第1片
「行ってきます!」
世界一静かな町 サイレントタウンで、僕は叫んだ。
大きな荷物を背中に背負う僕は満面の笑みで手を振っている。それとは正反対に、町民達は泣いている。
幼馴染のレオ・ウォーカーが言う。
「何かあったら言うんだぞ!いつでも相談乗るからな」
僕は「別に1人でも大丈夫だし……」と返した。
「とうとう旅立ちじゃのう……。頑張っておいでな」と町長が涙をこらえて言った。
サイレントタウンからウェザーヒーロー志望者が出たのは3年ぶりで、4人が受験する。
そのうちの1人である、僕が試験前日を迎え、そのまま一人暮らしをするので町民は涙している。
町民は、僕にもう会えないかもしれないという不安か、一人暮らしをするまでに成長した嬉しさか、どちらかで泣いているのだろう。
僕は手を振りながら後ろ向きで歩き、やがて前を向いて走り出した。
鳥のさえずりをかき消すように、僕の軽快な足音がこだまする。
これからのサイレントタウンは今までよりずっとずっと静かになるだろう。
僕は快晴の空の下を歩く。ここはウェザーストリート。ウェザーヒーローズ本部へ続く大通りだ。
僕の前にはシーホーセルがいて、僕を誘導している。
シーホーセルとは、タツノオトシゴをモデルにしたAIロボットで「誰にも干渉せず、誰も干渉しない。利用者だけに奉仕するロボット」
つまり、お手伝いロボだ。
僕は田舎に住んでいたのでシーホーセルの存在は知っていたものの、持っていなかった。しかし、都会では1人1台持っているのが当たり前らしい。このシーホーセルは、ウェザーヒーローズのもので案内役として使われている。
無心で、ただシーホーセルについて行く。
僕は晴れの日に想像が’’本当’’になる能力を持っているが、想像が苦手。
ふとした時にした想像が本当になる。能力自体は強いが、自身でまともに扱うことができない。頭に情景を思い描くことが苦手なのだ。
そもそも、ウェザーヒーローズ以外が公共の場所で能力を使うことは禁止されている。なので、無心で歩いている。
僕は勉強も運動もクラスで真ん中くらいだった。1つのスポーツが特別上手いという訳でもない。
ウェザーヒーローズ試験は、面接試験と筆記試験、そして実技試験が行われる。面接と筆記試験は通るとしても、実技があるので、僕はこの試験は落ちる気がしている。
そんなことを考えていると、ウェザーヒーローズ本部が見えてきた。僕はネガティブではなく、ポジティブに考えようと思考を切り替えた。
快晴の空の下を歩いて、本部へと向かって行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます