Rising Force - Genesis -

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プロローグ

プロローグ

「とんだ邪魔が入ったな。 面倒だ、二人とも始末しろ」


オレは散々殴られ蹴り飛ばされた後、少し広めの部屋に投げ入れられた。

目に入る血が邪魔で良く見えないが、チンピラや半グレ、暴力団崩れの様な輩が10人程。

すぐ目の前には、目隠しと猿ぐつわをされ椅子に縛られている女性がいる。

無謀にも単独で彼女を助けに来て、何も出来ないまま見つかり、今はこのザマだ。


「ぐっ! オレっが! 代わりに人ジちに・・・ なるっ・・・ がらっ! 彼女をっ、解放しデ・・・ くだザいっ!」


痛みで動かない体をなんとか持ち上げ、無様な土下座の形を取りながら出た情けない言葉も、血と何だか判らないもので口の中がザリザリしていて喋り難い。


オレの声に反応したのか、猿ぐつわ越しに彼女が


「?! ん゛っ!んん゛~!!」


と呻きながら体を揺らす。


「うるせぇ! 大人しくしてろっ!」


後ろからガタイのいい男が彼女の顎下に手を回し、首を絞める。


「ングッ! グェッ!」


目に映るその光景と声に、急激に頭に血が上るのが解る。


「おねがい・・・ しますっ!!」


頭を床に擦り付け懇願こんがんする。


「フフッ・・・ 始末しろとは言ったが、まだ殺すなよ?」

「まずは命知らずなこのボウズに、世の中ってもんをちゃんと教えてやんねぇとなぁ」


オレと彼女を始末しろと言った奴が目を細め、メガネをクイと上げながら下種な笑みを浮かべ話を続ける。


「俺らはな、このお嬢ちゃんを誘拐して身代金を貰う。 んで、貰うもん貰ったらちゃーんと家に帰す ・・・予定だった」


予定だった? 何を言っているんだ? 痛みとこの状況に思考が追い付かない。


「まぁ、俺らも下っ端だから? 折角手に入る大金も、結局は上に搾り取られるわけよ」

「んで、こっちに回ってくるお零れなんて、最後の搾りカス、ほんの少しだ」


「・・・上? グボッ!?」


思わず声が出てしまい、脇に立っていた奴に蹴り上げられる。


「体張って一番苦労した俺らが、一番取り分少ないなんて、到底納得いかねぇよなぁ?」

「まぁ、俺らもそこまでバカじゃねぇし、いい加減腹に溜まったもんブチ撒けねぇと収まらねぇ」


なんで、オレは今血だらけで床に転がって、犯罪者のグチを聞かされてるんだ?

なんで、彼女がこんな酷い目に合わされなきゃいけないんだ?


「って所にボウズの登場だ。 俺らの顔も見られちまったし、クソみてぇな予定すら狂っちまった」

「世の中はな? そんなに甘くねぇのよ。 それに予定ってのは・・・ 変わるもんだ」


スッと表情が冷たくなり


「・・・ってことで」


メガネをクイと上げ直し、カッと目を見開き


「俺らの顔を見たお前は殺す! お嬢ちゃんも殺す! 大金も手に入れる! 後は、ここにいる奴らで大金山分けして、国外にでもバラバラに散って、遊んで暮らすだけだっ! いいか! これが世の中ってやつだ! 奪われる奴は一生奪われ続ける! 所詮、奪う奴が一番強ぇ!!」


・・・ふざけるなっ! 彼女が、オレが、何をした! 何故、奪われなきゃいけないっ!


「だから、俺らは奪う側になる!」


・・・なら、俺も奪う側になって、お前ら全員ぶっ殺してやるっ!!!


・・・オレに! オレに力さえあればっ!!!


更に頭に血が上り、鼻から血が床に滴り落ち、怒りで眼球が飛び出しそうになる。


「ん・・・? ボウズ、お前まだなんとかなるって感じの顔してるよなぁ?」


ピクッ!と、床に着いたオレの手が反応する。

男はそれに気が付いたのか、口元が緩み、口角が上がり、嗜虐的な顔になる。


「・・・フフフッ 折角だ、どうせ死ぬならこの嬢ちゃんが殺されるとこ、しっかり目に焼き付けて、冥途の土産に持ってけ! ボウズ!!」


と同時に、立てた親指を自分の首の左から右へ一文字に引く。

その言葉と動作に、一気に血の気が引き、「ぁ・・・ ぁ・・・」と震えた声が漏れる。

プルプルと震えるオレの手が、彼女に向ってゆっくりゆっくり伸ばされる。

満足そうに、愉悦を浮かべながら高笑いする男。


「ヒャーッ!ヒャッヒャッヒャッ!!」


彼女の首を絞めていた男の手にナイフが見える。


「女、悪く思うなよ? 悪かったのはあんた自身の運のなさだ」


そう言うと、メガネの男に視線を向け一つ頷き、メガネの男はそれに返答して頷いた。

彼女は、これから起こることに何も抵抗できずに、ただ、ガタガタと震える。

彼女の首筋にナイフの刃が触れる。

猿ぐつわがされた口の奥から「ヒッ!!」と声が漏れると同時に、椅子から床に零れる大量の透明な液体。

ツンとしたアンモニア臭が鼻につく。


「あぁ!! ぁァァ・・・!! やめデグれぇぇーー!!」


彼女へと必死に伸ばす手。


届いたとしても、何も成すことのできない手。


助ける事の出来ない手。


ザシュッ!!! ブッシューーーーゥ!!


「あ゛ああ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ァァーーーーっ!!!」


喉元を横一文字に切り裂かれ、激しく血飛沫ちしぶきを噴き上げながら、ガクガクと痙攣けいれんし椅子ごと床に倒れ込む彼女。

その血を全身に浴びながら、自分が絶叫していることも解らず、必死に必死に手を伸ばす。

だが、深紅しんくに染まったその手は、彼女に届くことはなく、むなしくくうを掴む。


「うヴァ゛ァ゛ァ゛あ゛あ゛ァ゛ぁ゛ァ゛ーーーーー!!!!!!!」


真っ赤に染まった視界は、遠のく意識と共に端から徐々に赤黒くなり、ついには電源の切れたモニターのように「プツン」と意識が途切れた。

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