ざまぁ代行勇者
ももぱぱ
第1話 転生(女神付き)
「この金貨を投げて、表が出たらこの力を人助けに使う。裏が出たらこの世界を破壊する」
私は自分の考えを言葉にして金貨を指で弾いた。結果は……
▽▽▽
「あなたは、なんて悲しい人生を送ってきたの! あまりに可哀想な貴方にもう一度人生をプレゼントしましょう!」
真っ白な空間に立たされた私の目の前に、ピンクのドレスを着た女性が現れて、よくわからないことをしゃべっている。
確か私は自ら川に飛び込んで死んだはずでは?
「あなたが、第二の人生を楽しめるように、素晴らしい力を用意しました! その力を使って勇者になるもよし、魔王にだってなれちゃいますよ!」
力? そんなものはいらない。もし何かをくれるというなら、感情がほしかった。物心ついた時から感情が欠落していたおかげで、私がどれほど悩み、苦しんだのかわからないのか?
「それじゃあ、私が管理する異世界フィルティアへいってらっしゃい!」
全く何の説明もないままいってらっしゃいと言われても困る。全身が光り始めた私は、とりあえずもう少し詳しい説明をしてもらおうと、目の前の女の腕を掴んだ。
「えっ!? ちょっと!? やめてよ! 離しなさい! あっ!? あぁぁぁ!?」
私が腕を掴んだからか、女の身体も光だし……そのまま意識を失った。
▽▽▽
「ここは……どこだ?」
気がつくと私は森の中に立っていた。右手に小学生くらいの女の子の腕を掴んだまま。
「ぎゃぁぁぁ!? あんた、何してくれてるの!? 女神は自分が管理する世界に入っちゃいけないのよ! 知らないの!?」
そんなこと知るわけもない。というかこの女、女神だったのか。
「すぐに戻らなきゃ……あぁぁぁ!? 戻れない!? ペナルティのせいで女神の力を失ってる!?」
そういえばこの女、さっきまでもう少し大人だったような気がするのだが、私の勘違いだろうか?
「お前、そんなに小さかったか?」
一応、確認しておく。
「はぁ? あんた何を言って……ぎゃぁぁぁぁぁ!? 何これ!? あたし、縮んでる!?」
それにしてもこの女、いや今は女の子か、えらく騒がしいな。感情が豊かそうで羨ましい。
「うぅ、女神の力も失って、こんなちんこくなっちゃって、あたしはどうしたらいいの?
そこのあんた! あんたのせいでこうなったんだからね! 何とかしてあたしを神界に戻しなさいよ!」
この状況は私のせいなのか? 何だか違う気がするが、半分くらいは私に責任があるかもな。
「善処する」
「なんでそんなに冷静なのよ! って、あんたには感情がなかったんだったわね。はぁ、いいわ。幸いあんたに与えた力はなくなってないみたい。あたしはこの世界について誰よりも詳しいわ。あんたとあたしが力を合わせれば、あたしが神界に戻れる方法を見つけられるかもしれないわね。
それまで、一緒に行動してあげるから感謝しなさいよ!」
「一人が怖いだけじゃないのか?」
力を失ってるって言ってたしな。見た目も小学生だし。一人じゃ危険だから私と行動を共にしたいだけだろう。
「ちっ、違うわよ!? あんたが私を巻き込んだんだから、あんたには私を守る義務があるの! わかった?」
正直、全くわからないが、別に一緒にいたところで問題ない。少なくともこの世界についての知識を得るまでは、一緒にいてやるか。
「さあ、早速お客さんが来たわよ。創造魔法を使って、ちゃっちゃと倒しちゃって!」
突如そんなことを言い出した女神の視線の先には、こちらへと向かって来る一頭の巨大なクマがいた。
「あれはデビルベアー。あいつの強さは、この世界だと中の上ってところね。あんたなら楽勝だと思うわ。ちなみに弱点は炎よ」
なるほど。この世界に詳しいというのは本当だったか。それにしても、あんな強そうなクマが中の上とは。この世界は案外危険に満ち溢れてるのかもしれないな。
私は女神に言われた通りに、創造魔法を使用する。ふむ、初めてではあるが使い方はなんとなくわかる。私の想像した魔法を具現化するためのスキルのようだ。
「
私の呟きとともに、イメージが現実世界に舞い降りる。ここが現実世界であればだが。
まるでカーネーションのように、真っ赤な炎が花開いた。その炎に包まれ、もがき苦しむデビルベアー。
私が放った初めての魔法は、あっさりと巨大なクマを焼き尽くした。
「なにそのネーミングセンス……」
だが、女神は私がクマを倒したことより、魔法の名前の方が気になっていたようだ。
ここに来る前の私は、感情を取り戻すために、色々なことにチャレンジしていた。花の名前を覚えて、育てたり、匂いを嗅いだこともある。
その時の記憶が残っていたのか、思い浮かんだ花の名前を魔法に使ってみたのだが、女神はお気に召さなかったらしい。
「まあいいわ。ほら、デビルベアーが倒れたところに、魔石と爪が落ちてるでしょ。あれを拾っておきなさい。
空間魔法でアイテムボックスでも作って入れておくといいわよ」
女神の言う通り、クマが倒れていたところに燃え残った巨大な爪と黒光りする玉が落ちていた。
空間魔法とやらはよくわからないが、アイテムボックスはなんとなく想像がついた。四次元に繋がるポケットみたいなものだろう。
「
私はアイテムボックスの魔法を創造し、爪と魔石を放り込んだ。
「なにそのお道具箱みたいな安易な名前。あんた、これからもいちいち魔法に花の名前つけるの?」
「私は感情を取り戻すためなら、なんでもするつもりだ」
「それのどこが感情を取り戻すのに繋がるのかわ全くわからないけど、あなたが納得してるなら何も言わないわ。でも、あたしはやめておいた方がいいって忠告したからね」
ふむ、残念なことにこの名前のよさは、ちびっ子女神には伝わらなかったようだ。
「さっ、それを持って街に行くわよ! 冒険者ギルドで売って、お金を手に入れたら目立たない服を買うのよ。
あんたもあたしも、この世界では目立つ格好をしてるからね。余計なトラブルには巻き込まれたくないでしょ? 黙ってあたしに着いてきて!」
この話は終わりとばかりに話題を変えてきた女神は、街の方向がわかっているのか、どんどん先へと進んでいく。私が慌ててついていくと、くるっと振り返ってこう言った。
「これから一緒に行動するなら、名前がないと不便ね。あんたは南条快だから『カイ』って呼ぶわね。あたしのことは……『チョコ』って呼んで!」
私のネーミングセンスをバカにした割には、おかしな名前を提示してきた。が、大人である私はあえて突っ込むことはしない。
こうして、異世界にで私の第二の人生が始まった。小さな女神付きで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます