クリスマスの彼女

紙の妖精さん

第1話

紬央は街の小さなレコードショップにいた。店内はクリスマスソングが流れ、外の賑やかな街の音と混ざり合っている。彼女は視聴機にヘッドホンを当てて、試聴用のCDを聞いていた。目を閉じると、ギターの音色に明るいボーカルが重なり、軽快なリズムが耳に飛び込んでくる。


その曲は「クリスマスの恋」を歌ったものだった。歌詞は少し皮肉が効いていて、恋人との別れの夜を笑い飛ばし、楽しいクリスマスを一人でも過ごそうというメッセージを明るいメロディーに乗せている。


紬央は、どこかその曲に惹かれた。

「これ、いいな…」ヘッドホンを外しながら、彼女は呟く。


思い浮かべたのは、最近元気のない葉綾だった。葉綾は、つい最近お見合いが失敗したとぼやいていた。相手が少し高圧的で、話も噛み合わず、結局うまくいかなかったらしい。それを気にしているのか、葉綾の顔にはどこか影があった。


「これ、葉綾にプレゼントしようかな。」

紬央は、レコードショップの店員に声をかけると、そのCDを手に取った。


「クリスマスにはぴったりだよね。」

レジに向かう途中、ガラス張りの店の窓から外を覗くと、キラキラと輝くイルミネーションが見えた。寒そうに行き交う人々を見ながら、紬央は少しだけ胸が温かくなった。


店を出ると、薄い白い息が吐き出される。CDをバッグにしまい込みながら、紬央は「これで少しは葉綾も元気になるかな」と期待を込めて歩き出した。


「クリスマスプレゼントなんて久しぶりだな。」

紬央は少し跳ねるような足取りで、夜の街を進んでいった。街角には、もっと高価なプレゼントを買おうとする大人たちや、友達同士で楽しげに笑う学生の姿が見える。


その光景を眺めながら、紬央はふと葉綾の優しい微笑みを思い浮かべた。紬央を、ささやかなプレゼントで少しでも元気づけられたら――それだけで今年のクリスマスは特別なものになるだろうと感じていた。


(つづく)


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