いま、僕はまだ異世界のことを知らない

oyuyu

第1話 何も知らない世界で

 魔素で包まれた大図書館に置いてある本にはこう書かれている。

 とある青年がいた。

 彼は黒髪と黒い目、優しい口調と少しの常識知らず、仲間と自分のために最後まで戦ったのだと。

 そしてそれを世界は「子守の死神」と呼んだ。


2024年12月7日18時30分。

 普通の男子高校2年生である僕は、部活終わりに駅から家へとひとけのない道を歩いていた。

 寒いと思いながらも手袋はつけないくらいの気温、秋が終わりに向かい、冬が近づいていた。

「ちょっとそこの君いいかな…」

 体格のいい男の人が話しかけてきた。身長は2m位あるだろう。服はボロボロだが、体はしっかりと鍛えている様子だ。そして、少し焦っているのか早口だ。

「どうかしましたか?」

 僕がそう聞くと男の人は泣きながら僕の手を握り力強く放り投げた。

「すまない」

 知らない男の人は呟いた。

 僕は状況がわからないままそ道路に強く頭をぶつけた意識を失った。

 

 ……そして、目が覚めると僕は知らない森の中にいたのだった。


 はぁ……

 大きいため息をついて、学校のバッグの中に入っていた日記を閉じる。

 なんやかんやあって僕は、森の中にぽつんとある一軒家にいた。目が覚めた後、僕はこの家の主さんに拾われた。つまり今の僕は家への帰り方も分からない迷子の高校生ということである。


 軽くドアをノックした後、紅色の髪をした、同い年くらいの女の子が入ってきた。

 「ごめんね。狭い部屋で」

 「いえいえ、とてもいい部屋ですよ、貸してくださりありがとうございます」

 この人が僕に部屋を貸してくれたミナさんだ。

「今日はもう遅いから泊まっていってね、そういえば名前を聞いてなかったわ、名前はなんていうの?」

「僕の名前は水無瀬優雅みなせ ゆうがです。今日はよろしくお願いします」

 この時の僕はまだ知らなかった。

 この世界は僕がさっきまで暮らしていた世界ではないことを。


????年??月??日11時20分。

 僕はお昼ご飯前の日の差す森を散歩していた。

 昨日はあの後、お風呂にも入れてもらって暖かい布団の中でぐっすり寝た。朝ごはんも食べさせてもらって昼ごはんも食べさせてくれるらしい。

 そして朝の散歩をしていたというわけだ。

……どうしたものかな

 実は昨日からスマホが圏外になってしまっているのだ。しかも、ミナさんに電話をしたいと頼んだのだが、

「電話?電話って誰かの名前?」

 そう、ミナさんは電話を知らなかった。しかもあの家にはテレビもなく、まともな家電もなかった。

 頭を抱えながらも僕は、あの人は他人からは離れた生活をしているということにして、僕は他の家を探していると言うわけだ。


「…ただいまです」

 結果は家1つもなく、コンビニや自販機もなかった。

「あら、おかえり!お昼ご飯できてるよ」

「すみません、図々しいお願いになってしまうのですが…」

 とりあえず僕は、ミナさんに頼んで帰れる見立てが出るまでは居候させてもらえることになった。

「そういえば、周りには誰も住んでいないんですね」

 疑問に思ったため聞いてみることにした。

「森の奥の方だからねここは、でもこの森を抜けた先に村があるのよ。」

「村ですか…」

 村に行けば連絡手段があるかもしれない。もしかしたら家まで送ってくれるかも…

「うーん、でも村に行くのは難しいと思うわよ、なんだって今は魔女の亡月だからね」

 魔女の亡月……?どういうことだろうか?

「魔女の亡月ってなんですか?」

「なんで知らないのにこの森にいたのよ…この森は昔ここで死んだ魔女の呪いによって死んだ月、この月から数ヶ月間は森が夜中、霧で包まれるから迷ってしまうの…」

 魔女?呪い?知らない単語ばかりだ…

「すみません…よくわかってないのですが…」

「まぁつまりね、ここの森を抜けるならあとだいたい2カ月後、春になったら抜けれると思うよ」

 ……だめだわからない単語が多すぎる。

 色々聞くしか無い……

「まず魔女ってなんですか?」

「えっ!君、魔女を知らないの?なんで?」

「なんでって…魔女って魔法使いの女の人のことですよね?そもそも魔女はファンタジーの…」

「……?まずね、魔女は、魔法使いの女の人ってのは少し違うわ…魔女っていうのは魔族の禁忌を犯した魔法使いのことだわ。君の魔女の認識だと私も魔女になってしまう」

………だめだ、ついていけない、わからない、この人嘘だとは思えない、もしかしたら本当のことなのだろうか…

「すみません、全然わからないです…そもそも魔法が使えるのですか?」

「逆に君は魔法が使えないの?魔法使いは魔法を中心に戦う人のことで、魔法は誰でも使えるはずよ?」

 そう言うとミナさんは手を出した。


「私の魔力よ。……照らせ!」


 その瞬間ミナさんの手が眩しく光る。

 僕は開いた口が塞がらなかった。僕の開いた口より先に話し始めたのはミナさんだった。

「この魔法は、光属性魔法の基本だよ」

……?光属性ってゲームのことか?

「あっ、わかった!君って見た感じ魔法も初めて見たって感じだし…もしかして君…優雅くんは別の世界から来た人、異世界人なんじゃないかな…?」


異世界人………?


「わかりやすいように説明するね。ここは君がいた世界とは別の世界で、君は何かしらの理由でここに来てしまったんだよ。確証はもてないけど君がいた世界は、魔法がない世界。言い換えるなら無魔の世界だよ。そしてここは有魔の世界……」

「つまりは剣と魔法の世界だよ」

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