第42話 発着口

「総員にぐ、総員に告ぐ!」


 どこからともなく流れてくる声は、施設の魔導スピーカーだ。


 サイレンも鳴りひびいていた。


「これより竜が発進せり。総員配置につけ。繰り返す……」


 おれとフルヤさんは、早足で廊下を進んでいた。


「エマージェンシー、エマージェンシー!」


 急に音声は、英語になった。よくよく聞くとこの声、部下の斉藤さんじゃないか。


「ボギーズ・アプローチング。ドラゴン、スクランブルナウ。リピート!」

「あいつめ」


 まえを歩くフルヤさんが舌打ちした。


「斉藤のやつ、ゲームが好きだったからな」


 ああ、ゲームなんかで発艦するシーンは、こんなアナウンスだった気がする。


「斉藤さん、ゲームができなくなって、いまなににハマってるんです?」


 電気のない世界だ。ゲーム機はすべてゴミとなった。


「軍人将棋だ。それもかなりの腕前」


 なるほど。ゲーマーは、電気がなくなってもゲーマーなんだな。


「ここだ」


 まえを歩くフルヤさんが、ドアのまえに着いた。ドアノブをまわして入る。


 フルヤさんに続いて、おれも部屋へと入った。


「うっわ」


 家が一軒は入りそうな空間。そして天井はない。ずっと上にハッチらしきものが見えた。つまりここが発着口だ。魔導照明の赤色灯せきしょくとうがまわっている。


 中央に黒竜がいた。


「おまっ、かっけー!」


 黒竜はよろいを着けていた。飛ぶための翼には付いていない。胴体と足。そこが銀の鎧でピカピカだ。


 長い首の根もと、そこには鎧がなかった。おれが乗るためだろう。あと頭もだ。おれがヘルメットをかぶったら頭が痛くなったように、こいつもおなじだったんだと予想がつく。


『ワズラワシイ』


 あいつの声が聞こえた。重そうな鎧を着せられて気持ちはわかるけど、ここの自衛隊が開発した一級品だ。


「フルヤさん、ちょっとこいつと、ふたりっきりにしてもらえますか」


 うしろにいたフルヤさんにむかって言った。


「わかった。私は地上の管制塔にむかう。あとで交信しよう」


 その交信とは、おれが首にかけているドクロの耳あてのことだ。


「りょうかいっす!」


 おれが返事をすると、フルヤさんはうなずき発着口のドアからでていった。


「なあ、クロ」


 黒竜へと歩みよった。言いたいことがある。


 おれが近づいたので黒竜が頭をさげてきた。おれは右手にゴーグルを持っていたので、左手で黒竜の頭をさわった。


「クロ、血の契約を切ってくれ」

『ナゼダ』

「おれのほうが死ぬ確率、高いだろ」


 これは考えた結論だ。こいつはがんじょう。そして最強。死ぬ確率は低いように思う。それにくらべ、おれだ。簡単に死んじゃう。


 血の契約があると、おれが死んだとき、こいつまで死んでしまう。


「おれだって死ぬつもりはない。でも、まんがいちってこともある。なんていうか、あれだ。もったいない、これだ。ふたりがいっぺんに死ぬのは、もったいない気がするんだよな」


 黒竜は考えているのか、発射口の鉄の壁を見つめていた。


「クロ、血の契約を切れ」


 巨大な頭をさわっていたが、それをふりはらうように黒竜は頭をすこしあげた。


「おい、勘ちがいするなよ。おまえが血の契約を切っても、おれはおまえを信用している。だから切ってくれ」


 上から巨大な眼でおれを見つめてくる。青い瞳の巨大な眼だ。


「もう充分。もう必要ないんだ。切ってくれ」


 黒竜と見つめあった。


『コトワル』


 なんでだよ! けっこう長い説明言ったのに無駄かよ!


「総員配置。総員配置。これより竜の発進を開始する」


 アナウンスが聞こえてきた。


『乗レ』


 心にひびく言葉とともに黒竜が頭をさげてきた。


「ったく!」


 おまえって、やっぱりわがまま!


 おれが首にまたがると、黒竜は頭をあげた。


「あたた!」


 首の根もとまですべり落ちる。今日は鎧があるのでゴツゴツして痛い。


「上昇を開始する。五、四、三、二、一」


 カウントダウンのアナウンスとともに、ガコッ! と大きな音がした。床がゆっくりと動きだす。


 おれは右手に持っていたゴーグルを両手に持ち、ゴムをのばしながら装着する。


 次に首にかけていたドクロの通信機を耳にかけた。


「油圧正常、ハッチ解放。五、四、三、二、一」


 アナウンスが聞こえた。はるか上を見ると、ハッチがゆっくりとひらき始めている。


『ユクゾ、ヤマト』

「はいよ、相棒!」

『相棒カ。良イ気分ダ』

「うおっ!」


 黒竜との「感覚の共有」がきた。視覚だけじゃない。からだの感覚もいっぺんにきた。


 そしてなんだろう、黒竜の心が高揚しているのがわかる。なんかおれまで気分いい!


「ヤ、ヤマトさん、眼が青く光ってますよ、だいじょうぶですか!」


 場内アナウンスの声。斉藤さんだ。どこかからおれたちを見ているのか。


 なるほどね。おれとクロは、いま一心同体ってやつだ。


「絶好調っす!」


 どこから見ているかわからないけど、おれは親指を立てて斉藤さんへアピールした。


 そんなやり取りをしているあいだにも、昇降台はぐんぐんと地上へむかって動いていく。


「地上まで、あと十秒!」


 斉藤さんのアナウンスが聞こえた。


「ヤマトさん、幸運を!」

「はい、黒竜ヤマト、いってまいります!」


 おれは敬礼のポーズを取り、そして黒竜の首に両手をついた。こいつが跳躍するための準備だ。


「七、六、五、四」


 アナウンスのカウントダウンは進む。黒竜が跳躍のために身をかがめるのがわかった。


「三、二、一、発進せよ!」


 ハッチを通りすぎ地上へとでた。黒竜が跳躍する。


 ばさり、ばさり、と翼をふたかき。


 おれたちは東富士演習場の夜空へと舞いあがった。

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