそんな説明した。


「だがそれでは、われら三体の竜には勝てない。特別にゆるそう、われらの軍門にくだれ!」


 いや、特別にゆるそうって、なにをゆるすんだ。クソメガネって言ったことか。


「なにが、したいんっすかね!」


 大声で聞いてみた。この赤城ってやつは、なにがしたいんだ。


「竜の時代がくる!」


 おお、わけわかんない答えが返ってきた。


「もはや人間の軍事力では竜に勝てない。これからは竜を持つ者、これがすべての頂点となる時代だ!」


 なんか無茶な話がでてきたぞ。


「きみは海外のことなど知らないだろう。南アフリカでは、すでに操竜者による独裁政権が誕生した!」


 おっと。赤城ってやつが無茶な話をしだしたと思ったが、意外にアリな話なのか。南アフリカ。遠い異国だけど、だいじょうぶかな。


「軍門にくだれ。黒崎大和!」


 しかし、なるほどね。このまえの襲撃は、やっぱここに捕獲されている竜が目的だったんだな。


 そして仲間になれと。ここはいっちょ、わが相棒の言葉を借りよう。


「ことわる!」


 大声で伝えた。しかし黒い影の竜から返事はない。


 ばさり、ばさりと。二匹の竜が羽ばたく音だけが夜空にひびいた。


「九時の方角よりあらたな敵、攻撃くる!」


 耳からフルヤさんの声。二匹目の竜か!


「クロ、上!」


 黒竜が急浮上する。


「いててて!」


 なにかがいっぱい飛んできた。そして寒い。


「ヤマトくん、おそらく青竜せいりゅうだ。氷の魔法をつかうぞ!」


 なるほど、これは吹雪。飛んできているのは氷のツブか。


『ワズラワシイ』


 心に黒竜の声がひびいた。


「いてっ!」


 だんだん飛んでくる氷のツブが大きくなってきた気がする。それなのに黒竜が二匹目のいる九時の方角へとからだをむけた。


「おい、クロ、やべえぞ!」


 氷の玉。しかも今度はバレーボールぐらいの大きさはある。無数に飛んでくるのが見えた。


『吹キ飛バス。ツカマレ』


 言われてあわてて首にしがみついた。黒竜がおなかを見せるように空中で立ちあがる体勢になった。


『フンッ!』


 黒竜がなにか言った。同時におれのいる首の根もと意外、すべての鱗が逆立った。


 逆立つ鱗で、竜の鎧はこなごなになった。空から下へと破片が落ちていく。


「鎧が!」


 なにか耳もとから声が聞こえた。鎧の開発者である教授の声だった気がする。


 全身の鱗を逆立たせた黒竜が羽ばたいた。すさまじい突風が起きた。前方への突風は、後方にもくる。あまりの風圧に飛ばされそうになった。またぐらが同化しているので飛ばされなかったが、おれの髪とバンダナと両腕は風になびいた。


 風がやみ、おれはからだをもどした。首にしがみつく。


「死ぬかと思った」


 感想を口にしたけど、それは敵のほうだった。黒い影が地上へと落ちていくのが見えた。


 あの氷のでかい玉だ。黒竜の風圧により自分で喰らったのだろう。


「風の魔法。それがおまえの竜の能力か!」


 どこかから声が聞こえた。赤城なんちゃらの声だ。


「フルヤさん、敵のひとりは、赤城なんちゃらです!」

赤城あかぎ達比古たつひこだな」


 そうか、そんな名前でした。


「青竜の落下地点へは、こちらの者がむかう。きみは残り二体に気をつけてくれ!」

「了解っす!」


 返事をしたけど、なにかむこうでガヤガヤする声も聞こえた。


「わしだ。扇だ」


 おお、教授だ。


「教授、ヨロイこわして、さーせん!」

「それはまあ、いたしかたない。ここにいるすべての者の命がかかっておる。金には換算できん!」


 なんて名言。お金より命。さすがもと生物学教授。


「開発費の二億など、なんてことないわい!」


 あっ、金額は聞かなきゃよかった。


「それよりもじゃ。昨日の襲撃、おそらく敵は赤竜せきりゅう青竜せいりゅう黄竜おうりゅうの三体と思われる」


 なるほど。あの赤城。乗っている竜は赤竜だったはず。青竜は倒したので、あと一匹が黄竜か。


 青竜の能力は氷の魔法だった。赤竜はどうせ火だ。でも黄竜ってなんだ。バナナか?


「ヤマトくん、上空がなにやら変だ」


 急に割って入ったのはフルヤさんの声だ。


 見あげてみる。さきほどまで星空が見えていたのに星は見えない。遠くの空だと星は見えた。この演習場の上だけ、ぶあつい黒い雲が集まってきているようだった。


「ヤマトくん、あれは」


 耳からの声がかき消された。轟音ごうおんだ。巨大な光が落ちた。運よく光はおれたちをかすめ地上に落ちた。


「カミナリかよ!」


 黄竜の能力はかみなりか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る