Name

遠藤弘也

name

 同じ学年に明らかに17歳ではない見た目の幼稚園児みたいな女子がいることは知ってたけど、「1軍にいる控えめなやつ」の俺が関わることはないと思っていた。


 文化祭準備でたまたま2人になった時に、ハサミが欲しくて呼びかけた。

 「北山さん、ハサミ取ってくれん?」

 「北山じゃない!!このこ!!」

なぜ初対面の俺に下の名前を呼んで欲しいのかなんてわかるわけないから、もちろん反論した。

 「俺は苗字で呼ぶ派やで」

 「このこだから!!このこって呼んで!」

 「女子のこと下で呼んだことないからむ

りですね」

強く言ったつもりは1ミリもなかったけど、どんどん北山の目が赤く潤っていった。

 「このこなのー!!北山じゃなくって!!このなのーー!!!」

見た目通り幼稚園児みたいに泣き喚く声は廊下まで聞こえていたみたいだ。

 「岡田、なにこのこちゃん泣かしてんの」

 「いや、このこって呼べって泣いてるんやけど、急に呼べねぇだろ」

 「このこちゃんはみんなに下の名前で呼んで欲しいんだよ。呼んであげて」

 「はぁ、、、」

北山を見ると、泣き疲れたのか少し咳をして、苦しそうだった。

 「わかったよ。でも1つ条件。このこは俺のこと岡田って呼べ」

 「わかった!!岡田ね!」

あんなに泣いてたのに、一瞬で顔に花が咲いて、不覚にも可愛いと思ってしまった。



 それから毎日2人で文化祭準備を進めていくようになって、相当仲良くなった。2人で映画も見にいったし、ボーリングにも行った。

 文化祭当日、このこを花火に誘った。花火の時に告白しようかとも考えたけど、さすがに早すぎるかぁと思ってやめた。まず、このこに恋愛感情があるのかさえあやしい。


 19時。待ち合わせ時間ぴったりに浴衣姿で走ってきた。

 「浴衣で走るな。転ぶぞ」

 「えへへ。似合ってるでしょ?」

 「まぁ、可愛いんじゃない」

金魚柄の浴衣に校舎からの光が当たって、すごく映えた。そうだ、このこに聞きたいことがあったんだ。

 「なぁ。なんでこのこって呼んで欲しいんや?」

 「急だねぇ」

このこは、俺を見上げながら答えた。

 「このこ、お父さんが5回変わってて、そのたんびに苗字が変わるから、嫌になっちゃったの。名前は一生変わらないでしょ?」

 「そうなんや、、」

反応の仕方がわからなくって、少し戸惑った。

 「岡田はなんで、岡田って呼んで欲しいの?」

 「うーん」

言うか迷ったけど、昔のことだしいいか。

 「幼稚園の時に好きな子がおって、ちょっとこのこに似てるんやけど、その子の苗字が岡田だったんやって。名前は忘れちゃったな。苗字が一緒だから、私たちパパとママだね!って言ってて、今でも苗字が気に入ってるやってな。」

 「めっちゃいい話じゃん!」

 「やろ?」

 「あ!そ・う・い・え・ば!!」

このこはにっこにこの笑顔を俺に見せながら言った。

 「私、2人目のお父さんの時は岡田だったんだって!」

 「へー。じゃあ俺と結婚したら戻るやん」

 「岡田と結婚かぁ、家事できなさそう」

 「このこには言われたくないわ」


言い終わった瞬間、花火が上がった。花火を掴みにいくかのように飛び上がってはしゃぐこのこが、世界一可愛く思えた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Name 遠藤弘也 @tatadandan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画