第4話 手がかり
あれこれ悩むのはヤメだ。
そう切り替えてから自宅まで戻るのはあっという間だった。
玄関で合羽を、脱衣所で服を脱ぎ捨て、手早くシャワーを浴びて雨と汗を流した。
濡れた髪をタオルで拭き取り、冷蔵庫から買い置きしていた「芋煮カレーパン」を手に取って齧りながらPCの電源を入れる。
時刻は16:40
中学1年の頃、メカや電化製品好きが高じ、自分で組み立てたPCだ。
学校帰りに本屋で立ち読みしまくって、必要なパーツや組み方、OSのセットアップなど、よく一人で調べたものだと思う。
当時はパーツも高価だったが、親に欲しいと言ってパーツリストと必要経費を書いて提出したことに感心され、買ってもらった思い出がある。
「まずは仙台空港から・・・ っと」
検索して国際便を調べる。
「は?」
思わず声が出てしまう。
というのも、画面に表示された国際便は、ソウル、台北、大連のみ。
「・・・仙台空港を経由して、他の空港からドイツに飛んだ? っていう可能性も?」
「いや、それなら山形空港から羽田へ飛んだほうが楽だ。 遠回りする理由が? ・・・いや、無いな」
オレは、ただ本当に留学したのだ、という確証が欲しかった。
それならば納得もしただろう。
ただ、片隅に浮かぶその可能性を否定したかっただけ、なのかもしれない。
頭の中と感情がフツフツと沸き立つ。
自分を抑えながら、出来事を頭の中で思い出す。
おじさんの、落ち着かない様子、噛み合わない会話、感じられる焦りと不安。
おばさんの、何かを伝えようとした動作、し過ぎる気遣い。
突然すぎる留学話、明日の約束をしたまま消えた
否定したかった可能性は疑念となり
「やっぱり、何かしらの事件に巻き込まれた? のか?」
だとしたら何だ?
突然消えた・・・ 留学した・・・ 圏外・・・ 大丈夫、大丈夫・・・ 少ししたら戻る・・・
何が、大丈夫なんだ? 少ししたら戻る?
組み立てる。
頭の中で、メカやプログラムのようにロジカルに考えろ。
そして、疑念は確信に至る。
「・・・誘拐?」
突然消えたのは、誘拐されたから。
留学したのは、事件が発覚しないよう、そう偽装するよう脅されたから。
電話が圏外なのは、足取りを消すため。
大丈夫は、身代金と引き換えに解放すると言われたから。
少ししたら戻るは、既に身代金の目処がついた、もしくは用意が出来たから。
ただの思い込みかもしれない、でも、答えに辿り着いてしまったのかもしれない。
思わず
おじさんは警察に通報していない。
なぜなら、
「ってことは、警察にもじいさんにも連絡してないって考えるのが正解じゃないか?」
おそらく、身代金を渡して何事も無かったかのように
そこにオレが出しゃばったら、きっとおじさんは「何もするな」とオレを抑制するはず。
なら、オレはどうすればいい? オレに何が出来る?
「・・・そうだ! そういえば」
以前、スマホが壊れたと言って
再セットアップをした際に、管理用のIDとパスを控えておいたはずだ。
「えっと・・・ 確かここら辺のフォルダに保存しておいた、はず・・・」
データ保存用に繋げてるNASの中に、当時の設定ファイルを見つけた。
「よし、これを使って・・・」
ネットからスマホを管理・操作できるソフトを立ち上げ、ID・パスを入力しログインする。
メニューには、欲しかった<現在位置検索>、<移動履歴>が表示されている。
「よっし!!」
迷わず<現在位置検索>を選択する。
[[ 電源が入っていないか電波の届かない場所にいる為、現在位置を取得出来ませんでした ]]
まあそうだろう、電話しても繋がらなかったんだ。
もしオレが誘拐犯だったら電源オフは勿論、SIMカードもしっかり抜く。
だが、<移動履歴>は誤魔化せないだろう。
「昨日、
検索対象範囲の開始日時に昨日の日付と16:30を入力し、終了日時は空白、表示のデフォルト設定が30分間隔になっていたので、最小の1分間隔で検索をかける。
画面上のマップに沢山の点が表示され、
「よし!!!!!」
左手で拳を握ってガッツポーズを取った。
学校に近いところにある点の時系列が古いので、ここがスタート地点。
そこから点は街中に向かっており、点と点の間隔から移動は自転車を使ったことが見て取れる。
移動経路で点が沢山重なってる部分があるが、これは
「ここら辺の店で買い物したって事か」
マップを拡大していくと、駄菓子屋、酒屋、肉屋、魚屋の順に移動しているように見える。
駄菓子屋はいいとして、酒屋? チーズとかツマミか? こうやって移動履歴を辿ると
「やっぱり、明日の為の食材買ってるよなぁ」
翌朝には海外へ留学するって人間がこんな行動をとるはずがない。
と、時系列で点を追っていくと、最後の方で急に移動速度が上がったとしか思えない履歴になった。
「え? 自転車で移動したにしては早すぎるだろ?! ・・・車、か?」
1分で1kmちょっと移動している。
時速60kmから80km位の速度。
点を追っていくと、街部から離れ、市を出た後、隣町の山の方に向かってるように見える。
履歴の最後の方で少し点と点の間が狭まっている。
「直線道路で減速するってことは、ここら辺で曲がったか?」
マップで確認するとその先にはトンネルがあり、その横に山の上に行く脇道がある。
最後の点の履歴は夕方19:15
オレの住んでいる市周辺は、周りを山が取り囲んでいる盆地に位置している為、夕暮れになると一気に暗くなって見通しが悪くなる。
ただでさえこの場所は民家も無く、薄暗がりで横道から山の上に行っても誰も気が付かないだろう。
あまりにも当てずっぽうだが、今の俺には他に頼れる情報も、成す術もない。
「頼れる情報・・・ ちょっと待て」
点が車の移動速度に変わったって事は、
なんでこんな単純な事、気が付かなかったんだ!?
慌ててマップを確認し、点の周辺を調べる。
履歴時刻は19:00
少し離れてはいるが、点の道路斜め向かいにコンビニがある。
この監視カメラに何か映っていないか?
ダメもとで押しかけて、事情を話して見せてくれと頼み込むか?
「いや、悩むのはヤメたんだ、ダメでもともと! 行くしかない!」
なるべく夜間でも動ける恰好でと思い、黒のTシャツに厚手の黒パーカー、手にはハーフのレザーグローブ、カーキーのカーゴパンツに鉄板の入ったミドルのライダーブーツを履きズボンの裾を入れる。
背中には、必要になるかもしれない物を入れた軽くて強いバックパックを背負った。
時刻は18:10
外はまだ雨が強く降っており、夕方ということをおいてもかなり暗く感じる。
オレは、すっかり乾いた合羽をまた羽織り、ダメもとでコンビニまで自転車を飛ばした。
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