ネット長文!
伊藤テル
【01 竜胆瑞華】
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・【01 竜胆瑞華】
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思考もとい反芻が好きだ。
いつも自分が今していることなどを頭の中で考えながら行動している。
とは言え、大体の人も多かれ少なかれやっているもんじゃないの?
いやまあ人に聞いたことなんてないし、聞く相手もいないからアレだけども。
私は自分で昨日の夜に用意した制服を着て、高校に向かう。
アクセスは抜群で、歩いて三分のところに高校がある。
一人暮らしはやっぱり高校とスーパーの近間が一番良い。
岩屋のおばさんもその辺の理解がある人で良かった。そしてお金持ちで良かった。だからまあ私のことを引き取ってくれたんだけどもね。
私の本当の両親は両者駆け落ちという一歩も引かないバトルを演じ(考え方によっては両者共々万歩引いていなくなり)岩屋のおばさんに引き取ってもらった。
岩屋のおばさんはとにかくお金があるので、私の要望を全てすんなり通してくれた。
岩屋のおばさんは常々「大富豪の不倫ほどお金になることはない」と言っていたので、多分そういうことなんだと思う。何この浮気され家系。
というわけでいつもの反芻も終わったところで(今日は『万歩引いていなくなり』というワードを新しく追加できた)家を出よう。
外は腹立たしいほど天気が良くて、多分すごいバカなヤツらが異性を巡って青空の下で相撲取ってんだと思う。
テレビとか見てても、アホな祭りをする日ほど晴天が広がっているからそういうことだと思う。
五月晴れというヤツなのかもしれないが、正確な五月晴れというものは知らないので、使わないこととする。
徐々に木々から新緑が芽吹き、風も爽やかながら、私は別に気分が良いわけではない。
THE・国道沿い近くの住宅街といった道を歩けば、同じ制服を着た女子高生or学ランの高校生がいる。
でも私と関わり合いを持っている人はいない。私、友達いないし、いらないし、一方的にお金が欲しい。
だって岩屋のおばさんに少しくらいは返金したいから、借りっぱなしってちょっと嫌じゃん。
と思いつつも、全然バイトで稼ごうとは思わない。はした金だから。
どうせ大人になれば死にたくなるほど仕事をするんだろうから、こんな自由に人生を謳歌できる時間は好き勝手生きていたい。
そんなことをいつも通り思考していると、
《誰にしようかな》
どこからともなく聞こえた謎の震えた声に一瞬ビクンとなってしまった。
でも周りを見渡しても、そんなことを言いそうな人はいない。
ほとんどは黙って一人で通学し、何人かは会話しながら歩いているが、さっき聞こえたような、背筋が凍りそうになるような、この世のモノじゃないような声ではない。
でもまあ私には関係無いことだと思った。
こういう何かが起きそうな感覚とは、私のような陰キャには無縁だと思ったから。
めっちゃ陽キャが主人公みたいな人生を歩むんだと思う。
校門をくぐり、玄関で履き替えて、教室に着いたらすぐにスマホを取り出して、家で見ていたタイムマシーン3号のユーチューブの続きを見始めた。
このあとラジコでサンドリ聴かないといけないし、今日も私は忙しい。
それにしてもイヤホンを付けていても、やっぱり教室はうるさいもので。
タイムマシーン3号の山本が全部ツッコんでいるなら、面白いだろうけども、つまんないボケの垂れ流し。
周りを有吉がやるようにイジる(有吉のような才能は無い)スクールカースト丸出しのヤツのおもんなさといったら、最低最悪、露悪的、音楽雑誌の露悪的インタビューばりの不快感。
コイツら全員オリンピックには関われないだろうな、と思っているとチャイムが鳴ってホームルームに。
小林賢太郎様のような教師なら、めっちゃ恋するのに、と思いながら、ハヤシセンの話を聞いていた。いやハヤシセンも別に悪くないけども、小林賢太郎様から比べたらね。
まあ小林賢太郎様はもう表舞台から去ってしまってるし、あんなことが無ければ、あんな露悪的掘り起こしが無ければ、そもそもあれは……やめよう、この反芻は、自分で自分の気持ちを落とす行為だ。
ホームルーム終わったら、またすぐタイムマシーン3号の最後のくだり見て、テンション上げよう、と思ったその時だった。
一瞬、校門前で聞いた声のような気配を後ろに感じた。
声のような気配って変だけども、そう思ってしまった。
もしかすると、さっきのヤツが教室に来ている? 来ているというか何も見えないし、もしや幽霊? 怪異? マジでヤバイ。
こんなかのスクールカースト丸出しに憑りついて、めっちゃ少年漫画みたいなことするって感じ?
