第1話とある前線地域の傭兵の覚醒

「…あれ、おかしいぞ?

俺は前線に近い街にいるはずだ。傭兵としてここに来たはずだ。

依頼も受けて報酬も受け取っているし、昨日も狙撃の依頼をこなしたばかりだぞ?

なのに何故、自分がどこにいるのか分からねぇなんて思ったんだ?」


まだ機能している街の宿の部屋で一人の男がそう独り言を始めている。

依頼の為にしばらく滞在していたから前線と付近の街に馴染んでいた上に、多少は安全な寝床にいるはずが急に自分の周り全てに違和感を覚えたのだ。


「マズイな、こんな状態で戦場を歩けねぇわ。ひとまず一番安全な日本まで撤退するか。

幸いと言っていいか分からんが、依頼は全て消化済みで拘束は無くなってるし」


そうと決めたら飛行機の予約を入れて明日の朝に街を出る事に。

空港のある街はさらに安全な距離にある街にあるので、移動はもちろん車。

やる事終わったら早朝に動けるよう早めに寝ておこう。


早朝荷物の確認をしたら荷物ごと宿の食堂に入って、有料の朝食で腹を満たし足早にチェックアウトして宿を出る。

宿の駐車場にレンタルした武骨な車の扉を開けて、前線に持ち込んでいた荷物は全て後ろに放り込んで運転席に乗り込んだ。

ある事をしたいが人目のある街ではやりづらいので、出来る限り早く街を出たいのだ。


ようやく街を出て車を止めても怪しまれなさそうな場所を見つけると、すかさず駐車し荷物を放り込む前から隠しておいた変装道具一式を引っ張り出す。

このままガチガチな傭兵スタイルで戻るのは足がつきやすいと言う判断からの変装だ。

変装に必要な服も何着か引っ張り出すと、この治安の悪い状況に相応しい別の職業の男が着る服装に着替える。

着替えると用意した身分証に合わせた髪型や顔つきに変え、場に比較的相応しいと思われる戦場カメラマンの商売道具を変装小道具として装備した。


実はこの前線に行く時に車借りた時は戦場カメラマンの姿と身分証で借りたのだ。

なので必然的に返しに行くにしても、その姿に戻らないといけないのだ。


「あ〜、あー…んんっ、声はこの感じですかな?

少し腰の低い話し方だったはずですが、行く時にしか演じてなかった分ハッキリとは覚えてないんですよねぇ。

僕は戦場カメラマンの山下、護身に銃を持っている銃が扱えるだけのカメラマンだ、と」


再び運転席に乗り込んで運転をしながら、声や話し方の調整を繰り返す。

もちろん背景も今の荷物の内容を怪しまれないよう、改めて設定を作りこんでいく。

この名前も偽名、傭兵の時も偽名で受けている。その分、その偽名に合わせた設定を用意しないとボロ出やすくなるから、ある程度パターンはストックしているのだ。

傭兵家業する時とかな?

車を返した後もまた姿を変える予定なので、大きなスーツケースに銃以外の装備や変装関係一式を詰め込んで、誤魔化す予定である。

銃は当然銃ケースに入れてるので、次の変装になった時それっぽい理由を作って持って帰るつもりでいる。


今の時代は少し傭兵に優しいシステムと制度が出来ていて、武器の空輸が楽になって助かるな。

昔の日本じゃ考えられないだろうよ。


さて、久しぶりの日本に着いたら思いっくそ羽伸ばすかね。

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