【10月29日 秋の試験に苛まれる】

第15話

「りーちゃん? いま大丈夫?」

「どうしたの?」


 家で1人テレビを見ていると、お母さんから電話が入る。

 突然の連絡にビックリしたけれど、まぁ大体お母さんは突然だから落ち着いて言葉を返す。


「来月の中頃に3日くらいだけど日本に帰れそうだから、その連絡」

「あぁそうなんだ。わかった。掃除しておくね」


 やっぱそういうことか。


 何をしているのか分からないけれど海外を飛び回るお母さんは基本家にいないから、京ちゃんと同じで一人暮らしみたいになっている。


 けれど京ちゃんと違って別宅な訳じゃないから突然連絡して帰ってくることがある。

 しっかりと部屋に生活感を残しながら清潔にしないといけない。


 それが原因で京ちゃんの家に入り浸るなんてことが出来ないのだけど、それによって私の生活力は維持されている。


 今回もそんないつもの帰宅連絡だ。


「いや掃除はまぁいつも通りでいいんだけど、あなた夏の成績送ってないでしょ」

「えっ!? そ、そうだっけ……?」


 バレてる。いやまぁ普段送ってるものを送らなかったらバレるんだけど催促がないから忘れてると思ってた。


 送らなかった理由はもちろんある。

 評定が去年より落ちたからだ。


 少しだけ落ちてる。落ちてしまっている。本当に少しだけ。

 半分近くの評定が1つ下の数字になっただけ。1はなかったしまだ大丈夫。

 ただ落ちた代わりに他の評定は上がったとかもない。悲しいことに落ちる一方。


「……まぁいいわ。そうやって大きな声出して焦るのやめなさいね。中間テストもそろそろでしょ? 成績は帰った時に期待せずに見ることにするから、頑張ってね」


「……」


 まずい。


 春に京ちゃんと付き合ってから、遊ぶことが増えた。


 さらに京ちゃんの確認作業でメンタルと勉強時間が削られてしまったせいで、中間テストを乗り切る自信がない。


「飾利?」

「う、うん。大丈夫。その時に見せるね」


「……男と遊んでて下がりましたはナシね」

「男の人となんて遊んでないよ」


 男の人じゃないからセーフ。


 そう言い訳をしながら、とりあえずの落ち着きを見せたままお母さんとの会話をこなす。


「少し心配になるわ。成績も、交友関係も」

「大丈夫だって」

「そろそろ紹介してちょうだいね」


 ハハハっと苦笑い。

 バレてる。いや付き合ってからも何度か帰ってきてたし……どっくにバレてた?


 中学まで私を女手1人で育てあげたこともあって、娘の変化には敏感みたいだ。

 相手が女の子だとは思ってないみたいだけど。


「ふふっ、それじゃあね」

「うん」


 ツーツーツーと電話が切られる。


 こちらに後ろ暗い部分があるせいで、そのツーツー音が心臓の音とシンクロしてる。


 どうしよ。


 自信がない。


 京ちゃんのことは話してないし、話したとしても彼女と付き合ってるせいで成績が落ちたってなったら……


 これは京ちゃんの印象に関わってしまう。

 私が頑張らないと京ちゃんが私の成績を貶める悪女みたいに思われてしまう。


 それに納得のいかない成績を見せたらきっと怒られる……というより呆れられる。


 お母さんが優秀な分、その呆れはきっと私にとって切ないものになる。

 小さい頃から勉強とかあんまり得意じゃなかったし、その上でどう生きるかを教育された。


 だからお母さんにあまり勉強面で期待されてはいないことはわかってる。

 けど「私は大丈夫だよ」って言えるくらいの成績を見せたい。


 厳しいけど優しいお母さんに心配かけたくないし、自慢の恋人の京ちゃんを紹介して「この人なら大丈夫」と安心してほしい。 


 そんなことを思いながら、私は即スマホを手にメッセージアプリの一番上にいる子に連絡する


『ごめん、テストまで勉強教えてくれる?』


 そう送ってスマホをテーブルに置こうとしたらすぐ通知音が鳴る。


『いいよ。なにやる? 英語?』


 即答。これだけ優しいと京ちゃんを良いように使っているようで申し訳なくなる。


『飾利?』

『おーい』

『なんの教科やるのー?』

『何教えたらいい?』


 さらに京ちゃんからの高速の連投。私は躊躇いながら教えてほしい教科を入力する。

 ……引かないかな。でも本当だもんな。


『全部』

『えっ』

『全部教えて欲しい』


『笑』


 すぐ返信が来た。きっと本当に笑ってる。


『いいよ。明日から放課後やろっか』


 お母さん。京ちゃんは凄い良い子です。


 京ちゃんのために今からでも勉強を始めて頑張らなきゃ。


 そう思って、とりあえずお母さんの帰国予定が早くなった時に備えて部屋の掃除を始めた。

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