love you nana ー毒に侵されたとしてもー

@iori_kanzaki

第1話 死に目

「おぇ、気持ち悪。」

時刻は11時。朝方までの酒が祟ってか、眠りについたもののすぐに目が覚めてしまう。

酒飲むと低血糖なるからか?とかそんなことぼんやりした頭で考えてる。

「昨日来てくれたお客さんに連絡しなきゃっと」そんな独り言をつぶやきながらLINEを開いた。

やたらとたまった通知を見てうんざりする。テキトーに上から開いていく。なんてことない客とのLINEだ。

高校生活は四年目に入った。でもうちは定時制高校で別に珍しいことじゃない。

問題なのはこのバイトだ。

18歳になってすぐ夜のバイトの面接を受けた。

本来高校生は水商売の世界には入れない。でも金のために保険証で身分をごまかして入った。

毎日毎日学校にも行かず働いている。すべては金のためと言い聞かせて、気持ち悪い客の相手をし毎日来るどうでもいいLINEをさばいている。

二日酔いの頭を抱えて順番に返信していく。

その中には珍しく妹からのものもあった。


「おばあちゃんが死んだ。今すぐ帰れ。」


妹からのメッセージに息が詰まった。

「は・・・?」間抜けな声が出る。

きっとこれは質の悪い冗談だろう。

半信半疑で着信履歴を開く。

父親からも数件の着信が入っていた。

死んだ?死んだわけない。あのくそばばあが死ぬわけない。ガンガンと痛む頭を無理やり働かせて、10分で荷物をまとめてタクシーに乗り込む。ここからだとどんなに急いでも1時間半はかかる。いつか、いつかはこんな日が来ると思っていた。でもおかしい。早すぎる。認知症ではあったがあのばばあはまだ死ぬ段階じゃない。老衰?ありえない。なぜ?なんで?疑問ばかりが頭を埋め尽くす。

あの日夜のバイトに行く前は、歩けていた。行ってきますって言ったら、今日も帰ってこないのかい?と寂しそうにしてた。あれが最後なの?勝手に死んでんじゃねぇよクソばばあ。自然と涙があふれてくる。

まだ恨みは晴らしていない。

幼いころはしつけという名の虐待を父親と祖母、親戚から受けて育った。離婚した母親にそっくりだと。さっさと消えろと。殴るけるは当たり前。でも。

それはばばあの介護度が要支援1から要介護2になったときには変わっていた。指定難病を患いながらもばばあは家事は自分で行っていた。しかしある日買い物に一人で出かけ転んで手を骨折してしまった。病院でワイヤーを入れ動かさないようにと言われたが命にかかわるものではなく、数週間後に病院に様子を見せることと服薬での経過観察にとどまった。

しかし、ギプスをつけてから1週間後しきりにかゆがるようになった。見てみると手が紫色になっていて壊死しかけている。父に病院に連れて行けと私から頼むが父の返事は無情だった。

「てめぇが医者の言うこと聞かねぇからだろ。それくらい自分でどうにかしろよ。」

そう、父にはもう母親ではなくただの厄介な老人としか思えていなかったのだ。

結局病院に連れていけないまま二週間後、熱を出し起き上がることもできなくなり、行政の介入により救急搬送されることとなった。

この日から祖母を守れるのは私しかいなくなった。

祖母が入院している間、父の機嫌は最初こそよかった。しかし一週間たつ頃には標的は私に移り、私は嫌気がさしてまた家から逃げ出した。






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