おまけ短編
短編「射的 〜燕と密季 クロスオーバー〜」
夜でも暑さを引きずる夏休み。
有名な花火大会の会場にデートに来た私たちは、花火そっちのけで縁日を回ってる。
「……花火見なくていいの?」
紺色の浴衣姿がとても綺麗な京ちゃんに尋ねると、いつも通りのケロッとした顔で言葉を返す。
「うん。有名らしいけどやっぱり花火は花火だね。好きな人と見るなら線香花火も打ち上げ花火も変わらないかな。飾利の方が見てて気分がいい」
うわぁ京ちゃんらしい一言。
まぁ私も花火は好きだけど、京ちゃんと一緒ならどこでもいいし変わらないかも。
夜なのに周囲が屋台の灯りでオレンジ色に包まれている。
屋台の熱気が光となっているようで、日本人だからか不思議と高揚した気分になる。
上を向けば花火がチラチラと見えるし、これはこれで粋ってものなのかも知れない。
とはいえ有名な花火大会だからと浴衣デートしようってお互い気合いを入れたのに、結局縁日を練り歩いている。
お祭りデートになっちゃった。変わらないか。
「それよりねぇほら! あれ! 射的やってよ!」
さっきからやたらと射的をしようと言ってくる京ちゃん。
射的をしたいというより私にやってほしいみたいで、手を繋いで射的の屋台を指差している。
「私がやるの?」
「もちろん」
京ちゃんは「逆になんで私?」と言った表情でこちらを見つめる。
「あまりこういうの得意じゃないんだけど」
縁日のゲームってあんまり実力は関係ないと思うけど、自信がなかった。
けど京ちゃんはそんな私の顔を覗き込んで笑う。
「だからいいんじゃん」
「えっ?」
「上手くいかない飾利の顔が見たい」
「京ちゃん……」
性格悪いよ? と言ってしまいそうになる。
けどその純粋無垢な笑顔を見たら逆にそんなことを言えない。
甘いものを食べてる私を見る時、ポテトを食べてる時、京ちゃんの幸せそうな顔は色々な場面で見ることができる。
けれど、一番幸せそうなのは”確認作業”で表情が崩れた私を見ているときだ。
なんかもう、この子が心配になります。
正面からこんなことを言ってしまうのだから。
「……まぁいっか」
なんてことを考えたけれど、私たちは花火フル無視でここの縁日エリアにいる。
遊びをするなら混んでない今だよね。
複雑な気持ちを手っ取り早く心で噛み砕いて、射的の屋台へ向かった。
お祭りテンションで少し興奮してるかも。
私も京ちゃんも。
「あの……いいですか?」
「いらっしゃい。おぉ! 今日は可愛い子がよく来るね。5発で500円ね」
「はい」
持ってる巾着から財布を出して500円を支払う。すると頭が丁寧に剃られたおじさんは紙皿に5発のコルク弾を置いて台に置いた。
「あれ? 1発足りないですよ」
それを見た京ちゃんが首を傾げて言う。
「えっ? 5発だけど?」
「あの金髪の人たちは6発でしたよね?」
金髪の人……?
誰だろう。ゴミ箱を探しに離れたときに何か見たのかな。
不思議に思いながらも私の視線は京ちゃんとおじさんでシャトルランをしている。
「あぁー……見てたのかい? お嬢ちゃんも油断ならないね」
「ほら! この子も可愛いでしょ? クール系で素敵でしょ?」
「えっ? ちょっ」
そういって子煩悩な親が子供を自慢するみたいに、京ちゃんは私の後ろに回って肩を持つ。
私は彼女に合わせてちんまりと見つめると、おじさんはポリポリと頭皮を指先で撫でて言葉を返す。
「よし! 分かった。子供たちにもサービスしちゃったし美人さんサービスね」
よく分からないけど、勝手に折れてくれたみたい。
そして京ちゃんの言い分におじさんはパンと両手を叩いて1つコルクを紙皿に追加する。
というかコルク弾1発のサービスにそんな勢い必要……?
そんなことを思ったけれど、せっかくだしありがたく受け取って銃を手に取った。
コルクを詰めて、レバーを引いて、引き金を引く。
実際にやって構えると銃は少し重くて狙いを定めにくい。
「どれ狙うの……?」
「んーあれかな。あのぬいぐるみ」
すると隣に並んだ京ちゃんは顔を寄せてドッシリと座ったクマのぬいぐるみを指差す。
「あれを当ててくれたら嬉しいな」
「……なんでそこから見てるの」
京ちゃんの綺麗な顔が景品台じゃなくて、こちらを向いている。
「だってこの角度じゃないと飾利の顔見えないし」
「射的って景品を狙うゲームだよ」
「私にとっては違うから」
ああ言えばこう言うな京ちゃん。
付き合い続けてそんな性格にも慣れてきちゃった私は、少しため息をついてクマのぬいぐるみを目掛けて照準を合わせる。
ただ、やっぱり銃が私には重くて難しい。鉄すぎる。
6発中もう5発を打ってみたものの全く当たる気配がしなかった。
「難しい……」
ふぅと息を吐くと後ろに気配を感じる。
「ん?」
「よいしょ……」
すると京ちゃんが後ろから覆い被さって、私の手の上から銃を持ち上げた。
「京ちゃん?」
キスしている時くらいに近い距離でこっちを見て笑う。
「これ、やりたかったんだよね」
「なんで……?」
というかどこからこんな発想が……。
「さっきこうやってた人達がいたんだよ。ねぇおじさん? いいでしょ?」
「はぁ……まぁ……いいんじゃない」
いたんだ。こんなことする人。
とんでもないカップルもいたんだなって私は勝手に1人で驚いてしまう。
おじさんもさっきから京ちゃんに押し負けて苦笑いを続けている。
するとぐいっと京ちゃんは私の手を上から包んで銃を持ち上げた。
「いいね。浴衣だと、布越しなのに布がないみたいに体が密着してる」
静かに私だけに聞こえるように呟く。
ドキリと心臓が跳ねて、密着している背中に神経が集中する。
流石にここまでピッタリ密着すると、京ちゃんの胸の感触を感じる。
むしろそれしか考えられない……。
「ふふっ、視線、固定しよっか」
今度は周りにも聞こえるように声に出して、私の顔に頬擦りする形で顔を近づける。
言い訳としてわざと声に出したんだ。
京ちゃんは髪が短いからキメの細かい頬の肌がヒタリとくっつく。
私も浴衣用に髪をハーフアップにしているせいでより肌の感覚が伝わってくる
「……っ!」
私と京ちゃんの身体と顔が完全に1つになっている。
京ちゃんの頬や体は微かに温かくて気持ちいい……とか思うとグッと銃を持ち上がる。
「うわっと」
「この辺がいいかな」
人の往来でここまで密着していることに少しだけ緊張した。
けれど視線を動かすだけじゃ京ちゃんの顔が見えない。
もう私は狙っているクマのぬいぐるみよりも京ちゃんのことで頭がいっぱいになっている。
こうやって「うわぁ近いなぁ」「あったかいなぁ」とか、心で自然と思ってることまで伝わってしまいそう。
唾をごくりと飲む。
これ、伝わっちゃってないかな……?
「いくよ……3、2、1……っ!」
そう声をかけられ私は引き金を引くと、ポンと気持ちのいい音を鳴らしてコルクはクマの頭に当たる。
ドッシリと座っていて「あんなの倒れるのかな」と最初は怪しんでいたけれどポスリとクマは倒れた。
「おっ当たった」
「京ちゃんすごっ」
「えぇっ嘘だろ!?」
私たちよりおじさんが驚いていた。
「倒れたのでくれますよね」
京ちゃんの指の先には『当てて倒したら景品を獲得です』と小さい張り紙が貼ってある。
そんなとこまで見据えて倒しちゃうなんて……京ちゃんの底知れなさに驚かされる。
もう何が出来ないのかくらい完璧。
あまりにも同じ人間とは思えなくなってくる。
そんな彼女におじさんも流石に何も言えなくなり、肩を落として倒れた人形を手に取る。
<チュッ>
おじさんが人形を取るために景品台に体を向けた途端、京ちゃんはチュッと私のほっぺに唇をつけた。
「……っ!」
流石に声には出せずビックリした私は彼女の顔を見つめる。
「至近距離でいろんな顔したね」
そうやって目を細めて笑うと、京ちゃんはぬいぐるみを受け取った。
「ほら、飾利が取ってくれた思い出だね!」
「ほとんど京ちゃんが取ったようなものじゃない?」
「じゃあ2人で取った思い出だ。今度はこれは守り神だね」
「うっ」
守り神、その言葉が少し胸に刺さった。
京ちゃんの部屋で壊しちゃったあの置物を思い出す……。
「飾利が壊しちゃったからなぁ、あれ」
すると私の感情見て取ったのか、更にわざとらしく肩を落として彼女は言う。
「ごめんなさい……」
冗談だったとしてもその話題を持ち出されると少し形見が狭くなってしまう。
だって確認作業だったとしても「じゃあ壊してよかったんだ」とはならないし……。
「ふふっ飾利が困った顔した。いいって、冗談だから」
「またそうやって意地悪する……」
「あの置物と違ってこれは2人の思い出だから。どんな手を使ってでも壊させないよ」
にこやかに嬉しそうに、ぬいぐるみを小脇に抱えた京ちゃんは空いた手で私の手を取って歩き出した。
私たちとの関係性もそうやってずっと壊れないといいな。
秋も、冬も、何も起きずに幸せなら嬉しいんだけど。
でもきっと……するんだろうなぁ。確認作業。
分かってても私は京ちゃんが大好きだから、困って焦って不安になっちゃう気がする。
そんな夏だった。
・シチュエーション
【大嫌いな後輩女に脅されて付き合うフリをすることになりました】
第20話の裏、土用縁日エリアにて
https://kakuyomu.jp/works/16818093093103863959
※おまけ短編はあくまでおまけとして考えてください🙇
両作品本編に影響はないはず……!
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