うわぁ、もっとソイツ、調子に乗るじゃん、最悪。
せめてラッキースケベ要員にならないように、スカートの丈、ちょっと長くしとくかな。
可愛いから短めにしていたけども、そんなことも言ってられないかもしれない。
不穏な空気は無くなってくれぇ!
そんなことを願いながら、授業は進行していった。
体育というかなりだるい授業も無く、全編教室なので、それは楽だけども、あの気配がずっとこの教室に漂っているようで、それならば体育あっても良かったのに、とか思った。
昼休み、私は速攻購買に行って、パン買って、グラウンドの丘っぽいところで食べた。
アホ・ハイキングみたいになってしまっているが、あの気配のする教室には居たくなかった。
五月の心地良い風が肌に触れる。
これから暑くなるの嫌だなぁ、という思いを想起させる日差し。
揺れる木々の音は嫌いじゃない。この音が聞こえるということは穏やかという印だから。
両親はいつも喧嘩していた。ウッツァシの応酬だった。福島弁でうるさいという意味だ。
あんなに嫌だったウッツァシは私の口癖になってしまった。それくらいずっと聞いていたということだろう。
心の中で思考できている時はまだ冷静なので、出ないけども、咄嗟に声を出す時は結構ウッツァシを言っちゃう。
ここ新潟県だから、福島弁は誰も分からないわけで、本当は出したくない。
いやいい、いやいい、福島時代の話を考えることは止めよう。暗くなる。
サンドリ聴いて笑おう。有吉は勿論、ゲスナーのハガキ面白過ぎるから。新座の門ネタが無くなったのは寂しいけども。新座の門も思い出すと悲しくなるなぁ、やめやめ。
私の前方ではサッカー部じゃないのにサッカーしている男子がハシャイでいる。
うちの高校は全てが中肉中背……いや中肉中背じゃなくて、脳が一瞬バグった、うちの高校は全てが平均的な高校なので、学業も部活も普通。
よって部活は部活によって昼練したりしなかったり。サッカー部はモテ至上主義らしいので、昼練なんてしない。
だからあの連中は純粋なるサッカー好きだ。全然サッカー部よりもサッカー好きだと思う。
いやサッカー部のことに想いを馳せる必要は無くて。もっとサンドリに集中しよう。
サンドリ聴いて、パン食って、それなりに見応えのある素人サッカーを見て、結構有意義な昼休みを過ごした。
教室に戻ると、あの嫌な気配はしなくなっていて、ホッと胸をなで下ろした。
素人サッカーってドリブルし過ぎだろ、と思いつつ、また午後からの授業を受けた。
六限目の終わり頃だった。
なんと、またあの気持ち悪い気配を感じたのだ。
なんだ、なんだ、全クラス吟味した結果、この教室にいる誰かにロックオンしたということか?
怖過ぎる、何なんだ一体、私はホームルームが終わるとダッシュで教室から出て行った。
単純に巻き込まれたくない、そんな気持ちだった。
週刊少年ジャンプの第一話は、学校にずっと残っていた人に悪が憑りついて、善に憑りつかれた高校生が悪に立ち向かう。
その悪側になりたくなくて、私は走って逃げた。
絶対私って悪側になると思うから。
言うてもこの世に不満あるし、クラスメイトから若干無視されているのも何か腹立つし。
いやでも何でいちいちテメェらのインスタにいいね押さないといけないんだよと思うし、その反発心が絶対悪を引き寄せるし。
私は自分の家に逃げ込み、鍵を掛けて、すぐにスマホをスピーカーに接続して大音量で音楽を流し始めた。
KICK THE CAN CREWの最新アルバム。
全盛期の世代じゃないけども、ずっとKREVAのファンで(KREVAは小林賢太郎様と仲良かったし)その流れで聞いたらいい感じって感じで。
有吉eeeeにMCU出てて面白かったし、LITTLEは正直よく分からないけども、押韻量がすごくて今や一番好きだ。
昔はRIPSLYMEと対をなしたんだ、みたいなことを岩屋のおばさんが言っていたけども、アイツらはイジメがあったらしいし、そっち好きにならなくて良かったと思っている。
私は嫌なことがあったら、爆音を流して、部屋で好き勝手に踊ってストレスを発散する。
そう、典型的な”一人の時が一番テンション上がるほう”なのだ。
いっぱい踊って汗かいたら、冷蔵庫のファンタ飲んで、シャワー浴びて、サンドリの続き聞こうと思ったその時だった。
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